第16話 『ショウ、おめえホントに気が小せえな!』


 途中リコと別れたシゲルは上機嫌でマンションに戻って来た。



 ショウは床に寝っ転がって大いびきをかきながら絨毯じゅうたんの一部と化している。


 その横のお膳では、アキヒコがカップラーメンをすすりながらテレビのバラエティ番組を眺めていた。テレビからは相変わらずのひな壇芸人のクダラないツッコミフレーズが流れ、それを見たアキヒコは『ギャハハ、そんな事ぁねえってのよ!』とさらにツッコミを入れている。


 部屋に入って来たシゲルを見上げたアキヒコは、ラーメンをすすのをやめ、


「おう、んでどうだったよ? またなんかウメエもんでも食わしてもらって来たんでねえの?」

「んなこたねえよ。今日はちゃんとビジネスの話だぜ、ビジネスの! ホレ、ショウ起きれ!」


 シゲルは毛布にくるまったショウを蹴り飛ばすと、先ほどの喫茶店での事を報告し始めた。


「んでよ、かなりいい感じに話して来たぜ。書類も貰ってきて、これにサインしてハンコ押して、金を振り込むと、俺らあのオッさんの会社の運営に関われるんだってよ」

「え? な〜んか話しうま過ぎないっすか?」


 ショウが眠い目をこすりながら、アクビ混じりに聞いた。


「ショウはホントに心配症だよなあ。いい加減目覚めろよな」


 アキヒコが言うとショウは、


「ウ〜ン」


 と相変わらず悩んでいる。シゲルはキレかかり、


「オメエ、いい加減にしろよ! 今までの仕事のアイディアは全部オレ様が考えてやって実行したんだろうが? え? んで、全部うまく行って、オレら今だにパクられてねえじゃんかよ」


 シゲルの言葉にショウは結構ビビっている。


「そ、そりゃそうっすけど...」


「だけどそろそろ潮時しおどきだと思うから、大きな仕事をって、何度も言わせるんじゃねえよ!」


 そう言いながらシゲルはショウを蹴り飛ばした。

 ショウは後ろによろけて壁に手をつき『ドスン』と大きな音をたてた。


「まあまあ、シゲルも抑えて抑えて。な? ショウ、オレら上手くやって来たんだから大丈夫だって。これでオッさんの会社に紛れ込んで、色々頂いたら、ゆっくり遊んで暮らそうぜ! な?!」

「まあそうっすね...」


「とにかくだな、この書類と金を送ってやればいいんだよ。そうすっと最新のナントカってのも貰えるしよ。金の方は払うけど、オレら的にはまだ前の仕事の金が残ってっから当面困る事もねえだろ? え? 違うか?」

「そうだな、シゲルがそう決めたんならそれでいいんじゃねえのか? な、ショウもそう思うだろ?」

「ウィッス...」


「よし、じゃあそれで良いな? あとはリコの手切れ金代わりに声優学校の金50万払ってやる事にしたからな。ま、これは今回の仕事のオレの取り分をオレが勝手に使うんだから、文句ねえよな?」

「随分早い手切れ金でねえ?」

「だってオメエ、これからあのオッさんと仕事してみ? IT なネ~ちゃんに一杯紹介してもらえんだぜ? そん時、リコも一緒じゃまずいでしょうに」

「そらそうだな」


「でも、リコさん可哀想っす...」


 ショウがボソッと言った。


「ショウ、オメエ一番若いのに一番年寄りくせえよな。今の世の中、変わり身の早い奴が勝つんだぜ。昔の女にでも引っかかってちゃダメなんだよ。いいな! これはオレが決めた。んで、オレらの仕事はオレが決めてやってきた、そうだな?」

「ああ」

「ウィッス...」


 アキヒコとショウは答えた。


「だからよ、とにかく明るい未来を語ろうじゃないか! え、諸君よ! オレら IT なんだからよ IT!」

「そ、そうだな」


「でだな、オッさんの会社にサインしてハンコ押したドキュメントを送って、金を送金する。そうすっと何か最新のモンが届いてくっから、オレらはそれを眺めながら祝杯をあげるってわけだ、これが!」

「先輩。ド、ドキュメントってなんすか?」


 ショウが恐る恐る聞くと、シゲルはさっき聞きかじった言葉を偉そうに説明した。


「ドキュメントっつたら要するになんだ、書類だ。書類に名前書き〜の、ハンコ押し〜の、オッさんの会社に送り〜のすると、コントラクトがエスタブリッシュ〜の... んで、オレたちが金持ち〜になり〜のってわけだ。あ? 分かったか?」

「オオ、分かった分かった。何かオレら IT っぽくね?」


「だろ? さ〜て、んじゃ今ドキュメントにサインしてハンコ押すからよ、ショウ、これ速達で出して来いや。んで、前祝いで酒飲もうぜ酒! オラ、ショウ君、お酒が足りませんでございますぜ! ついでに買って来てけろ!」

「わ、分かったっす」


 ショウはそう言うと、玄関のサンダルをつっかけてコンビニに駆け出して行った。

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