ツンデレってなんやねん.....

琴野 音

藤宮 節乃は語る

あたしの友達の.........苗字は忘れた。

チャコは、ちょっと変なやつだ。それは初めて会った日からずっと変わらないアイツのイメージ。


高校の入学式を終えて最初の登校日。あたしは見た目がいかついから誰にも絡まれず、一人で昼飯を食べていた。

そこへ、アイツはふらっとやってきてこう言った。


「原田さん。ご飯一緒に食べへん?」

「原田さんちゃうわ。あたしは藤宮さんやぞ。藤宮 節乃さん。覚えたか?」


あれぇ? と首を傾げるチャコと、その様子を窺いながら返事をすればいいのかとチラチラ振り返る原田さんの顔はいまでも覚えている。


「おかしいな、自己紹介の時にみんな紙に書いたのに」

「そりゃご苦労やな。悪いけどもう食べ終わってるわ」

「大丈夫。わたしも食べ終わってるから」

「じぶん何しにきてん...」

「お話してみたいなぁて。へへへっ」


なぜか照れるチャコ。正直、友達になれる気はしていなかった。だって、こいつみたいな小さくて気が弱そうなタイプ(見た目だけで全く弱くなかったけど)が一番あたしを怖がって近寄ってこない。ずっとそうだった。

だけど、チャコはそんな素振りを一切見せなかった。ちょっとよそよそしかったけど、話してることは今とほとんど変わらない。危なっかしく感じるほど誰とも壁のないやつだった。


数日もすると驚く早さで仲良くなりいまの関係が出来上がっていたのだ。


「なぁチャコ〜」

「だから『チャコ』ってなんやねん! わたしの名前は千夜子! ち・よ・こ! チョコならわかるけど何でそんなシャチホコみたいなアダ名付けんのよ!」

「お前が自己紹介のときに自分の名前で噛んだから『チヤコ』に聞こえたんやろ。ええやん被らへんし」

「チョコも被らんわ!」

「私も、チャコちゃんの方がいい」

「うわっ、びっくりした!」


この時はまだ、いつの間にか仲良くなったタンちゃんに驚きまくりだったな。最近ではたまに驚いてるくらいだけど。

タンちゃんもチャコがシレッと巻き込んでこの三人グループが出来た。変なやつがさらに変なやつを連れてきたと思っていたけど、どういうわけかあたしはタンちゃんと一緒にいる時間の方が長いのだ。あんまり喋らないけど、一緒だと楽だし。

三人揃うと会話が弾んで楽しい。どっちも今まで敬遠されていてつるんだ事の無いタイプだったから、チャコには密かに感謝している。チャコはいつもあたしに新しいことを運んできてくれる。





チャコには弱点がある。それは.....。


「なぁなぁ秋瀬〜」

「なっ! なに.....ですか?」


この通り、男子と上手く話せないことだ。女子と話す時は元気いっぱいのくせに、男子を相手にすると噛んだり詰まったり。本人いわく、『なんか照れる!』って言ってたから男嫌いというわけでもない(というか、こいつはずっと如月にお熱だ)。つまり、スーパーピュアだ。


「せっちゃ〜ん.....」

「あ〜はいはい」


ピュアを遺憾無く発揮した後は、だいたいあたしのところへ来る。『わたし頑張ったよね』と言わんばかりに上目遣いで抱きついてくるので、適当にあしらいながら頭を撫でてやるのが流れだ。

自分より小さな、まして愛玩動物みたいなチャコに懐かれるのはちょっと嬉しい。でもお姉さんでも飼い主でもないんだぞあたしは!




そんなチャコが、突然バグった。


「わたし! ツンデレになる!」


本気で意味がわからなかった。話を聞くと如月の馬鹿みたいな発言を鵜呑みにしてるらしい。恋は盲目かもしれないけど.....ツンデレはないだろ。

でも、面白そうなのでしばらくは様子を見ることにした。なに、もし如月がチャコを悲しませるような事をしたらボコりに行けばいい。


でも、チャコは振られても諦めないだろうなぁ。知り合って今まで、チャコは出来ない、無理と言ったことがない。

いい意味で、バカなんだよ。







これがまぁ、あたしの親友の話しやな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る