甘くて苦い恋

奏音宮

嘘つきな君と。優しい君と。

「もし私があと少しで死ぬっていったらどうする?」

「は?」

いつもの2人で帰ってたらいきなり君が変なことを言い出した。

「だから、あと少しで死んじゃうとしたら。どうしてくれる?」

「うーん」

どうもこうも…そんなことありえないしなぁ

「とりあえず今貸してる私の本を返してもらう」

「ひっどーい、なんか悲しんでくれないの?」

「ないな」

「私さん泣いちゃう」

いつものようにわざとらしく泣き真似をしていた。

「あざとい」

「それが売りですから」

相変わらずの嘘っぽい笑顔

「はいはい、じゃあな嘘つきさん」

「はーいまた明日ー」

手を振ってきたから、君の方を見ずに手を振り返しておいた。


君のアホな質問から1ヶ月、君が入院した。

「元気かー」

「あ!来てくれたんだー」

部屋に入ると君は本を読んでいた。

「あ、それ私のじゃん…」

「いいじゃない、もうちょっと貸してくれても」

「はあ…あ、ほらプリン」

「わあ、やったぁ」

プリンを受け取ると早速食べ出した

「いつ退院するの?」

「うーんあと一週間ぐらいかなぁー」

「てか、なんで入院してんの?」

「ん?」

君は私の方を見た

そして相変わらず嘘っぽい笑顔で

「乙女の秘密」

そう言った。


君が退院してからさらに一週間がたった。

「ねえ、来月の誕生日なにがほしい?」

「え、うーん」

「優しい私様が君に買ってあげよう」

「じゃあピアス」

「君さぁまだ学生なんだからちょっとは自重したら?」

「開いてるんだから仕方ないじゃん、ほっとけ」

いつも通りの帰り道、そういやこいつにいわれて気づいたけどもう自分の誕生日が来るのか。

「よく、毎年忘れないよな」

ふと気づいたから聞いてみた

「だって好きな人だから」

意味がわからん、友達として?

「友達として?」

「ふふ、内緒」

やっぱり相変わらずの嘘っぽい笑顔


そしてまたさらに二週間たった

「ねえ」

「なに?」

「私、明日引っ越すことになった」

「え?」

いつもの帰り道、なにも変わらないこの道で君が唐突に言った。

「え、どこに?」

「ん?アメリカ」

「…へぇ」

「なに、寂しいの?」

ニヤニヤしながら聞いてきた、ちょっと腹立ったからそっぽを向いた

「別に、勝手に行きなよ」

「きゃー拗ねてる、可愛いなぁ」

「拗ねてない」

こいつ、引っ越すのか…もう十年以上の付き合いなのに

「戻ってくるから」

「いつぐらい?」

「一年ぐらいかなぁー」

一年か…長いなぁ

「ねえ」

「なに?」

「好き」

「それは…」

何度か言われたこものある言葉をもう一度聞き返す。

「友達として?」

「ふふ」

だけど、相変わらず

「ないしょ」

嘘っぽい笑顔だった。


君が引っ越して一年がたった。

こっちに帰ってきたと、君のお母さんから連絡が来て少し時間がある?と聞かれたから大丈夫ですと答えた。

すぐにでも君に会いたかったから今すぐ行きますと答えて、君の家に行った。

「こんにちはー」

「いらっしゃい、久しぶりね」

ほんの少しお母さんは痩せてた

「こちらこそ、あいついますか?」

「…いるわよ」

案内されてついていった、ついたのは君の部屋。

部屋に通されて入る。

「え…」

入った瞬間、目に入ったのは

君の仏壇。

「あのね」

どういうこと?

「あの子はね」

意味がわからない

「死んじゃったの」

どういうこと、なにそれ

「引っ越して2ヶ月ぐらい」

は?

「引っ越した理由はね、あの子の病気を治すためなの」

―嘘

「あの子が絶対あなたには言わないでって」

―嘘って言ってよ

「最後まであなたの名前を呼んでた」

―いつもの嘘っぽい笑顔で私の前に来てよ

ねえ、いつもの嘘なんでしょ?


「余命はあと一年です。」

体調がしばらく優れないから病院に行った。

ずっと止まらなかった咳がとうとう血と混じって咳がでるようになった。

検査が終わったらすぐさま親と自分が呼び出された。それでお医者さんに言われたってわけ。

「現時点では治すことは…」

どうやら発見が遅れたっていうのと異常に早い病気の進行からもう遅いらしい。

「一年ねぇ…」

親は絶句、私は余命宣告されたにも関わらず実感もなくのんびりしてた

「長くても一年です。下手したらあと三ヶ月で…」

「三ヶ月は絶対大丈夫なんですか?」

「え?」

「あとは大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫です」

「じゃあいいや」

「え?」

三ヶ月あればいいや

「じゃあ帰ろ、ほらママ、帰ろ?」

放心状態の母親を引っ張る

「はーやーくーお腹減ったの、帰ろー」

「え、ええ…」

やっと立った母親を引っ張って出て行った。


引っ越して一週間ぐらいで入院した。

病院にもっていったのは筆箱とノートとスマホと君から借りたままの本。

明日から日記をつけていこうと思った。もし死んでしまったときは看護士さんに頼んで親には渡さず捨ててもらうようにしよう。誰にも見せる気はない、だから

君を想う日記でもいいよね


「これ見てくれる?」

放心状態の中、君のお母さんに渡されたのはノートと手紙と貸したままだった本となにかの包み。

恐る恐るまずはノートから開く

『○月×日

 入院生活やっと一週間。注射ほんと痛いー

 とりあえず外出許可が下りたから、元気なうちにあの子の誕生日プレゼント買いに行っとこうかな。せっかくアメリカなんだし。』

また数ページめくる

『○月×日

 あの子元気かな。もしかしたら私のこと忘れてるかな、できたら私のことずっと考えててくれたらいいのに。はやくプレゼント渡したいなぁ』

さらにまた数ページ

『○月×日

 はやく帰りたい。自分で渡したい。ほんとに病院暇すぎ。親がお見舞いきても対してつまんない。あの子が来ないかな』

さらにまた数ページ

『○月×日

 早く帰りたい。お願い帰らせて。もう痛いのは嫌。もう何でもいいから、お願いだから、あの子に会わせてよ、話をさせて、お願いだからあの子のもとに帰らせて』

さらに数ページ

『○月×日

 嫌だ、痛い。全身が痛い。頭も痛い。もう足が動かなくなって今は車椅子がないと動けない。

 どうしよう、嫌だ。まだ死ねない。まだあの子にプレゼント渡せてないのに。おめでとうって言いたいのに。それに、それに

 まだあの子の隣でいたい。

 だからお願い、頼むからもうちょっとだけ生きさせて、あの子に最後に一度だけ会わせてよ。』

『○月×日

 多分もう今日で最後かな。手はかろうじて動くけど、足なんかもう動かない。考えるのも辛い。とにかく眠たくて仕方がない。だけど今寝てしまえばきっともう、起きられない。

 案外あの子のことしか書いてないのかも、こんな弱音ばっか吐いてるの絶対見られたくないなぁ

 もしこれを誰か見てるなら、お願い。

 あの子だけには見せないで。

 あの子に迷惑かけたくないし、なにより幸せでいてほしいから。きっとあの子は優しいからこれを見れば泣いてしまう。

 だからお願い、大好きなあの子にはずっと笑っていてほしいの。だから絶対見せないで。

 そして、私が死んだことは絶対に言わないで。

 

 私の最初で最後の好きな人がずっと幸せでありますように。』


日記はそこで終わってた。

日にちがたつにつれて字が書けていけなくなっていた。きっと最後の最後まで力を振り絞って書いてたんだろうな。

どうして、病気だって気づいてやれなかったんだろう。後悔と自己嫌悪で溢れてくる涙。

あいつのお母さんが背中をさすってきてくれた。それに背中をおされて手紙を開封する。


『――へ。

 この手紙読んじゃってるってことは私今隣にいないのかな?そっかー私死んじゃったかー

 とりあえず元気?というか笑ってる?

 引っ越すときに嘘ついてごめん、というかだいたいいつも嘘っぽくてごめん。それと、戻ってくるなんて、嘘ついてごめん。あと、

 病気のこと黙っててごめん。

 実は戻ってこれないって薄々気づいてた。

 あと、病気のこと言わなかったのは君が優しすぎるから。だって余命があと三ヶ月ぐらいって言ったらどうなるかぐらいわかってたもん…

 だから、引っ越すってだけ言った。引っ越すことは嘘じゃなかったでしょ?きっと君は優しすぎるから私のことをなかなか忘れてくれないだろうなって思ったから。だから、引っ越したまま帰ってこなくなってそのまま音信不通になっちゃったーってことにしようと思ったんだけど、よくよく考えたらうちのママたちが多分そっちにもどって君に言っちゃうんだろなーって思ったからとりあえず手紙を書きました。

 でも、ほんとは私、ずっと君のことしか考えてなかったんだよ?弱音を言ってしまえばさ、

 君に忘れてほしくなんてなかった。

 なんども君に会いたいって思った。

 もう一度だけ君とあの道を帰りたかった。

 あと最後に暴露。

私は君のことがずっと前から好き。

最後の最後まで愛してたんだから。

 最後にお願いです。

 私のことは忘れてください。

 約十年以上、ほんとにありがとう。私には幸せすぎるほどだった。君を好きになれてほんとによかった。君の隣にいて笑っていられて本当によかった。幸せだった。だから、


君も好きな人を見つけて幸せになってください。


 ほんとに今までありがとう


君がこれからもずっと幸せで笑っていられますように。


 大好きよ、世界で一番誰よりも愛してる。


              ――より』

手紙に涙が滲んでた、きっとあの子のものだろう。弱々しい字で連なっている手紙はあまりにも私には辛すぎて。

どうして気づけなかったんだろう。

あの子の気持ちにも。そして、

自分の気持ちにも。

今更だ、ほんとに今更。気づいちゃったよ。

私もさ、君のことが好きだ。

気づいた時にはもう遅すぎて、

気づいた時にはもう取り返しがつかなくて、

忘れられるわけがない。

本当に君は

最後最後まで馬鹿だ。

最後に包みを開ければ、それはピアスだった。それと「誕生日おめでとう、愛してる」と一言添えられたらメッセージカード。

溢れる涙は止まることを知らないのか止めようとしても涙が溢れて口をふさいでも嗚咽が漏れるだけ。


それから私は一週間ぐらい泣いていた。

親は事情を知っていたのか部屋でずっとこもりっぱなしでも声をかけてこなかったし、学校も言わなくても休ませてくれた。

一週間もすればやっと冷静になってきた。あともう一週間休んでよく考えた。

あの子は私に幸せになってほしいって言った。

だったら、

本当はきちんと理解してる。

私はあの子の願うように幸せにならなければ。

だけど、

今は少し泣いてもいいかな

きちんとあとで笑うからさ、今だけ泣くのを許してください。

君がいないと私はこんな風になっちゃうみたい。


あの子が死んでから十年。

私は恋人を作った。そして明日結婚する。

きちんと幸せになったよと報告するために恋人とあの子の墓を訪れた。

貰ったピアスは毎日ずっとつけてる。

「久しぶり、元気にしてた?

 私、君が言ったように幸せになったよ。もう明日、結婚するんだから。見てくれてた?結婚式もあげるからちゃんとみててよ?

 でもさ、やっぱり君が好きなのは変わらないみたい。

 別にいいでしょ?好きでいても、置いていったんだからそれくらい許せよ。

 じゃあね、また来るから。」

立ち上がって、恋人に手を引かれて行く。

もう一度振り返る。好きになった人のお墓。

「出来ることなら、直接好きって言いたかったな」

止めたはずの涙がこぼれてきた、察してくれていたのか恋人は優しく抱き寄せてくれた。

「私も、世界で一番誰よりも愛してる」


貸したままの本のカバーの裏に一言書こうと思った。

きっと気づくことはないのかもしれない。

そんなことを思いながらもメッセージを書いた。

「あの子、こんなところにメッセージ書いたの気づいてくれるかなぁ」

書いたメッセージを見て苦笑い。

「いいよね、ちょっとぐらいわがまま書いてても。どうせきっとあの子は気づかないんだろうし。」

ペンを置いて窓から空を見上げた。

「でもやっぱり」

見上げた空は

「直接面と向かって好きっていいたかったなぁ」

いつしか君と帰り道みた青空ととても似ていた。

「あーあほんとどうしよう、まだ全然死にたくないよ」

上を見上げているはずなのに涙がどんどんあふれて止まらなかった。


嘘つきさんは、最後の最後は自分に嘘をつけなかったらしい。


『私をずっと忘れず愛してて。』


              ―end―

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