商都ニーヌヴの乞食娘

壺中天

第1話

 彼女ニレニケは足が悪かった。生まれつきか、病気か怪我か、片足の骨が歪んでいる。

 つぎはぎで垢まみれの襤褸ぼろを纏って、街の壁を這うように伝って歩いた。汚い染みのようだとも、みっともないヤモリのようだとも思ったものだ。


 手癖は悪い、腹は黒い、口は汚い。顔は泥だらけの芋のようで、空っぽの頭はとりのように忘れっぽい。体は腐った塵芥ごみえた臭いをさせていた。一度も切ったことのないような髪だけが長かった。

 いつも道端にむしろを敷き、それに座って物乞いをしていた。その筵が寝床であり、彼女の宿でもあった。怠け者で、腰が重く、尻軽だった。求められれば、どんな男にでも股を開いた。


 だが、心には密かな山の川底からとれる砂金のように綺麗なものを持っていた。

 あの日、俺は暗殺者の刃を逃れたものの、回る毒に足を縺れさせ路地裏で仰向けに倒れた。起き上がろうとしても起き上がれないまま意識は遠のいていった。

 声を掛ける彼女の背後からが射していて、その姿は女神のようだった――。

 

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