20話:頂点に君臨する者

 さて、ここで一つ、闇精霊シェイドについて記述しようと思う。


 俗に魔法と呼ばれている力は魔法ではない。正式には〝自然を操る能力〟であり、黎明期から過渡期にかけて自然とその名称を変えていった。その経緯がいかにもバカバカしいもので、見た目が魔法っぽい。ただ、それだけの理由なのだから、当時の人間はいかにもだろう。

 話を戻して、この自然を操る能力だが、これを扱えたのは後にも先にも〝精霊に愛された人間〟ただ一人だけである。彼がその力を汎用化させたのが劣化型原初能力――通称、精霊文字ヒエログリフである。

 つまり、精霊文字ヒエログリフをして、本来の力を如何なく発揮することができないのだ。

 しかし、どうしても諦めきれず、能力者を生み出せないかと苦心したのが新人類党の党首である。彼の者は様々な実験を繰り返したが、どうしても能力者を生み出すことができなかった。

 そこで、無から有を生み出す研究と、能力の発生とを切り離し二段構えの計画を打ち出した。

 その一つがより強力な力を持った存在、魔物の生成である。能力を扱えるだけの器とその大量生産技術により魔法使いを苦しめたのは歴史が物語る。


 もう一つの能力の開発だが、これが最も厄介だった。

 どういう条件下でなら能力を開眼するのか、あの手この手で魔法の素養のある人間を拉致しては実験を繰り返した。そして、最後に着目したのが先天性魔力異常症である。生まれながらにして平均的な人間の数倍の魔力を有した存在。これを長年の研究で後天的に同種の人間を作り出すことに成功していた新人類党は、先天性魔力異常症患者の魔力を更に、後天的に膨れ上がらせてはどうかと思い至ったのである。

 その研究の過程で生み出された技術の一つが強制執行である。

 しかしながら、先天性魔力異常症の発生確率はあまりにも低く、狙って見つけられるものではなかった。月日だけが流れる中、我慢に我慢を重ねた結果、とある母体から溢れる途方もない魔力を発見した。

 綿密に練った計画の元、生後間もない女の子を拉致し、人造能力者作成の柱とした。

 一歳を超える頃には、最高傑作であることを疑う余地はなく、同時進行で行われていた魔物の大量生産も佳境に入っていた。四歳になった女の子は単独で魔王を倒せるほどに成長し、能力の発現に期待が持たれた。

 こうして順調に進む人造能力者作成計画も、頓挫する時が訪れた。


 魔法王国の人間に研究所の所在が露見し、強襲を受けたのだ。圧倒的な物量差で攻め込んでくる魔法使いにいよいよ新人類党は、未完成だった人造能力者を戦地に投入する。

 当時、六歳だった子供を相手に、最高戦力の賢者は退けられ、二千人もの魔法使いが殉職した。まさに悪夢としか形容できない事態に、その女の子は闇精霊シェイドの二つ名でおそれられた。

 最終的に、聖戦を勝利に導いた英雄たちの手によって闇精霊シェイドは倒され、生魔法によって洗脳が解かれたことで魔法王国へと導かれることになる。そこで闇精霊シェイドは魔法の使い方、教養を身につけすくすくと育っていった。

 だが、彼女に待っていたのは決して幸せな時間ではなかった。

 闇精霊シェイドは、新人類党に操られていた被害者ではあるが、二千人もの人間を殺めたことに変わりはない。それどころか子供ゆえ善悪の区別もつかなければ、自身でも制御できない途轍もない魔力を持つ。

 周りから見れば、ただの怪物でしかなかったのだ。

 人々は畏怖し、人ならざる存在として忌み嫌い、蔑んだ。

 そんな環境に置かれて、正常に育つはずもなく、物心つく多感な時期を経て次第に闇精霊シェイドの行動に異常が見られ始めた。こうして周囲は闇精霊シェイドの言動に手を焼くようになっていく。



 魔導歴十一年三月二十八日、火曜日。

 闇精霊シェイドの二つ名で呼ばれる少女は、齢十三にして、最強の魔法使いとして君臨する――

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