うちのまさくん

@cocomeno

まさくん、

私は小西原日向こにしばらひなた、高校1年生。母1人子2人で妹のさくらは小学校4年生、母の晴子はるこは近くの三丸スーパーで働いている。

父親は私が6歳の時にいなくなった。

それでも、家族3人仲良く、時に喧嘩したりして暮らしている。


でも、普通の家庭とちょっと違うのはもう1人の人物。

36歳独身、まさくんがいることだ。『くん』とついてるとおり男性。

ただ、お母さんの恋人ではなくて元同僚らしい。「君のお母さんは昔から頑張り屋さんだったんだよ」と褒めていた。一呼吸おいて「安心してはるるんへの下心は忘れたことないから」とキメ顔で言ってたので、まさくんは頭がおかしいのだと私は思ってる。

そんな、まさくんを含む『4人家族の日常』


住んでる家は一戸建てで、通ってる高校からはちょっと違い。まさくんは私たちの前で自分のことを『居候』と言っているけど、実はこの家、まさくんの実家なのだ。まさくんの両親が亡くなって「1人で寂しいから」ということで、住まわせてもらってる。

ここに引っ越して来たのは10年前、父親がいなくなったのと同じタイミングだ。

夜な夜な、両親が言い合ってるの見てた。小さい私は理解出来ないで、あっという間に父親はいなくなっていた。

ここに引っ越して間もない頃、お父さんはどこに行ったのか、まさくんに尋ねたら、「僕もどこに行ったのか知らないんだ。でも、悪い人ではなかったよ。」と伏せ目の暗い表情で言ってるのをみて聞いちゃいけないんだと理解した。それ以来、父親の事を質問したことはない。まさくんも自分から私の父親のことを話すことはない。


学校の部活が終わって帰ると、いつもまさくんは家にいて家事をしている。仕事は介護関係らしいけど、働いている姿を見たことは無い。私が学校へ行っている間に働いているのだろう。

お母さんは22時前に職場から帰ってくる。残ったお惣菜をビニール袋にいれて疲れた表情を浮かべている。いつも仕事大変だねというと「遅番の方がお給料が良くて、お惣菜も貰えるからいい」と笑顔で答えていた。

妹の桜は学校が終わり、一旦家にカバンをおいてから、近くの公園で友達と遊んでいるみたい。17時のチャイムを聞いて帰って、それからは学校の宿題をしている。


いつも通り部活が終わり、20時半に家に着くと、桜とまさくんが一緒に遊んでいた。家には細長い形の無線のリモコンをふったりするタイプのテレビゲーム機がある。もう新しいソフトは出ないらしい。買っているソフトの中で、山や川、海で昆虫や魚を捕まえ、動物を写真に収める様な大自然を遊び尽くそうというコンセプトのゲームをふたりでプレイ中だった。前に「川は4種類、山は16種類で図鑑をコンプリートできる」と桜は言っていたけど、私はちまちまと集めるような作業は得意ではない。

テレビ画面では、草原を虫取り網を手に持つ桜くらいの女の子が駆け回っている。

「公園に餃子くらいのバッタがいたんだよー!大きかった!!」

「ええ、それは大きいね!どんな感じだった?」

桜がリモコンを持ちきゃあきゃあ、なしゃぎながら、まさくんに話しかけている。

餃子。うちで餃子といば、揚げ餃子のこと。お母さんが仕事帰り持って帰るお惣菜の餃子が『揚げ餃子』だからだ。焼き餃子とは大きさはあまり変わりなしない。

「うーん、ちいさいの!」

「ちいさいの?」

まさくんが聞き返している。私も頭に『?』マークが浮かんでいる。大きいんじゃなかったのかな。

「ちいさいバッタだったよ。滑り台の所で捕まえたのと同じ!」

それを聞いてまさくんは合点が言ったように答えていた。

「あー、ショウリョウバッタね」

「そうそう!ショウリョウ、ショウリョウ!!」

桜は言いたかったバッタの名前を思い出せてよろこんでいる。ふたりで公園に遊んでいるところをよく見かけている。その時に一緒に見つけたんだろう。

私が帰ってきた事に気づき、変わらないテンションで声をかけられた。

「お姉ちゃん、おかえり!ショウリョウバッタって、なんでショウリョウバッタっていうか知ってる?」

唐突な質問で驚いた。そのせいで頭が働かなかったのもあるけど、そもそも全く知らないので答えられない。

「ブッブー、時間切れー。答えは小さくて軽いからでしたー」

桜は自分だけ知ってるということが嬉しいみたいだ。

「小さくて軽いから、計量器に載せた時にちょっとしか針が動かないから、ショウリョウなんだよー」

誇らしげに言い張っている。まさくんは笑顔で桜の頭をぽんぽんと撫でている。

「そうだったね。よく覚えてたね」

うん。多分だけど、それっておかしくないかな。そんな、簡単な名前の付けかたなの?

『それって本当なの?』と聞き返す前に、桜はテレビゲームの世界に舞い戻っていた。


後で調べたら、ショウリョウバッタの名前の由来は桜が言っていたものとは全く違っていた。昔、精霊祭が行われる8月頃によく姿が見かけられており、その祭りの時に精霊流しというものが行われていた。その際に『精霊船』というものが使われていて、バッタの形がその船に似ていることから、ショウリョウバッタと名付けられたらしい。

桜が計量器で少量の重さだというデマを信じたのは、まさくんが話したからだ。軽いから少量のバッタ、絶対に違うと分かっていてそういってるんだから、適当でいい加減な男だ。桜がまた何処かで同じようなことを言って、恥をかかないように今度ちゃんとしたことを教えよう。今度、あのゲームをしている時にまさくんを怒りながら、桜にちゃんとしたことを教えようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る