ケモ耳娘バレかけました
部屋に戻り、ある程度家事を片づけた私は今朝の事を思いだし身悶えていた。
熱くなった頬を手で覆い、首を左右に振る。
「うぅ~、どうしてこんな事にぃ……。恥ずかしいですぅ」
少し春斗さんの事を考えるだけで気持ちが高騰し、鼓動も早くなっている事が自分でもわかる。そして、それがどんな感情か分からないような鈍感さは生憎持ち合わせていない。
「いやまあ、出会ったときから春斗さん大好きでしたし拾ってくれて感謝感激ですし最高のご主人様でしたけど……」
自分で言っていてなんだがかなり恥ずかしい。
しかし、好きなのは変わりはない
でも……
「私は……犬の子だから……」
そう、それが現実なんだ。
私みたいな半分獣の人間なんて、この地球上にはいてはいけないはずなんだ。
私の母だって、私のせいで不幸な目にあってしまったんだ。
こんな忌み子よりたちの悪い私が、人を好きになるなんて……
「って、恋愛脳がいきなりマイナス思考に変化しましたね。もう考えるのは止めましょう」
もともと、シリアスは私には似合わない。
こんな時は本でも読んで全て忘れましょう。
私は本を取り出すために収納ケースに手を掛け……
「ん?」
た所で手を止めた。
ケースの一カ所を引き出し、中から衣類をあさり出す。中から取り出したのはフリルのついた白いエプロンと三角巾。たまたま半透明の収納ケースの中に入っているのを見つけたのだ。
「わぁ~、春斗さんこんな物持ってたんですねぇ」
いったいなにに使っていたのかは謎だが、一度着てみることにした。
ー春斗sideー
俺は今、危機的状況に陥っている。
自宅の玄関の前で立ち尽くし、ドアノブに手が掛かるたびに弾かれたかのように離す。数分間それを続けているのだ。
別に鍵を忘れたわけではない。第一、そんな理由なら呼び鈴をならせばアズキが出てくる。
かといって、アズキにバレたらまずい後ろめいた事でもない。どちらかというと、アズキがバレるとまずいというか……
「なあ、いつまでそうしてる気だよ」
理由は、俺の隣には同僚がいるからだ。
原因は職場で俺が女の子と一緒に住んでると言ってしまった事。そしたら同僚が女の子を一目みたいと言い着いてきたのだ。何と迷惑極まりないのだろう。
「お願いだよ。ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから!」
「いやだって言ってるだろ!?て言うか、見せ物じゃねえ!」
俺がどうアズキの正体を隠すか考えているときにグダグダ言う同僚に半ギレした、その時だった。
「キャァァァァ!」
「な!?」
裏路地の方から甲高い悲鳴が響きわたってきた。
「お、俺、何があったか見てくる!」
「お、おい!」
俺の制止の声を無視し、同僚は悲鳴の響いた方角へ走っていってしまった。
俺も追った方がいいのか検討する中、ある一つの考えが浮かんでくる。
……あれ?今チャンスじゃないか?
俺は光をも越えそうな早さで鍵を開け、中に入る。
「春斗さぁん!」
「ただいま」
アズキに抱きしめられたため、苦笑しながら返事をする。
頭を撫でようとしたとき、ある事に気がつく。
「そのエプロンと三角巾、どうしたんだ?」
「あ、これは収納ケースに入っていた物をお借りしてしまいました。駄目でしたか?」
不安そうな顔で首を傾げるアズキ。
この場合、勝手に人の物を漁ったことをしかるべきか、似合っていると褒めるべきか……。
今までリアル恋愛どころかギャルゲーすらやってこなかった俺には難しい選択だ……!
しかし、そんな俺でも分かることはあるんだ。それは本人に褒めてほしいかしかってほしいかを訊ねる事だ。と言うか、そんな選択支じゃあ誰もが前者を選ぶだろう……ってあれ?
……何故俺はこんな事で悩んでいるのだろうか。常識的に考えれば、叱られるより褒められた方が嬉しいに決まっているではないか。
「?春斗さん、どうかしたか」
急に微笑んだ俺を見て不思議に思ったのか、アズキはさらに首を傾げる。
俺は彼女の頬に指を這わせ、頭に乗せる。
「とても似合ってるぞ。アズキ」
頭を撫でてやると、彼女は幸せそうに頬をゆるませ、ぴょこんと延びた尻尾を揺らした。
「春斗さん」
「ん?」
「私を拾ってくれて、ありがとうございます」
アズキは目頭に涙を溜め、頬を赤く染めながら、そう言った。
「私、とっても幸せです!」
胸に顔を押しつけられ、腰に手を回される。いつもの事だが、少し違う。今までアズキと二人で暮らしてきた中で感じなかった甘酸っぱさを感じるのだ。
何これ告白?もしくはフラグ?え?俺ついにリア充?彼女いない歴=年齢じゃなくなるの?
……いや、落ち着け春斗。俺はもう盛りの学生じゃない。大人な対応を取るんだ!
「アズキ……」
「……はい」
一度アズキの肩を掴み、半ば強引に引き剥がす。別に、アズキが嫌いだから拒絶したわけではない。
ただ、俺としてもけじめを付けるだけだ。
「あのな、俺も、アズキと出会えて……」
その時だった。
携帯の着信音が鳴り響き、空気を微妙な物へと変化させた。
少々苛立ちを感じながら画面を開く。液晶に並んだ名前や電話番号は、同僚のそれだ。
「もしもし?」
「うお、何故怒気をはらんでいる」
「いいから用件を話せ」
「!そ、そうだ!急いで裏路地に来てくれ!お前ここら変の道詳しいだろ!?」
「はぁ?……分かったよ。しゃーねーな」
俺は通話を終えると、アズキに着替えを促す。
同僚にまた家に押し掛けられたら困るので、こっちから見せてやろうという事だ。
ったく。明日が休みじゃなかったら断ってたのに、残念だ。
俺は着替え終えたアズキと供に裏路地に向かって走った。
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