異世界アイドルの衝撃デビュー先

ちびまるフォイ

世俗にまみれた魔王

いろいろあって地下アイドルがまとめて異世界にやってきた。


「いくら売れないからって、こんなのないよ!」


地下アイドルの4人は現代とは程遠い風景に絶望した。


「悠子、諦めちゃダメ。私たちはどこにいたってアイドル。

 お客さんが誰であっても夢を与えなくちゃ」


「あっちゃん……!」


地下アイドルの4人は異世界でもアイドル活動を続けた。

けれど、いくら"夢はかなう"だの"力を合わせて"だの歌っても

この世界の人たちは死んだ魚のような眼をしている。


「あの、どうしてそんな目をしてるんですか?

 アイドルを見る目はもっとギラギラしてるものじゃないですか?」


「この世界にいる魔王がいる限り、俺たちはずっと底辺の生活さ。

 どんなに夢を見たことで意味はないんだよ……」


「諦めちゃダメ! 聞いてください『諦めたらアイドル終了』!!」


地下アイドルは必死に歌い続けた。


最初は魔王の悪政により夢も希望も失った人々だったが

しだいに目に光がやどりはじめた。


やがて、地下アイドルを筆頭に大きな連合軍ができあがった。


「ゆいたんが俺たちに戦う勇気をくれた!!

 魔王だってみんな力を合わせれば絶対に勝てる!!!」


「「「 ウォ――!!! 」」」



「みんな、ありがとーー! 魔王を倒して幸せになろーー!

 それでは聞いてください。『私たちは戦わない』」


地下アイドルの歌でさらに元気をもらった連合軍は、

魔王の城へと進撃をはじめた。そして見事に返り討ちにされた。


「おろかな人間どもよ。虫けらごときが力を合わせたところで

 大いなる力の前に太刀打ちできるわけなかろう。フハハハハ!!」


魔王は連合軍の持っていたCDをバッキバキに叩き割った。



「あっちゃん、どうしよう……。私たち、もうダメなのかな……」


「諦めちゃダメ。まだできることがあるよ。今度は私たちで魔王を倒すの」


リーダーはメンバーと一緒に魔法と歌の融合の特訓をつづけた。

汗と涙の果てに1本のディスクが完成した。


「できたわ! これを魔王が見たら必ず一撃で倒すことができる!」


ディスクには歌と魔法が練り込まれており、

至近距離で再生したが最後いかな魔王だって倒せるものだった。


「あとはこれを連合軍と一緒に魔王に届ければ!」


地下アイドルのメンバーは連合軍の残党に声をかけた。

けれど、その目には最初のころのように光が失われていた。


「あんたら、また懲りずに魔王を倒すつもりかよ……」

「こんなの届けたところで魔王が見るとは限らないじゃないか……」

「どうやって魔王に見せるんだよ……」


「また魔王城に乗り込んで、そこで再生すればいいのよ!」


「あんたら、俺たちに死ねっていいたいのか」


「そんな……」


「お前らアイドルはいいよな! 短いスカートはいて腰ふってりゃ男が寄ってくる!

 そうやってなんでもいいなりになると思ったら大間違いだ!!」


「そうだそうだ!! 金を出してCD買って死んで来いってまさに悪魔だ!」


「物売るってレベルじゃねーぞ!」


「私たちはただこのDVDを魔王に届けてほしくて……!」


「だったら死んだ仲間をよみがえらせてみろよ!」

「D・V・D! D・V・D!」


平和の道は完全に閉ざされてしまった。

メンバー間の間にも重苦しい空気がたちこめる。


「これから……どうしよう……」

「魔王も倒せないし、今さらアイドル活動も人気でないだろうし……」


そんな中、リーダーが口を開いた。



「私、アイドル卒業します」



「何言ってのよあっちゃん! この世界には女優に転身とかないのよ!?」


「もう決めたことなの。私は魔王を倒さなくちゃいけない」


「ひとりで行ったって勝てるわけないよ!」


あっちゃんは誰の言葉も聞かずメンバーのもとを離れた。

しばらくして、あっちゃんの離脱は連合軍ひいては魔物まで知れ渡っていた。


「あっちゃんどうしてるかな……」


欠けたメンバーを思っていると、リーダーが戻って来た。


「みんな、ただいま。魔王を倒してきたよ!」


「ええええ!?」


あまりに突然な発表にメンバーは目を丸くした。


「本当だ……ツイッターの更新も止まってる!」


「あっちゃん、ひとりで倒したの!?」


「ううん。これもみんなのおかげだよ。

 演技とはいえ、みんなと別れるのは本当につらかった」


「あっちゃん……!」


世界はかくして異世界に降り立った4人のヒロインによって平和になった。


「でも、どうやって魔王を倒したの?

 あのDVDを見せるにも、魔王に届ける必要があるじゃない」


「道中は魔物だらけだし、あっちゃん一人で魔王のもとへはいけないよ」


「うん。だからDVDのパッケージを変えたの。

 そしたら魔王が自分から進んで手に取ったよ」


リーダーは改変後のピンクのパッケージを見せた。




『衝撃! あの人気アイドルがAVデビュー!?

 あっちゃんの卒業式♥』




魔王城ではパンツを脱いだ魔王がこれ以上ないほど

みっともない姿で死んでいた。

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