第5話 手紙

 十五センチの紙は最後に見ろ。


 こんな回りくどいことをしてすまない。スマホの画面には入りきる気がしなくて、スマホではこれの隠し場所を教えるだけにすることにした。


 俺は、お前に感謝している。きっと俺は、認めてほしかったのだ。俺が、僕ではなく俺であることを認めてほしかった。俺は、自分だけはそのことを理解していると思っていたが、本当のところは違っていたのだと思う。


 俺はきっと、俺が俺であることを、認めることができていなかった。


 だから感謝する。お前のあのたとえ話は、俺が俺を認める理由になった。お前が俺の絵柄を気に入っていると言ってくれたことで、俺は俺でいていいんだと思えた。


 記憶を取り戻すのに、必要なものはそろっていたのだと思う。写真に、思い出話に、本来の自分の性格。あと足りなかったのは、俺が俺であると認めることだったのだと思う。

 おまえがくれたあの十五センチの紙を見るたびに、記憶がよみがえりそうになるんだ。それが俺に底知れぬ恐怖を覚えさせて、俺はそれを否定しようとしてしまった。でも、お前の話を聞いて、それで、覚悟を決めたよ。


 ずっと前からこうするつもりだった。俺は、俺が消えてしまうことをなんとなく本能的に理解していた。だから、最後のときには、俺がいた証でも残してやろうと、漠然とそう思っていた。


 幸せになってとお前は俺に言ったな。俺は幸せになってやるよ。証があるなら、きっと消えても幸せだ。それをきっとお前と僕は残してくれると信じている。


 幸せを願ってやると俺はお前に言ったな。だから、俺はこの手紙を書いてるんだ。お前はビビりすぎなんだと思う。少なくとも俺から見たお前は、魅力的な女性ってやつだと思うぞ。


 俺は、お前の賭けを手伝ったりはしない。こういうことを伝えられたと書き置くことはしない。むしろ積極的に消えてやる。


 絵柄の違う十五センチの紙は、やっぱり、存在するべきじゃない。


 だから、さよならだ。俺は消える。


 ああ、俺が背中を押したからって、失敗しても恨まないでくれよ? 俺のこれはそれこそ、一種の自己満足ってやつだ。まあ、成功することを祈ってるよ。




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