泣きっ面に双子

@tobaharuka

泣きっ面に双子

みなさんは一卵性の双子ってそっくりなので、同じだって思っているでしょ。

区別なんかつける必要ないって、どうせ一緒だって思っているでしょ。


でも二人は別個独立の存在、一人一人違うんですよ。


私は、その一卵性双生児の一人としてこの世に生を受けました。

私は、姉です。

ですから妹がいます。


小さいころから私たちはまったく違う姉妹でした。

妹は、いつも笑顔で積極的で華やかで成績もよくって運動もできて人気者です。

姉の私は、うまく笑うことができなくって、消極的で勉強も運動もできなくて、地味で目立たない存在です。

見た目、

例えば顔ですが、パーツは確かによく似ています。ほぼ同じかもしれません。でも配置が少し違うのです。妹のは非常に良く整っていて、私のは・・・微妙にズレているのです。

体系も、身長は同じくらいです。ほとんど同じといっていいかもしれません。妹はすらっとしているスリム体型。私はふっくらとしたぽっちゃり体型です。

髪の毛も同じ天然パーマですが、妹は優しいウエーヴ。くるんと可愛くカールしています。私は、激しく硬く波打っているのです。ボサボサ+パサパサという表現になるのでしょうか。ギリシャ神話に出てくるメデューサを見たときにゾッとするくらい自分に似ていると思いました。分からない人は検索してみてくださいね。髪の毛がヘビになっているそれです。小学生のとき、美術の本に載っていたメデューサの髪の毛がヘビだったことから、クラスの意地悪な男の子たちに「ヘビ女」と呼ばれて以来、陰ではずっとそのように呼ばれていたようです。


高校の文化祭で、妹は、その美貌を買われて、演劇部でもないのに助っ人として、ヒロインを演じたことがありました。

妹の舞台を見た女子はみな涙して、男子はみなときめいていました。

だって正直可愛いのですから。


私は、その舞台の裏方でした。

ライトで出演者を照らしたり、花びらを舞わしたり。でも、不器用な私はうまくできなくってみんなから「わざとやってんじゃないのか。」「妹が可愛いから嫉妬してるんだろ。」とか言われ、挙句の果てに、「参加すると邪魔になるだけだから舞台の袖で見ていることが一番役に立つ。」という世論から、当日はホントに何もやることがなく、手持無沙汰でした。


妹は、そんな私に優しくするものだから、余計に妹の株は上がり、私はホントに、妹という光によってできている影のような存在でした。時には天使と悪魔のような言われ方すらすることもありました。


そんな私の哀しみを癒してくれるもの。

それが音楽でした。

母親が、私たち姉妹を物心つく頃からピアノ教室に通わせてくれていました。それに加えて妹は、歌がとても上手で、私が聞いていても、小鳥のさえずりのように愛らしくって可愛くって、正直、聞き手を癒すような歌声でした。

クラスの友達から、弾き語りで唄ってと言われて、音楽室でよく唄っていました。

私はというと、みんなの前で唄ったことなどもちろんなく、そんな度胸も愛嬌もありません。音楽の時間、テストでどうしてもみんなの前で唄わなければならない時も、つぶやくように蚊の鳴くように、小声よりも小さい音で唄うばかりです。先生も呆れて、「その音量では評価もできませんね。」などと言うほどでした。自分でもわかってはいるのですが。

それほど上手に弾けるわけでもないピアノでしたが、そんな私の哀しみをいつも優しく癒してくれるのでした。ラフマニノフという人のピアノ曲が大好きでよく聞いていました。興味のある方は動画検索してみてください。そのとき一曲あえて選ぶとしたら、「ピアノ協奏曲第二番」というヤツを探してみてください。もちろん自分ではうまく弾けないのですが。


私は、クラスの中でまったく相手にされない存在でした。

クラスの人から相手にされていない女子が私だとすると、男子にも一人、相手にされていない人がいました。その人は、たまにしか学校に来ないし、来ても誰とも話さず、窓の外ばかり見ていました。

その男子は、長く伸ばしたざんばら髪を金髪に染めていて、体格も周りの男子より一回り大きく、眼つきがナイフのように鋭かったので、みんなは、見て見ぬふりをしていたというのが正しいかもしれません。

噂では、町はずれにある、本当は暴力団事務所と言われている建築事務所の社長の息子らしく、先生たちもその態度を注意する人は誰もいませんでした。ただ、暴れるでなく、静かなのも、余計に恐ろしかったので、触らぬ神に祟りなし、って感じだったのでしょうね。

みんなは彼のことを「竜」って呼んでいました。彼自身の名字や名前の一文字だったのか、当時あったヤクザ暴力系のマンガかゲームのタイトルからとったのか、なぜそう呼ばれていたのかは、忘れてしまって思い出せません。


ピアノの話に戻りますね。

私の家には電子ピアノがあったのですが、弾くときは迷惑にならないようにヘッドフォンで、それから強く鍵盤を叩くことも遠慮して、それに電子ピアノはエレクトーン的な電気的に音を出しているので、やはりグランドピアノの感触や音色とは違っています。だから私は、誰もいない音楽室で、よく放課後グランドピアノを独りで弾いていたのです。

いつの頃からか、その金髪の男子(竜クンと私は読んでいたので、これからはそう書きますね)が、私のピアノを聞きに来るようになったのです。

最初は怖くって、そそくさと逃げていたのですが、ある日、「逃げないで弾いてくれないか。オレ、アンタの弾くピアノ超好きなんだよ。」と竜クンが言うのです。

見た目と違ってなんと柔らかくて優しい声。いつも誰とも話さず、何の発言もしないので、初めて聞いたその声が想像とは大きなギャップがあって、ものすごく驚きました。

「オレ、邪魔にならないように部屋のすみで聞いているからさ。」そう言って部屋の隅にいる竜クンはまるで影そのものでした。

だから私とちょっと似ているところがあるなあと思っていました。


何日か、何週間か、いや何か月だったのかが過ぎたある日のことです。

朝登校したら、教室の黒板に、いたずら書きが貼ってありました。

金髪の恐竜が、ヘビ女の弾くピアノを聞いている絵でした。


始業寸前に、竜クンが教室に入ってきて、その黒板に目をやると同時に先生が来ました。「何だこの落書きは・・・」という先生の言葉の途中でした。竜クンが教壇のところまで行くと、おもむろに教壇を素手で叩き壊しました。信じられません。バットか何かで砕いたような力です。ただカレの手からはおびただしい血が流れていました。表情はただ冷たく、顔色一つ変えず、眼つきだけがナイフのように鋭かったです。

教室は一瞬で凍りつき、「描いたヤツ前に出てこい。出てこないなら、クラス全員をひとりずつこの机みたいにぶち壊す。」その言葉は静かでしたが、怒鳴るよりも何百倍も恐ろしかった。

クラス全員が叫び声をあげながら逃げ出しました。先生もです。

竜クンは唯一逃げなかった私を見ると笑って、

「ごめんな、俺のせいで嫌な思いさせて。」

確かにそう言ったのです。

すぐに他の先生たちがやってきて、「その子から離れろ!」と言うのです。

私は、人質じゃないよ。そう言いたかったけど声が出ませんでした。体育の先生が三人がかりで竜クンを止めようと近づいてきて、竜クンは何もしていないのに、そう私が思っていると、先生たちは一斉にとびかかったのです。三対一、それに大人三、子供一ですよ。竜クンは猛獣のように翻って、三人の先生を一気に拳で殴った。三人とも一瞬で崩れ落ちた。教壇を一撃で破壊するんだから骨とかが砕けたに違いないと私は思いました。警察がすぐにやってきて竜クンを取り押さえて連行していきました。


竜クンはそのまま退学になりました。


そして後は、「時」の得意技、常套手段、

「時」は、すべてを流してくれました。

その流れに乗って、私たちは高校を卒業したのです。


私たち姉妹は、東京の大学に合格しました。

妹は、どこかで聞いたことあるかなっていう名前の、フツーの大学へ。文学部でした。

私は、音大へ進みました。

音大というと聞こえはいいのですが、無名の三流音大でした。

妹は、どうやら中学とか高校の時からちょくちょく遊びに行っていた原宿だったか渋谷だったかでスカウトされた芸能事務所にそのまま所属して、大学に通いながら、アイドルなのか、歌手なのか、女優なのか、その類のデビュー目指して、レッスンを受けていました。


私は学費を稼ぐため、平日休日、昼夜問わず、清く正しいところもあれば、いかがわしいところもある、いろんな店でピアノ弾きのバイトを始めました。

妹は、都心のワンルームに暮らしていたのですが、

私は、大学の授業の関係で、どうしても家で電子ピアノでない鍵盤ピアノを置いて、そのピアノを弾くことが許される部屋を借りるために、郊外からの遠距離通学になりました。もともとピアノを弾くことそのものが好きなので、寝食を忘れて弾き続けたのです。心は楽しかったのですが、身体はつらかったのでしょう。気がついたら体調を崩していました。


でも怪我の功名とは、このことなのかもしれません。

「人間万事塞翁が馬」というやつなのかもしれませんね。


大きく体調を崩してしまった私は、結果的にものすごく痩せてしまったのです。


そして、夜のバイト先の店にはきれいな女性がたくさんいて、

夜の街で生きている美しき蝶々はそれなりに悲しい理由があるもので、

少なからず私のピアノを愛してくれました。

私のピアノを愛することで、癒され、慰められ、そして涙する人もいたのです。

私と仲良くなったその人たちが、私に化粧という魔術を教えてくれました。

そしてさらに、ヘビ女の象徴である髪の毛も、

夜の蝶々の一人が美容師という昼の姿を持っていて、

彼女にストレートパーマという魔法をかけてもらうことによって、

消すことができたのです。


そうして、

醜いアヒルの子が、白鳥になったのです。


ある日のことでした。

たまたま、私がピアノを弾く夜の店に、妹が連れてきたタレント事務所の人たちの目に私の姿が留まり、妹と同じ事務所に所属しないかと言われたのです。

音大ルートのクラシックではなく、ポピュラールートの安易なデビューではありましたが、私はピアノが弾ければそれでよかったのです。それが何よりの幸せでした。

それに加えて、たくさんの人が自分の音楽を喜んで聞いてくれるなど、もったいないくらいありがたかったのです。


私たちが双子のグループとしてデビューするのに、それほど時間はかかりませんでした。

私のピアノで妹が唄い、ある程度知名度も上がり、人気も出て、生活するには十分なお金も手に入ったのです。


そうしているうちに、全国ツアーなどもできる身分となり、その最終日。

都内の大ホールでのコンサートの観客の中に、私は見つけたのです。

間違いありません。

あの金髪の人、

竜クンです。


途中球形の時間、私は観客席を探しました。

すると、会場を出ていく彼が見えました。

控室からあわてて外に出ると、

黒塗りの車に乗り込もうとする、

黒づくめの盾のような人たちに守られている、

黒づくめの彼がいました。

「竜クンでしょ!」

私は、人生でこんなに大きな声出したの初めてでした。

そして自分にもこんなに大きな声が出せることに驚きました。

大きな黒づくめの影も、声の大きさに驚いたのでしょう。

ぴたりと動きを止めたのです。

「人違いですよ。」

「嘘だ!竜クンだよ!

 私のピアノを聞きに来てくれたのね。」

「人違いです。」

「私、あの日からあなたのこと忘れたことなかったよ。」

「残念ですが、人違いですよ。」

そう言って、

黒づくめの黒い影は車に乗ると、

黒い車は、黒い闇の中に消えていったのです。



それ以来、私は竜クンに会ったことはありません。

いつもコンサートで観客席に彼の姿を探すのですが、

竜クンらしい人を見つけたことはありません。


昔々の、ちょっと切ないお話でした。


最後までお付き合いいただき、

ありがとうございました。


































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