37話:資格への挑戦
異様な空気が漂っていた。
賢者昇級試験でも使われる無制限フィールド。広大な土地の上にランダムで生成される大地。今回は地平線まで草原が広がる見晴らしのいいものだ。
形式は模擬戦モードであり、公式試合とは違い細かい設定は自由選択が可能だ。そのため、通常の半袖短パン姿ではなく、コンプレッションウェアの上に
シュラはやや離れた場所に立ち、背後の風景が透けて見える観戦モード特有の透過度を持つ。
円陣を組み戦術確認をするショウたちだが、どうしても気になって、チラチラと雨宮理事長に視線を送る。それもそのはずである。
標準装備とはいえ、戦闘服に身を包むショウたちとは打って変わり、彼女は装いに変化がない。
純白のシフォンワンピースの裾は、彼女の素足を完全に隠し、地面に擦るほど長い。常識的に言えば日常生活すら困難な部類だ。なめられていると受け取られても仕方がない。
「理事長、その恰好のままやるってことでいいの?」
力強く杖を地面に突き立て、威嚇するようにアイヴィーが睨みつけた。
「問題ない。これが妾の戦闘服だ」
「戦闘服? あれが? 確かに三次元戦闘だと地上戦より邪魔にはならないでしょうけど、少なくとも蹴り技は使えないでしょ」
「真意は測りかねるが、仮にもビッグ4だ。警戒するに越したことはないだろう」
自身の戦闘スタイルに照らし合わせるキサの意見はもっともだ。戦術の幅を狭める行為は、相手に攻撃手段をも教えることにもなる。三次元戦闘は
A級大魔導士であれば、キサ、テレサ、チコ、クウェキトが三次元戦闘の四強であり、これを主軸にして戦う。つまり、理事長も三次元戦闘を前面に押し出した戦闘を繰り広げる確率が高い。
「ユイっちの言う通りだね。キサっちは前衛として空中で牽制。ただし深入りはなしだかんね」
「わかりました。念のため対チコシフトを敷きます」
「それもだけど、テレサ並の魔力持ちだから有効範囲は間違えたらダメだかんね。んで、ユイっちはキサっちの援護に回って」
「序盤はその方がいいだろうな。理事長の情報がなさすぎる。戦闘スタイルがわからないうちは探りを入れていこう」
ユイの提案にアイヴィーとキサが頷く。
「空中戦だとショウ坊の取れる手が限られるから、攻勢に転じるまではとりあえず私の護衛に入っといて。遠距離攻撃も五重強化なら力尽くで処理できるよねー?」
「荒っぽいですけど、大丈夫です。でも、いけると思ったら
「もちろん。むしろ一撃入れたら終わりってルールだかんね。タイミングは任せるよ」
「アイヴィーはどうするんだ。さすがに好き勝手させてくれんだろう」
個人戦での技量なら間違いなくユイとキサが要警戒だが、ことパーティー戦となれば話は別だ。この場合、最警戒人物はアイヴィーになる。それをわかっているからこそのショウの護衛だが、理事長が何の対策もしないはずがない。
「先天性魔力異常持ちだかんね。領域技で援護に回るよ」
「そうしてくれると助かる。それならば対広域対策はいらないか?」
「どうだろうね。有効領域が私やテレサ以上だとしたら、対策シフトは念頭に置いといて損はないよ」
「アイヴィーさんやテレサさん以上って、普通にキツイですね」
「同時にチコとテレサさんを相手にするような感じってことでしょ? 確かにキツイわね」
「全くだな。そうなってくると、影響のないショウ君に期待だな」
バシっとユイがショウの背中を叩く。
前につんのめりつつ、ショウは力強く首肯した。
「そもそも今回の模擬戦ってあんたの試験なわけだし」
「うむ、確かにそれもそうだな」
「が、頑張ります」
「さぁ、行くよみんな」
最後にアイヴィーが号令をかけ、三人が揃って気合いを入れる。
「準備が出来たようだの。では始める前に宣言しておこうか」
そう言って雨宮は左手を持ち上げ、指を三本立てた。
「妾がこの試験で使う魔法は三つのみだ」
「三つですって、さすがに馬鹿にしすぎでしょ」
苛立つキサを尻目に雨宮は両脇を開き、全身で風を感じるようにして浮き上がった。裾が地面から数センチメートルばかり浮き上がり、わずかに地面との間に隙間が生まれる。長い黒髪そのものが生き物であるかのように、
気流を生み出し、風圧で自身の身体を支える三次元技術、
直後、雨宮の背中から二対の翼が生える。
「この三種類のみで相手をしよう」
「な、バカな、
視覚的に確認できるのは、
安定性という点で最も評価される三次元移動技術、
「現代の定石は
「それも全て三次元移動技術だ。三次元移動するだけなら一種だけで事足りる。競合するだけで重複させる意味などないぞ」
困惑するキサとユイ。定石完全無視の雨宮の行動に、より予測は困難となっていく。
同じく真意を測りかねていたショウが隣のアイヴィーに助言を求める。
「アイヴィーさん、どういう意図かわかりますか?」
「……あるとしたらショウ坊の五重強化の対策くらいしか思いつかないかな」
雨宮を包む魔力の奔流から、強化魔法の種類は特定可能だ。術者の魔力補正を考慮すれば、
これらを全て
桁違いの魔力と、高階位魔法。力押しでも戦える魔法使いの理想系。
上級魔法による強化同士がぶつかり合えば、いくら魔力補正による上振れがあるとしても、五重に強化を施したショウが能力的に上回る。二種だけでは後れを取ると判断したと考える方が自然だ。
「キサ、ちょっと耳貸して」
「何よ……なるほど、やってみる」
ショウの提案を了承したキサが先頭に出る。
「どこからでもよいぞ。ほれ、かかって参れ」
無防備に構えたまま、雨宮は左手で自身に向かってくるようジェスチャーをする。
望むところだと、キサは得意の
主力の
見上げる恰好となった雨宮に向かって、キサは下り坂で勢いをつけるようにして頭上から迫る。その際に、両手を交差させ振りぬく。
数少ないキサの修得している
階位は低くなるが、速度を重視した超速攻。
雨宮がキサの攻撃を
火力極振りによる力尽くの超高速移動。
電光石火に距離を縮めたショウは、ほぼキサと同タイミングで地上から襲いかかる。上下からの同時多角攻撃。
ショウの振りぬいた腕に雨宮は手を上から沿わせ、下方へ払う。勢いのままショウは縦回転しながら、大きく吹っ飛ばされる。尻から地面に叩きつけられ転げまわる。
その隙に繰り出したキサの横薙ぎが雨宮を捉える。
ショウを捌いたことでがら空きになった胴体への一撃だったが、風雷剣が突如膨らんだかと思われた直後、完全に消失。虚空を切る形で雨宮を素通りする。逆に大きく隙を生むことになったキサの顔を、その小さな掌で掴み、強引に投げ飛ばす。
「
即座に立ち上がったショウは、唯一の遠距離攻撃を放つ。
大気中のマナを揺らすことで対象に届かせる
「対処法がわかっておれば脅威とは言えんの」
振り向くことすらなく、雨宮は領域を展開し、周囲のマナを吸収。これによって大気中のマナが失われ、
ユイの放った雷撃は、正面から雨宮を襲うも、自ら避けるようにして逸れていく。非常に滑らかな重心移動と、気流による軌道変更の合わせ技。回避したと思わせない達人の技に、武術に心得のあるショウの背筋が凍る。
直後、雨宮の頭上から降り注ぐ膨大な量の水。気流操作では受け流すことのできない物量だったが、途中で爆散する。それでも残った水流が雨宮へと押し寄せるも、気流を操作し弾き飛ばす。
投げ飛ばされていたキサが瞬時に着地、連撃に合わせて再度の特攻。
「何をされたか理解しておらぬであろう? 同じことを繰り返すだけであるぞ」
渾身の打突は、やはり先ほどと同じように一瞬だけ風雷剣が膨張し、消滅する。丸腰になったキサの腕を掴み、相手の力を利用して投げ飛ばす。
キサをいなすタイミングでショウも仕掛けていた。背後からの強襲。それもこの中では最速の移動が可能なショウだ。普通なら絶対に回避は不可能。それをあくまで最初から正面を向いていたとばかりの自然な動きで正対。
背中の羽を腕代わりに操り、ショウの身体を横から叩き軌道を逸らす。
「速いだけで動きが直線的過ぎるの。時任時雨に師事しているだけあって武術に心得があるようだが、なまじ動きが洗練されておる分、読みやすい。格下に通用しても、妾のような格上には通用せんぞ」
盛大に転んだショウが息を整えながら起き上がる。
数手のやり取りだけで彼我の差を感じ取った四人は、攻撃を中断する。このまま闇雲に攻めたところで結果は変わらない。
「どうした、かかって来ぬのか?」
それぞれ構えるものの動けなかった。どう攻めれば攻略できるのか、糸口すら見つからない状況だ。しかし、攻勢にでなければ事態が好転することもない。
定石通り攻めるなら、遠隔攻撃による牽制。
にらみ合ってても埒が明かないと、ユイが弓を引き絞り、何も発動していないことに驚愕する。そのわずかな隙を突いて、爆風が彼女を吹き飛ばす。
「ユイっち!」
隣に立っていたはずのユイがやられアイヴィーが叫ぶ。
「こんのッ!」
ユイと同様に魔法が発現せず、逆に無防備を晒す。
雨宮の手のひらがキサの胸に触れる。同時に、これもユイと全く同じく、見えない何かに突き飛ばされる格好でキサの身体が宙を舞う。
「風魔法!?」
状況から推測すれば風魔法しかあり得ない。強化魔法で施した気流を攻撃に転用したとするのが順当だ。だが、直接触れていたキサはそれで説明がついても、距離の離れていたユイがやられた原因とするには、あまりに威力が高すぎる。
「風魔法ではない。言ったであろう。妾はこの三種類の魔法しか使わぬと。これはただの領域技だ」
「は? 領域……技?」
魔法を発現させるための第二段階
「そう領域技だ。こういう風にやるのだ。
空気が爆ぜ、雨宮を囲むように陣取っていた四人は、それぞれ後方へと吹っ飛ばされる。
説明されてもなお、何をされたのか理解できず、ショウは尻もちをついた状態で呆ける。
「魔法とは領域内のマナを転換するわけだが、
「何が解くだけよ。そんなことしたってマナが霧散するだけでしょ」
横たわっていた状態から、キサが膝を立て起き上がる。
不意の一撃に体勢を崩したところが大きく、派手な見た目の割にはダメージはない。他の三人も驚きが勝っているだけで、被弾による影響は軽微のようだった。
「普通ならの。そこで、
あえてショウと目を合わせる雨宮。威力の調整が出来ていれば、葵沙那を巻き込まずに済んだ。言葉にしなくても、瞳に宿る色がそれを突き付ける。
高みから見下ろす雨宮への怒りは筋違い。あの件は自らの未熟さを猛省すべきだ。ショウは奥歯を噛みしめ、どちらとも取れる表情を小さな敵へと向ける。
比較的近くにいたアイヴィーとユイが互いに頷く。
実際に魔王に止めを刺した
来るとわかっていれば態勢を崩すほどでもない。多少動きが鈍ることは避けられないが、そこは互いにフォローしていこう。四人は視線だけで意図を共有する。
だが、問題はまだある。キサとユイの魔法が消されたり、発動しなかったりする件だ。
そうなると、前述の二つも十中八九領域技である可能性が高い。ここまでわかれば、自ずと予測は立つ。
このことに気づいたのは、場数を踏んでいるアイヴィーとユイだけだ。口頭で説明すれば一発だが、雨宮に気づいたことを知られない方が有利にことを運べると、口を閉ざす。
仕切り直し、臨戦態勢を取る。油断なく構える面々に、雨宮も答える。
わずかに浮かんでいた状態から更に上昇。地面から二十メートル近く飛び上がったところで静止した。
「続きを始めようかの」
あくまで自分からは攻めない。全ていなしてみせるという自信が垣間見える。
「露骨にショウ坊を外して来たね」
「戦術としては正しいがな、どうする?」
「私とユイっちメインで行くよ」
「それが良さそうだ!」
間髪入れずユイが弓を引き絞る。正確無比の速射で知られる彼女の技量だが、雨宮はこれに反応する。技術力ではなく、発動できたことに対してだ。
「もう気づいたようだの」
気流で受け流し、そこを突くようにしてアイヴィーが杖を振る。
この中では唯一、雨宮の気流操作だけでは防げない攻撃が可能なのはアイヴィーだ。
「これで先行領域侵犯は使えないよね!」
「やはり気づいておったか」
雨宮の左手側へと回ったユイが高速移動を慣行しながら、連射していく。気流操作を攪乱する絶妙な外しを加えることで、雨宮が嫌がる。
静止したまま回避を繰り返していた彼女が、初めて上昇移動に転じた。
そこを更に上空からキサが強襲する。
左の刺突をこれまでと同様に消され、続けて右の袈裟斬りを放つも結果は同じだった。しかし、この展開は織り込み済みだ。あくまでキサが注意を引き、ユイとアイヴィーが攻め立てる。
ユイとは逆方向から連弾を叩き込み、針の穴に糸を通す雷撃が飛来する。
アイヴィーが機能している間は、ユイが自由に動ける。
「先行領域侵犯は相手の領域展開に被せることで、先に大気中のマナを根こそぎ奪い取る技。そりゃ、大気中にマナがなければ魔法は撃てなくなるよね」
「テレサの開幕先行パターンだが、まさか開幕以外でも使えるとは驚いた。さすがは理事長といったところだ、な!」
ユイの攻撃を避けつつ、アイヴィーの水弾を弾いてから回避する。
敵の領域展開に合わせることで魔法を使えないようにするのが先行領域侵犯だ。
試合の開始時間が決まっている魔導試験では、開幕に合わせるだけで先行領域侵犯になる。テレサの超高速広域展開があって始めて可能な技だが、戦闘中に任意で狙ってできる芸当ではない。
なぜなら、相手の仕掛けるタイミングに寸分違わない速度で、ほんの少しだけ早くという条件下でしか成功しない超離れ業だからだ。テレサですら不可能という先入観が、気づくまでに時間を要した。
対広域展開対策。大気中のマナがなくなるなら、自発してやり過ごすせ、というものだ。
アイヴィーの迎撃に、
今までが嘘だったかのように、二対の風雷剣が雨宮を追い立てる。気流操作でキサの剣戟をいなすも、クウェキトほどの反発力はない。自然と上体を振っての回避を余儀なくされる。
「さすがに、ちと面倒だの」
雨宮が半歩だけキサへと近寄る。つま先とスカートの裾が触れ、瞬間、キサがバランスを崩した。
踏みとどまるキサの頭を上から押さえつけ、一気に振り下ろした。
地面に叩きつけられたキサに向かって雨宮が鼻で笑う。
「重力干渉。
連射を続けるアイヴィーとユイだったが、変化が訪れた。
それまで回避一辺倒だった雨宮が、避けることを止めたのだ。
「定点領域」
雨宮から少し離れた位置で、水弾も雷撃も不可視の壁に阻まれた。
「定点領域で魔法を弾いた!?」
「どういう原理だ!?」
円を描きながら攻めていた二人が足を止める。
領域内のマナを転換する技術を魔法と呼ぶなら、利用せず解放するのが
「ふむ。常々感じておったことだが、どうも勘違いしておる人間が多いようだの」
「勘違い? どう勘違いしてるっていうのさ」
「マナの性質である。多くの者がマナを他属性に転換する理由に、魔法の方が強いと思っておるきらいがある」
「何を言っているんだ。実際に魔法の方が強いのは自明の理だ。現に今も先天性魔力異常同士がぶつかって、アイヴィーが全て勝っているではないか」
ユイの指摘通り、アイヴィーの
「それは特性の問題だの。火属性なら火力、雷属性なら貫通。当然、魔法を最大効率で扱うならば、それに適した形で扱うものだ。単純なマナの量だけでは、この特性差で負けておるだけだ。それが先入観となって、同量のマナ同士では魔法の方が強いと思い込んでおるのだ」
雨宮の講釈に、反論できなかった。理屈としては
「キサ!」
突然、ショウが跳躍した。雨宮と同じ高さまで飛び上がり、構える。
定点領域とは内側にマナを溜め込み、圧力で魔法に耐えている。それが雨宮の説明だ。ならば、マナを揺らすことでダメージを与える
「良い手だの」
定点領域を解除するだけでは足りない。そんなことをすればマナが大気中に霧散し
しかし、それは同時に、他の三人の魔法を定点領域では防げなくなるということだ。
タネさえわかれば対処のしようもある。
魔力の機微に敏感なキサなら、先行領域侵犯の後出しができる。ショウの
ショウが腕を振り抜き、雨宮が領域を広げる。
一瞬だけ大気中のマナがなくなり、ショウの一撃は不発に終わるが、キサの魔法が発動する。風雷剣を手に雨宮へと襲いかかった。
それを二人がただ見ているはずがない。ユイとアイヴィーも遠距離砲撃で援護。三方向からの多重攻撃。
「
キサの攻撃をかき消し、背中の羽が分離、無数の羽が雨宮を覆うようにして高速回転。突撃していたキサの行く手を阻み、遠距離攻撃も弾く。
「くっ、チコの得意技か」
「予測はしてたけど、やっぱり厄介だね」
テレサとチコ。どちらもA級大魔導士のトップランカー。片方だけでも厄介この上ないが、その両方の技を使いこなす。まるで二人を一遍に相手にしているようなものである。
そこへ、ショウが着地してくる。
飛び回っていた羽が再び、雨宮の背中に戻り二対の立派な天使の羽へと戻る。
「キサ?」
自身の両の手のひらを見つめたまま空中に留まるキサ。
訝しむショウの声に、キサは「わかった」と呟いた。
「領域
「ほう、案外早かったの」
「領域侵冦!? 領域浸潤はまだしも、あれは地中のマナを奪ってくるだけの技だよ!?」
領域展開はあくまで大気中のマナに対して作用する技だ。三次元戦闘が主流となった最大の要因は、この領域展開にある。
地上での二次元戦闘では、どうしても地面がある分、領域内のマナが減ってしまう。その解決策として発展したのが三次元戦闘なのだ。
多くの者が三次元戦闘を身に付ける中、才能のない者は二次元に取り残された。そんな中、編み出されたのが地中のマナを利用する領域侵冦だ。
通常の領域展開より粘度を上げることで、こそぎ落としてくる。アイヴィーが得意とする技でもある。ゆえに、彼女が真っ先に反論したのも当然だ。
「アイヴィーさんの言う通り、私の風雷剣の魔力をこそぎ落とすほどじゃなかった。でも、持って行かれる感覚はあった。だから、無意識に耐えようとして力んだんだと思います。そこに領域浸潤で魔力を送り込まれて耐えられなかった」
「正解だ。単に押すだけでは堪えられてしまうからの。一度引いてから押したのだ」
「そうか。だからキサの風雷剣が消える前に毎回膨らんでたのか!」
「なるほどな。そういうカラクリか」
「……言うのは簡単だけどね皆、領域浸潤は狙ったとこにしか魔力を注入できないから、遠距離攻撃を確実に当てるようなもんなんだかんね。それこそユイっち並の技量だよ」
アイヴィーの一言に喉を鳴らす。
スポーツでは身体が大きいほど有利なように、魔法使いとしての才能は、突き詰めれば魔力量と階位の二点だ。ただでさえ才能の塊のような雨宮が、そこへ来て達人並の技量を持ち合わせている。もはや手の付けようがない化け物だ。
「キサっち、対応できる?」
「もちろん!」
前傾姿勢を取り、キサにスイッチが入る。様子見からの全力モード。
こうなれば、如何に雨宮とて楽はさせてもらえない。
「もちろんか……仕方がないの。さすがに時間をかければハンデを負っておる妾が不利になるのでな。少々本気を出そうかの」
雨宮が手を振り上げ、手刀が空を切った。
直後、アイヴィーとユイの間の地面が轟音を轟かせ、両断された。実に五十センチメートルほどの深さと十センチメートル近い幅の溝だ。
「なっ、理事長のいる空中からここまで二十メートルはあるぞ!?」
「手刀の風圧!?」
「んなわけないでしょうがショウ坊。領域技だよ」
あまりの破壊力に、驚くのも無理はない。
「何をしたのか、特別に実演しようかの」
そう言った雨宮の右側面に、円盤状の何かが出現した。
「まさか領域展開? 球体じゃなくて、円盤状!?」
アイヴィーですら目を見開く。大気中のマナを集める領域展開は、その性質上最も効率のいい球体状で空間に広げる。円盤状に限らず、それ以外の形状へ変更したこともなければ、する意味もない。やれば誰でもできるものなのか、そうでないのか、試したことも考えたこともなければ、それすら不明だ。
そもそも視覚的に領域が展開できたことも新発見だ。
「ここから更に形状を変える」
滑らかだった円周上が、次第に刃物のように鋭利になっていく。まるでノコギリのような姿形から、高速回転を始めた。これでは完全に電動丸ノコそのものだ。
「
風を割く音が草原に響き渡る。
大気中のマナを操る。ただそれだけで雨宮はA級大魔導士三人とショウを圧倒していた――
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