一次選考……それは深い闇

 あるところに、小説新人賞に応募し、一次選考で落選した人がいました。

 翌年、彼は同じ賞に、前年に落選した作品を申し訳程度の加筆をして応募しました。

 結果、彼は受賞に至ったのでした。めでたしめでたし。


 笑い話――のような、背筋も凍る本当にあった怖い話です。

 これは同じ賞に送って受賞したという極端な(実)例ですが、一次落ちしたものを改稿、あるいはそのまま他の賞に送って受賞した例は結構な数あります。

 なぜこのようなことが起こるのか? カテゴリーエラー(それについてはまた別項で)は別にすると、考えられるのは、一次選考の曖昧さです。

 現在では、「一次選考は運」というのが通説になりつつあります。

 まあ、受賞した人たちの証言を聞いていれば、これには信憑性が出てきます。

 一次選考では、基本的に下読みと呼ばれる人たちが審査をします。そこらの学生にバイトをさせるのではなく、プロ作家や批評家といった人たちがきちんと読みます。あらすじや冒頭数ページだけ読んでポイということはしません。最初から最後まで読んで、通過させるものを選びます。

 この自分の作品を読むことになる下読みという一人の、言ってしまえば好みによって一次選考は決まってしまうことになります。

 勿論下読みもプロですから、客観的に評価しようとはするでしょう。しかし、小説というものの面白さは、はっきり言って個人の好みに大きく左右されるものです。

 百人が百人面白いと絶賛する小説を書くことは、どんな天才にも不可能です。

 これは規模をもっと小さくしても同じことが言えます。下読みが不可とした作品が別の機会に受賞するという実例がある時点で、自明の理であると言えるでしょう。

 ちなみに、下読みを雇わない賞というのも勿論存在します。それを大きく宣伝しているものもあれば、関係者の発言を見ればわかるものの公言していない賞もあります。


 ということは! 一次落選したのは下読みに見る目がなかったから! やっぱり自分の作品は傑作! なーんて思った人、甘えるんじゃねえええ!


 はい、基本的に一次落選は、単純に自分の実力不足が原因です。冷静な目で自分の作品を見るには、どうしても時間が必要です。まずは落ち着いて、自分の作品の駄目なところ受け止めましょう。

 そうして自分の作品を冷静に評価できるようになったら、使い回しを考えることも有効です。

 とはいえ、やっぱり運の要素はどうしても絡みます。諦めきれないという人はとにかく他の賞に送りまくってみるのも手でしょう。それで落ちまくり、現実を知れるのですから……。

 注意すべき点として、当然ですが、二重応募は違反行為になります。

 二重応募というのは、ある賞に応募中に、同じ原稿を他の賞にも送ることです。下手をするとデビューの道が途絶える、絶対にやってはいけない行為です。

 その賞の結果発表――途中経過で落選が判明した時点――のあとなら、基本的に他の賞に使い回すことができます。


 そんなわけで、一次選考に落選したからといって、自分が完全否定されたなどとは思わないようにしましょう。それで才能がないと判断して早々に筆を折るなんていう人を、情弱と言います。

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