第102話 ダーク&ホワイト&ゴールド

『時のグリモア』

 この時計台の何処かに隠されているというレアな魔道書を探しにやってきた俺達だったが、やった事と言えば露店での買い食いと恋占いだけだった。相変わらずポンコツなメンバーにため息を付きながらも偶然に見つけた手掛かりは、布にくるまれた鍵だった……



「はて? この鍵は、どこの鍵なんだろう?」


 白い箱から出てきた鍵は、油まみれでテラテラと輝いている。だがよく観察してみると先端に何の刻みも無いのだ。これでは鍵というよりマドラーに近い。持ち手の丸い部分には時計台の絵が描かれており、鍵の胴には細い穴が空いていた。



「やっぱり、どっかの鍵なのかな、でもこの鍵ツルツルだしな。差し込むと反応するとかかな……」



「皆んなでそれらしい鍵穴を探してみようよ、お兄ちゃん」


「だよな、手掛かりが無いんじゃ、そうするしか無いよな」



 と言うわけで鍵穴を探し始めた俺達。



「この一階のフロアーから探してみるか」


 俺は、正面の階段裏に向かう事にしたのだが……


 コツコツ、コツコツ、コツコツ、コツコツ……


「おいいっ! 全員付いてきたら意味ないじゃん!」


 気が付くと人気ラーメン店の行列のように後ろに全員が並んでいた。

 どうやら先頭のヒナの後を追い他の奴らも便乗して並んだらしい。チームワークとしては悪くないが、ひとりで探しているのと変わらない。


 いちいち、めんどくさい人達なのだった。



「しょうがないなー。チーム分けするから離れて探してくれるかな」



「「「「ええ〜っ」」」」



「文句は聞きません! 組み分けはヒナとメル、リンカとアリサな」



「タケルはどうするの?」


 メルが、期待した目で見つめる皆の意見を代表して聞いた。この人達あわよくば三人チームでと考えているに違いない。


「俺は、こいつと探すよ」


 近くに霧状の薄いもやが集まり、人の形を成していく、その影は次第に濃くなり、やがてくっきりと姿を現したのだった。


「きゅきゅっ!」


 きゅきゅっじゃねえよ! 喋れるだろ、マシュ!


 都合が悪くなると喋らないわがままさん、マシュが、華々しくも登場した。


 普段は、黒いマシュマロというかペンギンのような姿をしているマシュは、俺の使い魔なのだが、変身能力を持つため、人型の時には美少女になるのだ。

 最近、気付いたのだがこの人は、離れた所から俺の呼び出しで召喚する事が出来るようなのだ。

 超ベンリな能力だよね!


 そんな事を考えていると既にマシュの頭はリンカに鷲掴みにされていた。



「ちょっ、な、何やってるんだよ。リンカっ!」



 俺の言葉にリンカはこちらを向いて薄っすらと笑いを浮かべた。そのままリンカに持ち上げられたマシュは、力無くぶらりと垂れ下がっている。



 リンカっ、それじゃまるで悪党だよ、お前!



「オール・フォー・ワン、それが私の騎士道だ!」



 言い切ったリンカ! 大事なワン・フォー・オール抜けてるから……



「と、とにかく、マシュを離してやってくれ! ペアはクジ引きで決めるからさ!」



 俺の提案にリンカは、我に返り掴んだ手の握力を緩めた。どさりと地面に崩れ落ちる何の罪も無いマシュ。



 無駄に強くなり過ぎた仲間達に不安しか無い、今の俺だった……


 時計台の塔の内壁は、少し柔らかめの石で出来ており、硬い素材であれば文字くらい書けそうだった。ここにあみだくじでも書くことにしようかな。


 ええっと何か硬い棒のようなものがあれば……


 俺は、すぐに握りしめていた鍵の存在に思い当たった。これそんな使い方してもいいのかな?

 そう考えつつも最適なアイテムである事には違いない。


 えいやっとばかりに鍵をペンがわりに壁に当てる。ベトベトの油が手にべっとりと付いた。それほど油がクドイのだ。


「あれっ! なんか光ってないかな!」


 メルが、パレードのイルミネーションのようにふんわりと青く光る鍵に気が付いた。確かに魔法陣の光に似た青い光が微かに俺の手元を照らしていた。


「本当だ! お兄ちゃんコレって何かの目印なんじゃ無いの?」


 ヒナの意見は、もっともだ。この鍵には何か秘密があるに違いない。そもそも鍵なのかも分からないんだし……



「う〜ん、だよな。この鍵の胴に空いた穴が何の為の物なのか、不思議には思ってるんだよな」



「お兄様、ここに紐を通してみては?」



 アリサの意見はあまりに短絡的であったが試してみる価値はあった。それにはかなり細い紐が必要なのだが手持ちにそんな物は無い。



「私のキューティクルを使っていいよ」



 いや、髪の毛だよね! キューティクル自慢は今はいらないから、ヒナさん!



「まったーーっ! それなら私のキューティクルの方が艶やかな筈だよ」



 とメルが続く、後はお決まりのリンカも参戦する。


「キューティクルだけじゃ無く、色も関係あるんじゃ無いだろうか? タケルはどの髪の色が好きなんだ? やはりパツキンだろう」



 パツキンって、おっさんかよ! 俺の好み関係ないだろうが!



 どうにもいちいち面倒くさい人達だった。

 確かにこの3人の髪の毛の長さなら申し分ないのだが……



「お兄様、安定の栗色……」


 アリサに至っては涙目でショートヘアを5本ほど繋ぎ合わせていた。いや、無理して5本抜くなよ!


 先程のリンカのアレでヘロヘロになりペンギンモードに姿を戻していたマシュは、羽を咥えて差し出していた。


 いいんだよ、マシュ。ありがたく気持ちは受け取るから……



「しょうがないなぁ」



 俺は皆んなの髪の毛をよりあわせて一本の紐を作って無理矢理、鍵の穴に通した。




 果たしてダウジング効果は、あるんだろうか?

 祈るような気持ちで髪の先を持って鍵をそっと垂らした。



 髪の毛の先で羅針盤の針のように水平を保つ鍵は、しばらく静止していたが次第にクルクルと回り始めた。

 更に青白く光を放ち出した鍵は、やがて壁のある一点を指し示してピタリと止まった。



「ビンゴだな!」



 いきあたりばったりの試みだったが、鍵の指した壁には連動するようにデジタル風の光の文字が浮かび上がったのだった……


 それはまるでゲームの中の近未来のシステムを思わせるような光景であった。













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