桜の切符
いくま
桜の切符
桜は散ってしまった。
春の少しの期間だけ見せてくれるあの花が、私は大好きなのに、今年は終わってしまった。
がっかりしている私を、友人達は不思議に思っている。彼女達にとって桜はSNS映えする道具でしかないらしい。
散りゆくものだとわかっていても、それはどこか悲しい。ひらひらと舞っている桜の花びらを見ると切なくなる。
今年もまた、花びらを拾う。1年に1枚。押し花にしてしおりに挟み込む。小さい頃、桜が散るのが嫌だと泣いた時、母がそうしてくれた。母と私を繋ぐ桜の切符。
母は、離婚して私を父の元へ置いて出て行った。中学に上がった頃だ。それまでは毎年一緒に桜を見に行って、一緒に花びらを拾って、一緒に押し花にした。
桜を見ながら母はいつも言っていた。
あなたの名前は桜の花から名付けたのよ。って
今年も母は、私と同じ桜を見ただろうか。
私のことを思い出してくれただろうか。
友達が呼んでいる。
はーい!と返事をして、私はソメイヨシノの木を後にした。
桜の切符 いくま @kicho_ikuma
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