第3話:果報者

武蔵はアメリカの依頼主のところへ行く途中、その移動時間にもゲノムのマネージメントをする為にと、ある富豪女性の依頼を受け、そのプライベートジェットの中でマネージメントを済ませた。


しかし、その機内で突然にパイロットが倒れるというトラブルに見舞われる。


「どうしましょう!?このままパイロットの意識が戻らなかったら」


「仕方がないな。こうなったら、もう一度、君のゲノムを弄るしかない」


武蔵はベッドから体を起こして、ベッドの端に座っていた。


「それで何とか出来るのですか?」


女は立ち上がって、武蔵の方を向いている。


「本来は一人の人間のゲノムマネージメントは一度きり」


「それは知っています」


「そして未来を確定させる様なゲノムの改変は許されていない」


「それも契約の時にお聞きしましたが」


「このままだと俺達は間違いなく死ぬ事になる。それを死なない様に改変するのは違反だという事」


「という事は?」


「あくまでも、許されている改変は生き残れる可能性を作るだけ」


「でも、それじゃあ、、、」


「そういう事。必ず生き残れるとは限らないし、死ぬ事も十分に考えられる」


「そうするしかないのかしら!?」


「いや、今回の様にゲノムマネージャー自身の生命の危機に際しては、あらゆる規制を無いものとする事は出来る」


「良かったわ」


そう言うと、女は武蔵の隣に腰を下ろした。


「場合によっては殺人だって、罪には問われない」


「そうなのね」


「でも、殺人をする様な者は、そもそもゲノムリーダーにすらなれない」


「そりゃ、そうよねぇ」


「ただ、今回の様に強引なゲノムの改変をする事になれば、その歪みは余所へ転嫁される事にはなる」


「それはどういう事なのかしら?」


「簡単に言えば、俺達の命を守る代わりに他の誰かの命が奪われる事になるって事」


「誰の?」


「それは分からない。勿論、宇宙のゲノムを調べれば知る事は出来る。でも、それをするゲノムリーダーはいないだろう」


「どうして?」


「宇宙のゲノムを知ってもロクな事はないという事さ」


「ロクな事って?」


「今、世界では多くの者が自らの命を断っている」


「そういえば、あなたの母国の日本は若者の自殺が問題になっているようね」


「余り知られてはいないが、若者の自殺者の何割かはゲノムリーダーなんだよ」


「本当なの!?」


「ああ、だから世界にゲノムマネージャーは100人程しかいないが、その中で日本人のゲノムマネージャーだけが30人を超えている」


「それって、良い事なのか、悪い事なのか、、、」


女が言葉に詰まる。


「一方、ゲノムリーダーの9割は若い内に自殺をしてしまう」


「そんなにも、、、」


再び女は言葉に詰まった。


「宇宙の真理に触れ、宇宙のゲノムを読んでも、その先にあるのは絶望しかない」


「あなたは?」


「そう。俺は宇宙のゲノムを読める様になっても、それ以上は深入りしなかった。その辺が分かれ道となるのかもしれないね」


「そうなのね」


「知りたくなる気持ちは分からなくもないが、それを抑える事が出来ないと、自らの身を滅ぼす事にもなる」


「ゲノムマネージャーになるのも大変なのね」


「でも、結局は何事もそうなんだよ」


「どういう事?」


「分からないものの先にある"何か"を感じ取る事が大切なのさ」


「分からないものの先にある"何か"、ねぇ」


「勿論、知らない事を知ろうとする姿勢も大切なのかもしれない」


「そうねぇ」


「でも、知りたい、と思う事。それ自体がエゴなんだよね」


「エゴかぁ」


「そして、そのエゴに振り回されてはいけない、という事」


「なるほどねぇ」


「それに知らないままでいた方がいい事もある」


「それはそうですね」


「先程の"誰"という問いもそう」


「そういえば、それが気になっていたのよ」


「誰なのかを知ってしまったら、俺達が助かる事が申し訳なくなるだろ!?」


「知らないままでも、いい気はしないわね」


「でも、俺が此処に居合わせている事。その事がその様な改変が行われる事が必然である事を表してもいる」


「なるほどねぇ」


「だから、そんなに気にする必要はないさ」


「分かったわ」


「それじゃ、マネージメントを済ませておくか」


「ねぇ、ひょっとして、二度もゲノムのマネージメントをして頂けるなんて、私って果報者なのかしら?」


「果報者かはともかく、世界でも数える程しかいないだろう」


「じゃあ、きっと果報者だわ」


「俺の方ももう一度、君のマネージメントが出来るなんて、果報者だな」


「あら、いやだ。それならおっしゃって頂ければ、宜しかったのに」


「だから、そんな事は知らないままでいた方が果報者でいられたのさ」


そう言いながら、武蔵は女に覆い被さる。


女は武蔵に身を委ねた。

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