第110話 宣戦布告
「そんなの危険だよ! お兄ちゃん!」
「それにもしシュベルトが攻めてきたらこの城はどうなるんだ!」
ヒナとリンカの言うことはもっともだと思う。魔王軍のシュベルトの部隊の為にバルセイムにあれだけの防御を施したのだ。魔王城へ行くのであれば危険度は、そんなもんじゃないだろう。
「皆んなに話しておかないといけないんだけど、実はシュベルトは、しばらく攻めて来ないんだ。今朝ドルフィーナさんから連絡の手紙をもらって魔王城で何が起こっているかがわかったんだ」
「どういう事、お兄様?」
アリサが首をかしげる。考えてもシュベルトが攻めてこない理由に思い当たらないようすだった。
「タケルっ、もったいつけないで訳を話してよ」
メルが俺を急かしたが、もともとコイツは自分で考える事なんてしないんだろうな。
「ふう……」
俺は、ポケットからドルフィーナさんにもらった手紙を取り出し皆に示した。
「「「「えっ!」」」」
「なっ! どうした! みんな」
手紙を見た俺の仲間達は一斉に驚きの声を発した。
「それ……『あなたの心の中に咲いた小さな白い花、ドルフィーナ……』って書いてある」
メルが、手紙の裏の差出人を声に出して読み上げた。他の奴らも同様に釘付けになっている。
いやいや、そこじゃないだろ! 大事なとこ!
全くいちいちめんどくさいよ!
「あやしい」
「あやしいな」
「あやしいです」
「呪うよ」
怖いなおい!
「待て待て皆の者、これは本当にドルフィーナさんかどうか確認する為の合言葉みたいなものなんだ」
今適当に考えた苦しい言い訳だが、ちっとも悪くないよね俺!
「なんだ、そうなんだ。いぇい」
なんだよメル、『いぇい』って……
他の仲間達もどうやら一応は納得してくれたようだ。
「ちょっとまって下さい! どうもその説明は腑に落ちないのですが?」
「な、何がおかしいんですか? ホサマンネンさん」
ホサマンネンさんは、アゴに手をあてて考え込むような素振りを見せている。
「そのドルフィーナさんが我が部隊にいたイルカスである事はわかっています。しかし、しかしながら男同士でその暗号は……いや、私の見解が狭いのかもしれません。確かにイルカスは容姿端麗な兵士ではあったのですが……ふう、いやどうもあっははっ、さすが隊長は、懐が広い!」
「いや、ドルフィーナさんは女の人だよ……」
俺の言葉にホサマンネンさんは、たった今気が付いたのだろう、驚きに眼を見開いた。
「えっ! いやいやタケル殿、苦し紛れに何をおっしゃるのかと思えば……ふふっ、女子があのように強いはずが……くくくっ、あるわけがありませ……」
あっ、と思った俺の懸念も間に合わず、ニヤニヤとしたホサマンネンさんの顔は、次の瞬間残像を残して消えた。
「ホサマンネン様、きょうびの女子は弱くは無いのですよ。覚えておいて下さいね」
ニャルロッテによって再び壁にめり込むほどの力でぶっ飛ばされたホサマンネンさんは、ガラガラと崩れる破片と共に床に落ちながら「はひっ……」と小さく返事をしたのだった。
どうやら彼は、ニャルロッテの地雷を踏んじゃったんだね。俺も気を付けようと密かに心に誓った。
しかし兵士達が身に付けた身体強化の魔法は、魔力消費を抑える意味では優秀だけどいまのホサマンネンさんのように不意打ちに弱いという欠点があるよな。少し強化状態を保持するためにはある程度の魔力量を持った者の選抜をしなければいけないな。
俺がそんな事を考えているとヒナがもどかしそうに声をかけてきた。
「もう、おにーちゃん! いったいドルちゃんの手紙には何が書いてあったの! 早く話してよ!」
「ああ、悪い、そうだった」
「タケル、魔王軍が更に準備を整えてくる為に時間が掛かっているとか?」
リンカが心配な気持ちを素直に言葉にする。
「いや、そうじゃない」
「『時のグリモア』が無いと知って諦めたとか?」
アリサの意見はもっともだが逆にシュベルトはプライドを逆なでされて怒りに震えているだろう。奴にとってバルセイム王国は存在する意味すらなくなったのだから。
「いや、原因はそこにあるかもしれないが奴は諦めてなんかいないよ、アリサ」
「タケル! もしかしてシュベルトは強行手段を取ろうとしてるんじゃ無いのか!」
魔王城の事を一番理解しているグライドは、ある結論に辿り着いたようだ。それは、シュベルトが長年画策してきたことでもある。
「ああ、グライド! 奴は、シュベルトは、魔王に対して宣戦布告をしたようなんだ!」
「「「「「ええーーーーっ!」」」」」
この場の全員が驚きの声をあげた。
「およそ勢力は6対4で数の上では魔王が有利だがシュベルトは強力な精鋭部隊を抱えている。どちらに分があるのかは全く予想できないんだ」
「4割って! シュベルトは、いつの間にかそれだけの部隊を配下に加えていたのね!」
ヒナの顔は青ざめていた。グライドもしかめっ面をしている。
だが俺達にとっては魔王軍を打ち倒す絶好の機会である事は確かだ。俺は勇者にあるまじき発言を述べた。
「俺達は、魔王軍に加わるつもりだ!」
その言葉に仲間達は声もなく、驚きに表情を固めたのだった。
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