第八話 図書館
それから僕たちは放課後になると3人で、図書館に集まるようになった。千春は花音のことが苦手と言っていたが、すぐに打ち解けて仲良くなった。花音のいない時に聞いてみたのだが、どうやら花音が人間じゃないらしくて、それが怖かったようだ。僕に本の階段のことをしゃべってしまった時は殺されるんじゃないかと思っていたらしい。考えすぎだ。しかし、そこまで怖がってたのに花音と本の階段の契約をしてしまうとは。千春はそこまでして本が読みたかったのか?本ってそんなに面白いのか?そう思った僕は花音に聞いてみた。
「あの本の階段の図書室なんだが、置いてある本はそんなに面白いのか?」
「ええ、だって私が読んで面白いと思った本しか置いてないからね」
と自信げに話す。
「花音はそんなに本を読むのか?」
僕の何気ない問いかけに花音は急に寂しげな顔になって
「そうね。昔はよく読んではわ」
と答えた。昔と言う単語が気になったが、
花音の切なそうな横顔に、それ以上聞けなくなった。かわりに僕は
「じゃあ、花音のお勧めの本ってなんだ?もちろん今の俺が読めるような本で」
花音は
「そうねぇ」
と少し考えて
「15-324なんてどうかしら」
と答えた。花音はすべての本を図書番号で覚えているらしい。
「って言われてもなぁ」
と俺が困惑していると
「見てくればいいじゃない」
としおりを渡してくれた。
「行ってきていいの?」
俺が聞くと
「もちろん」
と花音が答えた。
「じゃあ行ってくる」
と花音と、横で本を読んでいる千春に言ったのだが、千春のほうは本に夢中でぜんぜん気づいていない。
「大丈夫よ。千春さんには私から言っておくから」
と花音が言うので行くことにした。一人で行くのは初めてだが、やり方は花音と千春に教わっていた。まず、ほしい本の図書番号(これは花音に聞くか、秘密の図書リストを見て探す)そしてその先頭の数字。今回は1だな。これが段数になっているので一段目と書いてある本を開く。そしてしおりを挟んで閉じる。・一瞬にして花音と千春がいない図書室へと移った。次は15の5。5と書かれている本棚を探す。そしてその本棚に324という図書番号の本があるはず。
「あ、これか」
手にとって見るとそれは文庫本だった。千春や花音はいつもハードカバーの厚い本を読んでいるが、今の俺にはこれがちょうどいいってことか。
「えーっとタイトルは『キノの旅』か」
読んで見ると、『キノ』という少女が主人公で、いろいろな国を訪ねて旅をしているようだ。そして訪れる国々で面白い人たちと出会い、また色々な事件に巻き込まれる。『キノ』は拳銃の腕が立つので、どんなピンチもそれで乗り越える。一話完結というやつだろう。一つの話は短いが、それが連なっていてどんどん次の話が読みたくなる。僕はその本を読みながら机のほうへ歩き、椅子に座り、読み続けた。
「翔君!翔君!」
はっと誰かに呼ばれていることに気づいて顔を上げるとそこには千春がいた。
「もう、完全に集中してるんだから。一人で来るなんて、言ってくれればいいのに」
「言っただろ。そのとき本を読むのに集中していて聞いていなかったのはお前のほうだ」
僕が言うと
「あれ、そうだったの?」
と千春は顔を赤らめた。
(花音ったらそんなこと一言も言ってなかったのに)千春の心の声が聞こえるようだった。
「ごめん、すぐ帰ろう」
僕はそう言って読みかけの本を持って千春と図書館へ帰った。すると花音が
「あらあら、もっと二人でゆっくりして来ればよかったのに」
と笑っていた。
ゆっくりもなにも本を読んでいるとその世界に入ってしまう。すぐ横に大事な人がいても、一緒に本の世界に入ることはできない。なんだかそれが僕たちを遠ざけているような気がして切ない気持ちになった。
「もうすぐ下校時刻ね」
花音が言った。
「じゃあもう帰ろうか」
千春が帰り支度を始める。
「そうだ!花音も一緒に帰ろうよ。家はどこ?いつも一人で帰っちゃうから」
確かに花音はいつも一人で帰ってしまう。と言うか、いつの間にかいなくなるといったほうが正しいか。
「そういえば花音の家ってどこなんだよ?」
僕も気になっていたので聞いてみた。
「すぐ近くよ」
花音が答える。
「じゃあ帰りによってもい?」
千春が聞くと花音は困った表情を見せた。花音のこんな顔を見るのは初めてだ。
「まぁ、いいじゃないか。毎日ここで会えるんだし」
僕は千春を諭すように言った。千春はそれを理解したのか
「それもそうだね」
と、それ以上突っ込んでは聞かなかった。結局花音とは学校を出てすぐにわかれた。花音の歩いていく方向には村のシンボルになっている時計塔があった。
(あんな方に家なんかあったかな?)
と思いながらも、深く詮索することはやめにした。花音は普通の人間じゃないような感じもしていたし。それは千春も気づいているようだった。当然と言えば当然だろう。花音との付き合いは俺よりも2年半も長い。だからこそ花音を怖がるような理由があったのか?そんなことを考えていると
「ありがとう翔君」
いきなり例を言われて僕は面食らった。
「花音のこと。翔君がいなかったら私花音のことずっと誤解したままだった」
「でも花音は普通の人間じゃ・・」
「うん、わかってる。そうだよね、花音は私たちとは違う。だから怖かった。すごく。でもあの図書室の本は読みたかった。だから本の階段の契約をした。その結果自分が花音に何かされるんじゃないかと思ってた。それでもあの本が読めて幸せだった。翔君にはまだ分からないかもしれないけど、あの図書室にある本はとても良い本ばかりなの。名作中の名作と言ってもいいわ。しかもよほど大きな図書館に行かないと無いような本まである。」
「そうなんだ」
と言いながら僕は思った
(本の話になると千春の話は止まらないな)
「だから花音さんにはずっと感謝していた。すばらしい本を読ませてくれて。でも、こんな風に友達になれるなんて思っても見なかった。」
「何でだよ。二人とも本が好きなんだから最初から友達になれなればよかっただろ」
「だから・・怖くて」
「千春って意外と臆病なんだな」
「翔君は怖くなかったの?」
「別に。ちょっと変わってるとは思ってたけど」
「この秘密を知ってからは?」
「やっぱりな、って感じか。人間じゃないならそのほうが納得がいく」
「はぁ・・」
千春がため息をつく。
「私も翔君みたいな性格だったらこんなに苦労しなかったのかな」
「なにが?」
「花音のこと」
と言うと千春は、花音とはじめて出会ったときのことを話してくれた。
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