第17話 初級魔法理論

 「私の研究では、イグニスさんの時代には、魔力を高めることが魔法の修行だった...と考えているんですがどうですか?」

 ニヒルは目を輝かせながら問いかけてきた。


 彼女の問いに対して、僕は答えた。

「それだけではなかったにしろ、それが重要視されていたのは事実だね。」


 それを聞いた彼女は、さらに目を輝かせてまた問いかけてきた。

「分かりました。つまり、イグニスさんは魔力の勉強はあまりしていませんね?」

 

 彼女の言っていることは当たっていた。

「確かに僕は魔力の枷という魔力を鍛えるものや瞑想などの修行がばかりしていたから、勉強はあんまりしていない。」

 

 彼女はやっぱりと言った。

「確かに魔力を高めるのは重要です。確かイグニスさんは魔力の感受性が高いのでしたね?」

 

「僕は魔力の感受性だけは誰にも負けないよ。」

 そう自慢気に言った。

 それを聞いたニヒルは不敵な笑みを浮かべた。


「イグニスさんの時代からずっと後のことですが、魔法理論というものが出来ました。

 その中に、感受性による魔法適正テストというものがありました。

 魔力をコントロールしない状況下で、どれだけ魔力に当てられやすいかで魔力の高さを調べることが出来ます。

 魔力に当てられやすければ当てられやすいほど、高い魔力を保有しているということです。

 つまり、感受性が高ければ高いほど、魔法の才能があるということなんです。」

 彼女は自信満々に言った。


もし、それが本当だとしたら……僕は魔法を使えないわけじゃないのか!?


 そう考えたが、僕は1つ大きな疑問を抱えていた。

「でも、僕は魔法が使えたことがないよ?」

 

 それを聞いた彼女は残念そうで、はたまた嬉しそうな顔をして、

「それが、一番嬉しいことであり、一番の問題なんです。」と言った。

 そして、続けた。

「魔力が高ければ高いほど、魔力をコントロールするのが難しくなります。

 イグニスさんの場合はそれだけではないんですが、魔力の高さだけでも常軌を逸していると言えるでしょう。」

 

 僕はそれを聞いてとても嬉しかったが、同時に不安でもあった。

「つまり、僕は自分の魔力をコントロール出来ていないということなんだね?」

 僕の問いに彼女は頷いた。


「でも大丈夫、いまから魔法理論を教えます。その魔法理論さえ知っていれば、完全にコントロールするには数年かかるでしょうが、少しずつ魔法が使えるようになります。」

 そう言い、僕の持っていた冊子を指差した。


「そこで、そのテストが重要というわけです。」

 にっこりと微笑み、そう説明した。


 僕はその言葉で救われた気がした。

 

……ニヒルには感謝しなければならないな。彼女との約束は守れなかったけど、彼女と同じ場所に立つことができる!


 年甲斐もなくワクワクする気持ちを抑えることが出来ず、そわそわしながら彼女のテストに望むこととなった。


「今回のテストはただのペーパーテストではありません。」

 ニヒルは意味あり気な顔でそう話した。


「普通のペーパーテストじゃないの?」

 僕はそう問い返した。


「そうです。今回はいわゆるヒアリングと言うものです。

 私が魔法理論について説明します。

 でも、ただ聞いているだけではつまらないと思うので、その冊子の後の方に白紙のところがあります。

 そこに私が話したことを書いていって下さい。

 そして、最後に質問タイムを設けます。そこで質問しながらメモをとるというのが今回のテストです。」

 そう彼女は簡単に説明した。


 説明は簡単だったが、書くことがまだまだ駆け出しな俺には、聞きながら書くのはとても難しい。

 でも、それが出来ないようじゃここでの仕事は無理そうだ。


「わかった。なんとかやってみるとするよ。」


 僕は悩んだ末にそう答えた。


 それを聞いたニヒルの顔はどことなく嬉しそうなようにも見えた。



「準備は出来ましたね?では、始めたいと思います。」

 僕の様子を見て、返事を待たずに話し始めた。


「まずは、基本的なことですが魔法は5大元素を利用して使用します。

 五大元素とは、火、水、土、草、金の5つの属性を含みます。

 それらから火を起こしたり、水を飛ばしたりするんです。

 ただ、例外があります。

 霧の悪魔が使った霧の属性、グラキエス様が使った氷の属性は複合魔法と言われる高等魔法です。

 他にも、雷や岩、鋼などがあります。

 これらはその名の通り霧を呼び出したり、氷を呼び出したりすることが出来ます。

 ただ、それだけではなく、複合魔法はそれぞれ特殊な力を持っています。

 霧の魔法では、霧の悪魔が使ったような他人の意識を支配する力があります。

 

 そして、高等魔法にも種類があり、1つは複合魔法、もう1つは表裏魔法です。

 

 表裏魔法には2種類あり、陰と陽、つまり闇魔法と光魔法のことをそう呼びます。

 闇魔法は知っての通り、ゼロの魔女が使ったような人を絶望に陥れるような力を持っているのです。

 ただ、光魔法は今までの歴史の中で使用された記録が残っていません。

 だから、一体どんな力を持っているのかも笑うしかりません。

 一応これが簡単な魔法の種類の説明になります。」

 彼女は長い説明の合間についてこれているかを訪ね、僕が大丈夫だ、というと説明を続けた。



「次は、魔法を使用するための方法になります。

 魔法を使用するためには、先ほど説明した5大元素や闇、光の力を引き出さなければなりません。

 そこで必要となるのが、魔力の感受性です。


 そもそも魔力の感受性とは、長年勘違いされ続けていましたが、魔力を感じるだけの力ではないんです。

 この5大元素を探し出すための感覚でもあるんです。

 イグニスさんは恐らく5大元素を感じていないのではないでしょうか?

 それは、5大元素がどのようなものかを知らないからです。


 五大元素とは時間のようなものなんです。

 知らないと絶対に感じようがないものなんです。」

 

 彼女の言葉に驚いた。


「つまり、五大元素がどのようなものか知れば使えるようになるってこと?」


 彼女は少し不機嫌そうな顔をした。

「質問は最後にって言いましたよね?」


 僕は彼女の不敵な笑に怖気付いた。

「ごめん、もうしないよ。」


 そういうと、彼女は「いえ」というといつものように微笑んだ。

 

「話がそれましたね。

 話を続けます。

 次は、五大元素の力の引き出し方ですが、そこまで難しくはありません。

 感じた元素に魔力を注ぎ込むだけです。

 魔力の放出は慣れるまで時間を要するとは思いますが、大した問題ではありません。

 ここで問題となるのは、魔力のコントロールです。

 魔力を放出して五大元素に注ぎ込むこと自体は簡単なんですが、自分が狙った元素に注ぎ込むのはまた違います。


 魔力をただ放出するだけでは近くにある様々な元素に拡散してしまい、元素一個に対する魔力が不足してしまいます。

 そうなると、元素は魔法にはなりません。

 つまり、魔法を発動させるには、魔力の感受性と魔力のコントロールが重要になります。


 それだけで魔法が発動できるなら、時間をかけて魔力をひたすら鍛えていたイグニスさんはコントロールなどしなくても、圧倒的な魔力で無理やり発動することが出来るはずです。

 つまり、それだけでは出来ないんです。


 魔力において一番重要なことは、魔力の性質をしること、そこで、今までの説明が役に立つのです。

 自分の魔力がどの元素に合っているのかを知るこで魔法を使うことが出来ます。


 簡単ですが、これが初級の魔法理論になります。」

 

 そういうと彼女は息をついた。


 

「ありがとうございます。」

 僕は思わず敬語でお礼をいっていた。


 彼女は嬉しそうに、「どういたしまして」と言った。


「では、今から10分間質問タイムを設けます。」

 ニヒルはそう言った。


 10分は短い、聞きたいことは山ほどあるが、慎重に質問を選んだ。


「まず1つ、僕の時代には魔法理論というものはなかった。だけど魔法を使える人はいた。それはなぜ?」


 いい質問だと言わんばかりに、ニヒルはニヤッとした。

「そうですね、それは簡単です。魔力量が多いことと、複合魔法が使えたということがキーポイントです。

 2元素の複合魔法は複数の元素を使う魔法です。

 だけど、複数の元素を使うということは倍の魔力を必要とすると思われがちですが、実はその反対なんです。

 半分の魔力で魔法を発動出来るんです。

 だから、精度は少し落ちますが、魔法を使えるんです。

 ただ、魔法理論が出来てから、その魔法の使い方は前時代魔法と呼ばれるようになりました。」

 彼女はそう丁寧に回答してくれた。


 時間的に質問出来てもう1つぐらいだった。

 僕はもっと重要なこともあると思ったが、どうしても1番気になっていることを聞いた。


「僕は元素の見つけ方や、魔力のコントロールを覚えると魔法が使えるようになるんだね?」

 

 彼女はその質問に対して「もちろん!」と答えてくれた。


「テストは満点……とまではいきませんが、これなら十分仕事を任せられるレベルです。」

 ニヒルはそう言って大はしゃぎしていた。

 

「さすがに漢字はひどいものだったから、これからも勉強は続けないといけないね。」

 僕は自虐的に言った。


 すると彼女は僕の肩を叩いき、哀れんだような目で僕を見た。

「まあ、人には得手不得手がありますから……。

 でも、きっと大丈夫ですよ……たとえ小学生のような字だとしてもね。」

 

 僕はそう言われ更に肩を落とした。


 彼女は「冗談です。」と溜まった仕事を片付けながら、こちらをみてニコッと微笑んだ。


「今日はもう疲れたでしょうから、仕事はまた明日からです。

 ビシバシ働いてもらいますので覚悟して下さい。」

 そう言うと仕事を中断し、こちらへと向かってきて悪戯にやけ顔をした。


「苦労をおかけします。」

 僕は冗談交じりにそう言った。


 彼女は威張るようなポーズをとった。

「私は社長です。どんどん頼って下さい。」


 そんなこんなしているといつのまにか、時計は7時を指していた。

 彼女と相談し今日は家に帰ることにした。

 ここ1週間の勉強詰めで疲れていた僕だったが、どこまでも気を使ってくれるニヒルと一緒に歩く、ただそれだけで幸せを感じていた。

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