私と彼女と彼と

四つ目

私と彼女と彼

「ねえ、幾つだった?」


教室に戻るなり、唐突に友人に聞かれる。彼女は幼児の頃からの腐れ縁の友人だ。

一応親友とは、向こうに言われている。まあどこまで本気かは知らないが。

今日は身体測定の日で、こう質問されるという事は、その中のどれかと言う事だ。


「何が」


この友人は常に体重を気にしている。である以上聞いてくるのはおそらく体重だ。

でも、言いたくない私はあくまでとぼけて聞く。

只こいつはそれでもストレートに聞いてくるだろう。たとえ私が答えないとしても聞いてくる。それがこいつだ。


「決まってるじゃん、体重」


ほら来た、予想通りだ。

勿論こいつは、私がとぼけている事を知った上で言っている。性格が悪い


「150」

「力士かあんた。それ身長でしょうが」


言いたくないので、言っても特に痛手にならない身長を言う。

バストを聞いてきたら殺す。絶対殺す。ブラなんてスポーツブラで十分なんだよ。

胸なんて飾りだよ飾り。目の前の女にぶら下がってる脂肪もただのぜい肉だ。


「あんたが言うなら教える」

「・・・よんじゅう・・・きゅう・・・」

「なめんな」


お前の体型で40台は無いわ。最低でも50行ってる。

大体55,6ってとこでしょうね。

とはいえ、こいつの場合は身長も私より少し高いから、その辺りは普通の体重だ。

むしろぽっちゃり目で、割と普通に女の子らしい。


「な、なによ、いくつなのよあんたこそ!」

「教えません―。虚偽申請は認めませんー」


尚も食い下がる友人に、一切の情報開示はしないと断言しておく。

一回嘘をついたんだ。それで終わり。私だって言いたくないわけだし、嘘を使って引き出そうなんて許さない。

私は私で、見た目のわりに重い。脂肪が多いわけでは無いのが、余計に少し気になりはする。


「150だったのか。少し伸びたんだな」


目の前の友人に情報規制の決意をしていると、後ろから声がかかる。

もう一人の腐れ縁の男子だ。

平々凡々。普通な男。何が出来るわけでもない、その辺に何処にでもいる様な奴だ。特徴が無い事が特徴かな。無さ過ぎて可哀そうになる。本人に伝えたら項垂れたな。


「身長以外特に変わりなしよ。それとも変わってほしかった?」

「俺は変わらずだから、その辺で止まってくれね?」

「今時150で止まる奴の方が珍しいわよ。抜かれるのが嫌ならもっと伸びなさい。ていうかあんた今いくつなのよ」

「俺か?165だけど」

「ひっく」


私の言葉に肩をすくめるこいつは、私の彼氏でもある。

奴曰く、昔から私が好きだったそうだ。

私としては、特に断る理由も無く、さりとて実は応えてやるような理由も無かった。

だから、なんとなく、彼氏彼女を経験しておくのも悪くないかなんて理由でOKした。


そのことはちゃんとこいつには言ってある。言った上で付き合っている。

どういう理由でも、お前が隣に居てくれるならそれで良い、だそうだ。

後で後悔しないのかね、そういう理由は。


しかし15cmさか。こいつは男だし、私は女だ。

今後の成長を考えれば、こいつに追いつくのは難しいと思うんだけど。


「ちぇー、みせつけてくれちゃってー。あたしも彼氏欲しいなぁー」

「作れば?」


彼氏を作るだけなら、こいつなら簡単な筈だと思う。

こいつは私と違って目つきも悪くないし、体つきも男好きするタイプの筈だ。

男子から聞いたから間違いない。抱けるなら抱きたいと言ってた。

まあ、とりあえずそいつはしめといたが。


「なんだ!?彼氏が居る余裕か!?喧嘩売ってるなら買っちゃうぞ!」


だがこいつは私が挑発したと思い、そんな事を言ってくる。

うざい。そういう事なら喧嘩を売ってやろう。


「よーし、表に出ろ」

「さーっせんした!」


拳をごきごきならしながら言うと、即行で謝って来た。早過ぎるだろ

まあ、私も冗談だけどさ。流石に女の子を本気で殴ったりは、滅多な事が無い限りやらない。


「お前は可愛いんだから、その気になれば一人や二人簡単に出来るだろ?」

「お前が言うのだけは許さん!」


腐れ縁その2がその1に余計な事を言い、綺麗な急所攻撃を貰う。

声も出ず股間を抑えて蹲っている姿は、かなり滑稽だ。

周囲も何事かとみている。これが彼氏と思うと、少し嫌かな。


「成敗!」


蹲る彼氏と、それを見下ろす友人に、なんで私こいつらと付き合ってんだろうと、真剣に思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る