第12話 新しい絆うまれますか

「ぎゃーーーっ!」

 俺たちは、今ピコックと言うダチョウが巨大化したようなモンスターに追われていた。

 なんでこうなった‼︎


 事の発端を遡るとこうだ。

 朝から俺は、ケインズが剣を研いでいるのを眺めていた。

 ケインズは、ニヤニヤしながら剣を研いでいるのだが本人には自覚が無いようだった。

 そう言えばなんか前にこんな事あったな。


「俺、自分の剣が欲しいんだけど……」

「そうか、だったらそこに刺さっている古いやつ使っていいよ」

 俺は、礼を言ってその中のひとつを手に取った。おもっ、これ無理なんじゃね。


 ケインズは、俺を見てニヤニヤしていた。そして俺の持っていた剣を奪うと風のように振り回した。


 スゲーっ、なにこの人!


「レベルが上がればタケルもこれくらいは出来るようになるさ」

「でも、レベル上げるって言っても、これじゃあ何も倒せないよ」


 だったらと言ってケインズは、技をひとつ教えてくれた。


 俺は、その技に名前を付けた。そして名前を付けたら途端に試してみたくなったのだった。


 防具の修理の手伝いを早々に終え俺は、店を飛び出した。向かう先は、決まっていた。


「リンカ師匠、モンスター討伐に付き合ってください」


「リンカ師匠は、やめてくれないかなっ、わたしは、そんなに強くないよっ」

 あれっ、雰囲気変わった?この前と喋り方が違うような。


「そ、そうだ。ちょうどクッキーを焼いたんだ。食べてみてよ」

 手作りのカリカリクッキーだ。

 美味しい、確かに美味しいんだけど…


 俺がリンカをじっくり観察していると


「あんまりジロジロ見ないでよ」

 俺は、出されたコーヒーを吹き出しそうになった。


「おいっ、キャラ違うだろっ!返せ、俺の凛々しいリンカを返せ!」


「いや、こっちのわたしが本当なんだけど、そう言うなら仕方が無い。いいだろう、その討伐付き合おう」


「そうこなくっちゃ!」


 そして俺たちは、向かうのだった

『ゴブリンの森』へ


 取り敢えずゴブリンならリンカがいれば大丈夫だろうと俺は、考えたのだった。


「ゴブリンと言っても数が多ければ危険だ。気を引き締めて行くぞ」と言うリンカの顔は緩みっぱなしだ。何だか凄く嬉しそうに見える。

 そう言えば来る途中からずっとそうだ。剣士の血が騒ぐのだろうか?


「師匠!」

「師匠は、やめろ!」

「でも前から来てるけど……」

「何っ!」

 リンカは、慌てて剣を構えた。

 まったく、気を引き締めて欲しいものだ。


 それでもリンカは、すれ違いざまにゴブリンを切り倒した。

 さすがはゴブスレだ。


 俺も負けじと剣で……叩いて倒した。いや、切るつもりだったんだけどね、本当は。


 調子に乗って森の深くに入り過ぎたのかそこには、ゴブリンの群れがいた。


「まずいなこれは、ちょっと手に負えない。逃げるか」

 リンカの言葉に俺は、同意した。


 俺たちは、森の出口に向かって走った。ゴブリンの群れは俺たちに気付いたのか全力でこちらに向かって来た。


「リンカ、このままじゃ追いつかれるぞ」

「分かった。いちかばちか、戦ってみるか」


 俺たちは、剣を構えた。

 ゴブリンの群れは、襲いかかって……来なかった。素通りして行ったのだ。


 何だか嫌な予感がする……


 そして、そいつがやって来たのだ。木々をなぎ倒しながら。


「あれは、ピコックだ。逃げるぞタケル!」

 と言う訳で俺たちは、今ピコックに追われていたのだった。


 このままだと、ラチがあかない。

 俺は、魔法を打つべく詠唱を開始した。そしてピコック目掛けてカミナリの魔法を放った。


 が、何も出なかった。

「あれっ、な、何で、どうした」


「タケルーっ、危ないっ!」

 リンカが、持っていた剣をピコックに投げつけた。


 一瞬ひるんだピコック。

 俺はとっさに剣を構え

「トルネードスラッシュ‼︎」

 と叫んだ。

 ケインズに教わった例の技だ。


 ちょうどハンマー投げの様に自分の体を軸にして剣を振り回し相手に叩きつける技だった。


 ピコックの様に一直線に向かって来る相手にしか通用しない技だと思う。


 剣は、ピコックの胸元を切り裂きその巨体は、数メートル先で崩れ落ちた。


 疲れ切った俺にリンカが抱きついて来た。

「タケルっ、無事なの!怪我してないっ?」

 倒した事より、俺の事を心配してくれているらしい。


「も、もう、大丈夫だよ」

 リンカは、抱きついている事に気付いて慌てて俺から離れた。


 恥ずかしそうに真っ赤になっているリンカを見て俺まで恥ずかしくなってきた。


「やったな!」「やったね!」


 ようやく俺たちは、強敵を倒した事を喜びあったのだった。


 ピコックの足は、良い弓の材料になるらしい。それを持ち帰りながら歩いているとリンカが言った。


「わたし、今日は、誘ってくれて嬉しかったんだよ。いつも一人だったから……ありがとう。タケル」


「礼を言うのは、俺の方だよ。これからもよろしくな、リンカ」


「はい、タケル!こちらこそ」

 リンカは、嬉しそうに微笑んだのだった。


 家に帰った俺が、ケインズに説教されたのは言うまでもない……

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