第141話 吸い取りますよ!

「間違えるな……」レイラさんから告げられたその言葉は、何故か俺の心に引っかかって離れなかった。戦略のこと? それとも……他の何かなのか?


「お兄ちゃん、ワイデール先生の話だとシュベルトは、幻術を使うんでしょ。私達の誰かに偽装する可能性もあるんじゃない。間違えないように気をつけなきゃだね」


「そうだな……間違えないように……か」


 レイラの創った空間は、もう元に戻され彼女も再びワイデールへと姿を変えていた。本人曰くもう争い事に関わるのは御免らしく正体は、明かさぬよう俺にも釘を刺していた。


 史上最強の魔女である彼女の力を借りる事が出来ればどんなに心強いことかと思うが、人にも魔族にも偏った立ち位置を持たないレイラの事情もあるのだろう。


 魚のお礼を言うと俺達は、本来の目的地であるバルセイム城へと飛び立った。


「さてと……」


 気持ちを切り替えて行かないと足元をすくわれかねない。今度は、最悪の魔族シュベルトが、確実に出迎えてくれるのだから……




 程なくして見えてくるバルセイムの街は、既にシュベルトの配下の魔族達に取り囲まれ激しい攻撃を受けていた。以前強化した街の外壁もボロボロになり果て今にも崩れ落ちそうな様相を呈している。


「こりゃ、ヤバイよ、タケル!」


 流石にのんびりストのメルにも切迫した状況が伝わっているようだ。


「ああ、何とかしなきゃだな!」


「うん、まず修理代を請求しないとね。領収書の宛名は上様で良いかな?」


 いや、修理の話は後にしようよ、メルさん……


「と、とにかく今は、クラッカル王女の魔力が期待できないんだから俺達でアレを食い止めるしかないんだ」


「わかった! あの上様を蹴散らすんだね!」


 まあある意味シュベルトは、将軍みたいなモノだから的外れでも無いと思うが、メルといるとどうにも気が引き締まらない。


 一旦、離れた場所にワイバーンを降下させバルセイムへと足を走らせる。



 考えてみると大規模な戦闘は、俺達にとって初めてなんだよな。防御特化したバルセイムでは、直接交戦は少ないのだろうが、それでも壁の外側で戦う兵士の姿はあった。


「加勢するぞっ!」


 リンカが、先陣を切って戦線へ飛び込む。その勢いに押されて後に続く俺達。


 シュベルト軍の精鋭魔族達も背後から奇襲を掛けられた形になるのだから動揺を隠せない。

 その隙を突くように次々と魔族を薙ぎ倒していく。


「お兄さま、離れて!」


 アリサは、一気にケリを付けようとしているようだ。雷の召喚獣であるライちゃんを呼び出していた。


「イカヅチ ZENKAI フェスティバルっ!」


 適当だなーっ、ワザの名前っ!

 無数の雷が敵である魔族を次々に貫いて行く。

 こんな技に感電して戦闘不能になる魔族達が少し哀れにさえ思う。


「ライちゃん、頼りになるぜ! あたしも負けてらんないよ! 閃光フラワーファイヤ!」


 メルが、男前のセリフを吐きながら火の玉を撒き散らす。確かに強力な魔法だが一度必殺技のネーミングの件で会議が必要かもしれない……


「ドラゴン・スレイヤー切りーーっ!」


 そのまんまじゃん!

 ドラゴンスレイヤーが嬉しいのは分かるけどちょっとウザいよリンカ!!


 それでもタタタンとドミノ倒しのように倒れていく敵の魔族達。


 と言うか俺のやる事が、あまり無い。


「マシュ、来てくれ!」


 俺は、使い魔であるマシュを呼び出した。こいつは、俺の呼び掛けでいつでも側に現れることが出来るのだ。


「こんにちは、ご主人。何の用かえ?」


 う〜ん、久しぶりの使い魔は、何かの影響を受けていた……


「マ、マシュ、微妙に上から感があるけど何か大丈夫か?」


「いえ、特に変わった事はないでありんすです」


「ええと……実は、頼みたい事があるんだけど」


「がってんです、何なりと申すが良いです」


 何か混ざってるよね、絶対!

 もうアリサの仕業としか思えない。


 人型になっていたマシュは、了解とばかりに敬礼をする。

 久しぶりの任務に興奮しているのか目がキラキラと言うかギラギラしている。


 ま、まあ、ヤル気があるのは悪い事ではない、と思いたい……


「じゃあ、頼みたいんだけど、この辺りにいる魔族の魔力を吸い取って欲しいんだ。根こそぎね」


 さらりと無茶振りをする俺。本当は出来る範囲で構わないんだけどコイツの本気を見てみたかったのだ。


「お任せ下され、ご主人! 造作もない事でありんす」


 アレだな、どうも武士と商人と花魁のミックス的な何かを読んだらしい。ちょっとイラッとするが、出来るのならまあ許せる気はする。出来るならね。


 マシュは、右手の手のひらを魔族の群れに向かって真っ直ぐに差し出した。


「マジック・マニュピレーター!」


 この能力は、マシュのユニークスキルだ。だから詠唱を唱える必要性も無い。


 次々と湧き上がる魔力は、小川のように細くたなびきながらマシュの手のひらへと吸い寄せられていく。


 魔族にとって魔力は、ゲームで言うところのHPにあたる訳だからその効果は、俺の予想通り絶大だった。


 萎れた花のように魔族達は、その場にへたり込み身動きが取れなくなっている。


 一方でマシュの様子は、吸い上げる度にほっぺが膨らみまるでリスか何かのようになっている。


 頃合いだな……


「マシュっ! もう良さそうだぞ!」


 魔力の吸引をやめたマシュは、ドヤ顔を俺に向ける。


「どや!」


 もう言葉にしちゃったよ、この人。


 でもお陰でおおよその魔族は、無力化した為、中に入れそうだ。


「皆んな、街に入るぞ!!」


 バルセイムの街への門は閉ざされていたが、脇に小さな通用口がある。


「すいませーん! 中に入りたいんですけど!」


 中から聞こえる兵士の声


「ダメです!」


 即答かよ! ダメですってお母さんかよ!


「一応ここの隊長やってるタケルなんですけど‼︎」


 俺は、声を張り上げて苛立ちを伝える。敵の頭であるシュベルトの不気味な存在を考えるとあまり悠長に構えている時間は、無いのだ。


「タ、タケル隊長でしたか!? し、しかしここを何人も通すなとクラッカル様のご命令がありまして……」


 クラッカルは、敵が成りすましを使う可能性も配慮してそんな指示を出したのだろう。全く正しい判断だ。


 だが……


「リンカっ!  頼む、時間が無い!」


「がってん承知だっ!」


 お前もかよ! 流行ってんのか、がってん!


 俺の意を理解したリンカは、素早く剣を振るう。


 ガゴゴーーーーーーン!!!!


 剣で破壊されたのは大きい門だった……


「ちょっ、おまっ! 何やってくれてんだよ!!」


「ふふっ、私の力量に驚いたようだな、タケル!」


 そりゃ驚くだろ! こんなの敵でもやんないよ!

 最早城の防御もあったもんじゃない……


 俺は、リンカさんの脳みそとこの後の弁償代に一抹の不安を覚えずにはいられなかった。



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