ケモ耳娘読みました

春斗さんを見送った後、私は特に何もしないで一時間を過ごしていた。

特に家事をしろとは言われなかったし、買い物も頼まれていない。

昼食も春斗さんが作ってくれたから料理もする必要がない。

 

「……二度寝しますかねぇ」

 

畳まれ、押入に入れられた布団を取り出すか思案する。

しかし、駄目だ。

私はこれでも忠犬兼乙女。主人である春斗さんに自堕落な生活は見せたくない。

 

「あ、そうです!」

 

私はある事を思い出して脱衣所に向かいました。

 

春斗さんのお家は、脱衣所に洗濯機あります。そのすぐとなりにお風呂になります。洗面所はありません。

今回用があるのは洗濯機です。

 

「ビンゴでした」

 

上に扉がある洗濯機をのぞき込むと、やはり昨日の洗濯物が入ったままだった。

 

「今日はとりあえず家事をしましょうか」

 

先に言ったように、頼まれた訳ではありません。

ただ、春斗さんに私がいかに主婦力が高いのかを披露したいだけです。うまくいけばきっと、褒めてくれるでしょう。

 

「春斗さん、頭撫でてくれますかねぇ」

 

思わず緩んでしまう頬を無理矢理元に戻す。

まずは、家事を成功させることからです!

私は洗剤と柔軟剤を適量入れてから、栓を開けてスタートボタンをポチッと。


「ふふ。このくらい、私に掛かればどうって事もないですね」

 

誰に見せるわけでもないのに、手を腰に当ててドヤ顔する。気分が大切なんです。

さて、次は何をしましょうか。

 

次に目をつけた物は流しです。

そこには今朝溜まってしまった食器や調理器具が水につけられていた。

 

「次はこれを片づけましょう」

 

私は皿を持ち上げると……

 

「あっ」

 

私はつい手を滑らせてしった。

まずい!このお皿は春斗さんの使っていたもの。割ったりしたら、コロサレル!

 

「と、届けぇぇぇ!」

 

私の手が皿と流しの間に滑り込み、無事、皿を救うことができた。わんちゃんの反射神経を甘く見ないでください。

私は額の冷や汗を拭ってから皿洗いに没頭した。

 

「ついでに、流しも洗ってしまいましょうか」

 

三角コーナーから生ゴミの入ったネットを処理し、新しいスポンジで磨いていく。

 

「ぬるぬるも無くなりましたね。次です」

 

次に私が目を付けたのはトイレ。しかし、トイレはとても綺麗に使用されていて、床を雑巾で拭くくらいしかやることはなかった。

 

続いては押し入れ。

二段に分かれていて、上の段には布団が納められ、下の段には春斗さんの私服が入った収納ケースがある。

別に何もおかしい事は無いが、気になることはある。それは、収納ケースのさらに奥だ。このケースの奥行きでは、この押し入れの奥にスペースが出来る。

 

「まあ、春斗さんも男の人ですし、普通のことだと思いますがね」

 

きっとそういう本があるのだろうと、私は収納ケースを引っ張りだした。

 

「あれ」

 

つい声を出してしまった。

奥にあったのは小さな本棚。そこには少年漫画や青年漫画しかなかったのだ。

 

「あ、あの人、まさかエッチな本すら持っていないとは!」

 

どうりで女の子慣れしてないわけだ。

 

「つまらないですねぇ……おや?」

 

漫画を一冊取り出してみると、奥にまだ何かがあった。

漫画を全部取り出してみると、そこにはぎっしりと小説が詰まっていた。

神話の本やライトノベル、さらに純文学と、いったい好みは何だと問いたくなる。

 

「まあ、人の趣味には口出ししません。折角ですし、貸してもらいましょう」

 

私はさっき全部抜き取った漫画の山に手を延ばし、一冊目を読み始めた。

 

途中でお腹が空いてお弁当を食べるべく手を止めたことをのぞけば、私はずっと漫画に読みふけていた。

……それはもう、時間なんか忘れされるくらいに。

私はふと、外が暗くなり始めたので電気を付けようと立ち上がった。そのときに目に入ったのだ。19時を示すデジタル時計が。

 

「ま、まずいです!集中しすぎました!」

 

きっともうすぐ帰ってきてしまいます!急いでこの山を片づけないと!

半分ほど片づけたところで、ガチャリと鍵の開く音がなる。

私はすぐに立ち上がり、玄関に駆けていった。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいです!」

 

そのまま勢い余って春斗さんにダイブ。これが犬の性。お留守番の後、主人が帰ってきたらつい甘えてしまうのです。私も例外ではありません。

 

「春斗さん!今日はお洗濯物とその他お掃除をしましたよ!」

 

「お、ありがとな。てか落ち着けよ。尻尾がめちゃくちゃ揺れてるぞ?」

 

「えへへ」

 

きっと今の私の表情はだらしないものでしょう。

見られないように、春斗さんの腰に手を回し、抱きつく。


「お、おい。何だよ放せよ」

 

「いやです~」

 

私はずっと玄関先で頬摺りをしていた。

 

しばらくしてから部屋に戻ると、山となった漫画を見て、春斗さんに注意された。今度からは気を付けようと思う。

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