第2話:律儀者

「Mr.Musashino. 本当にありがとうございます」


「何度、言ったら分かるんだ!?"Mr."も"no"も要らないと言ってるだろ」


武蔵はベッドの上で仰向けになっている。

上半身は裸で下半身には布団が掛けられていた。


※因みに此処での会話は英語で行われている。


「いえ、そういう訳にはいきません。私にとっては大切なお客様なのですから」


ベッドの脇にテーブルと椅子があり、ガウンを着た女が一人、座っている。

そのテーブルの上に少しだけワインが注がれた、ワイングラスが乗っていた。


「それはお互い様だろ!?しかも、俺の方が過分な金銭まで頂いている」


「いいのです。それが私の感謝の気持ちです」


「勿論、くれるもんは貰っておく。その分で貧しい者をマネージメントする為の経費に回せる訳だから」


「是非、そうして下さい」


女はワインを一口だけ飲んだ。


「ただ、俺は金で仕事をしている訳じゃない」


「じゃあ、何で仕事をしているの?」


「俺の仕事に対する正当な報酬は女の体だけ」


「あら、まぁ。ゲノムマネージャーらしからぬ、お言葉」


「俺は出来損ないだからな」


「じゃあ、マネージメントはセックスをする為の口実なのかしら?」


「そう思うなら、そう思って貰っても構わない」


「契約の時の説明ではマネージメントの手段がセックスだとの事でしたわね」


「そういう事。それを信じるかどうかは君の問題だ」


「信じるわ。だから疑問もあるのよ。何故、そうまでして女性の体に拘るのか」


「過分な金銭を頂いちゃっているからな。仕方がない」


「あなたも結構、律儀なのね」


「君程じゃないさ」


「そうかしら!?」


「まあ、いい。話を続ける」


「どうぞ」


「先ずゲノムマネージャーのマネージメントの手段は人それぞれ。そんな中で俺の手段はセックスだった」


「他にもその様なゲノムマネージャーはいるの?」


「いや、恐らくは俺だけだろう。他に聞いた事は無いからな。世界に100人程しかいないゲノムマネージャー。もしいたら、耳には入ってきているだろう」


「そうなのね」


「そして俺はマネージメントの手段がセックスだから、女性専門のゲノムマネージャーになるしかなかった」


「それが不満なの?」


「若い頃はそれがコンプレックスだった」


「なるほどねぇ」


「でも、ある時、気付いた」


「何に?」


「それもまた、俺に割り振られた役割だと」


「役割ねぇ」


「そして、そうやって割り切ると、結局、命の基は雌なんだって」


「雄は雌の突然変異なんて話は聞いた事があるけど」


「その基となる女さえ救済が出来れば、そこから連なる全てを救済する事にもなる」


「なるほどねぇ」


「だから俺は俺で自分に与えられた役割を果たせばいい。男のマネージメントが出来ない事で卑屈になる必要は無い」


「そうね」


「ただ、俺にとっては女がこの世界の全てであり、女の体だけが全て」


「そういう事だったのね」


「だってそうだろ!?何故、俺はゲノムリーダーとなったのか」


女は微笑んだ。

武蔵が言葉を続ける。


「俺のこの特殊な能力を活かしてくれるのは、女の体だけ」


「そういう事になっちゃうのかな。話を聞く限り」


「だから俺にとっては女の体が最高の報酬となる。そして金は厚意による寄付の様なものにしか過ぎない」


「分かったわ。もっと寄付をしてあげるわ」


「別にそういうつもりで話をした訳じゃ」


武蔵は苦笑した。


「いいのよ。厚意による寄付なんだから気にしないで。そして、それだけあなたに感謝をしているという事でもあるのよ」


「だったら言わせて貰う。それだけ感謝をして貰えるのはありがたい。でも、その感謝の量はそのまま君の体の価値だよ」


「そんな事を言われたら、益々、寄付をしたくなるわ」


「何でそうなるの?」


「いいじゃない。あなた、さっき貰えるものは貰うって言っていたわよね!?」


「それはそうだけど」


「あなたのおっしゃりたい事も分かります。感謝をお金に変換すれば、その分、私の体の価値を貶める事になると言いたいんでしょう」


「そういう事になるかな」


「でも、いいのよ。何度も言うけど、本当に厚意による寄付なんだから。遠慮しないで受け取って欲しいわ」


「OK!俺の方も言いたい事は言ったし。遠慮無く頂く事にするよ」


その武蔵の台詞の途中で、突然、部屋に警報がなった。


女が外部の者と連絡を取る。


外部からの連絡によると、パイロットが突然に意識を失ったとの事。


暫くは自動運転で問題無いが、このままだと着陸が出来ない。


今、武蔵は女の所有するプライベートジェットでアメリカへ向かっているところだった。

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