カンサイ崩壊

祇園四条

第1話 関西 悲鳴

「間も無く大阪、大阪です。お出口は...」

 2017年 7月28日 金曜日、夏だ。俺の名前は大塩賢治おおしおけんじ。三ノ宮に住む高校二年生だ。今日は高校の友達と大阪で遊ぶ予定だ。しかし夏休み関わらずに朝の8時台の新快速は満員だ。ドアが開いてやっと蒸れ蒸れ満員電車から開放された...と想いきや暑い。そして大阪駅の御堂筋口の改札前に着いた。あれ、まだ皆来てないのか。

「お待たせ〜!!」

 数分してから後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「先越されとったわ〜」

「残念や」

「早すぎだよこのおバカ」

 やっと来た。何かただ早く来ただけで暴言吐かれた。

「一番で悪かったな」

「今日寝坊せんかったら一番やってんけどなぁ〜」

 こいつは新田小町しんでんこまち、普通の女の子だ。

「ずっとバカみたいにゲームしてるから寝坊したんじゃないのかい?」

 こいつがさっき俺に暴言を吐いた上町颯かんまちはやてだ。男みたいな事ばっか言うが女だ。

「言うてお前も今日寝坊したやんけや!!」

「あれっバレちゃった?」

「お前らなぁ...」

 こいつは浜田章はまだあきら、俺のクラスの委員長だ。委員長と言えばしっかりしてる...と思われるがそうでもない...な。全員俺と同じクラスメートだ。休み時間はいつもこいつらと一緒に居る。お陰で楽しい学校生活が送れております。そして今から大阪を満喫するのであります。

 ...そして夕方、JR大阪環状線の大阪駅から天満駅間では...。

 ガタン...ゴトン...ファーーーン!!!!

「うわあああ!!」

 列車が大阪駅前で急停車した。中の乗客は急ブレーキで大きく揺れる。

「ただ今この電車の前の線路上に人が立ち入ってるため、一時運転を見合わせております。安全確認が取れ次第発車いたします」

 車掌がそうアナウンスをする。

「はぁ...!?」「えぇ...」とため息が車内に響く。その頃運転士はドアを開けてその立ち入っている男を大阪駅の駅員と保護する。黒の服を着てずっと下を向いている。

「何しとんや?こんな所居ったら危ないやろ?」

「...」

 何も言わずにずっと下を向く男。運転士が状況を報告する。

「はぁ...えー、こちら4203M...」

「グゥ.........」


 俺達は梅田に戻った。ん?自分のスマホに通知が来た。交通アプリの通知だ。それを開くととんでもない事が起きていた。

「京阪神鉄道全路線運転見合わせ」

 け、京阪神全路線...?確かに大阪駅前の橋を見ると電車が止まっている。なんか運転士?みたいな人と男の人が居る。

「どうしたの?」

「いやぁ、京阪神全鉄道路線運転見合わせって通知が来たんやわ」

「あ、それ僕の友達がTwitterで言ってたよ」

 そう言って俺にその友達のツイートを見せる颯。そのツイートを見ると確かに南海電車が駅と駅間に止まっている写真がある。何だ?緊急地震速報?いや、それなら俺達にも通知が来るか。すると突然俺のスマホの画面が暗くなった。な、なんだ?と思っていると颯、小町、章のスマホも画面が真っ暗になった。周りを見ると皆のスマホも暗くなった。ざわざわ騒いでると...スマホの画面に仮面を被った人が映し出された。


「みっなさーん!こーんにーちわー!」


甲高く元気な子供のような声が梅田に響く。

「今、皆のスマホにボクが映ってるよね?これね?ボクの仕業何だ〜!!」

 無邪気な笑い声が響く。な、何なんだこれは?

「あ、いきなりこんな放送流したって意味なかったんだった!!自己紹介忘れてたよ〜!!ボクの名前は犯罪組織「Zero」のトップ、「E25」だよ〜!!」

「えっ......!?」

 俺達はゾッとする。そりゃ当然だ。あの世界的に有名な犯罪組織「Zero」のトップだぞ...。犯罪組織「Zero」とは、世界各国でテロや事件を起こしている。幹部は軽く10万人居ると言われている。拠点はどこかは不明だが海外での活動が多い。日本人がこの組織のトップ...この組織についてあまり詳しいことは分かっていない。日本にはまだZeroによって事件や事故は起こっていなかった。そんな奴がまさか...日本に来るとは...。

「この放送は関西全域に流れてるんだ〜でね?今ね?関西の交通全部ストップさせたんだ〜!!これはZeroが長年作り上げた技術ってもんだよ〜!!でね?でね?何でこんなことするかって言うと〜...今から楽しい楽しいゲームを始めるんだ〜」

 は?げ、ゲーム?

「ふざけんな!!!」

「はよ電車動かせや!!!」

「いてまうぞボケ!!」

 周りの人はとうとう怒りを顕にし始める。騒がしくなる梅田。

「まぁまぁそんなに怒んないでよ〜!ボクの話聞いてよね!!そのゲームの内容はね...怪物から逃げるゲームだよ」

...え?何言ってんだよこいつ。そんなの信じる訳...。

「キャアアアーーー!!!!」

 えっ!?突然俺の真横で小町が右腕を抑えながら叫び始めた。苦しそうな顔をする小町。

「今...叫んでる人が居るよね?その人から...逃げた方がいいよ」

「うわぁああああ!!!!」

 高架の上で止まっている電車の前に居た運転士も背中を抑えて叫び始めた。

「うぅっ...うおぇっ...!!がはぁっ...!!」

 血を吐きまくる小町。するとE25が話し続ける。

「その人ね...今から...人を襲う怪物に変身するんだ〜!!!」

「ぐはぁっ!!ぐわぁああああ!!!!」

 嘘だろ...!?小町が...人じゃなくなった。本当に...怪物になった。身体が変色して骨や筋肉が丸見えになって右手が剣のように鋭くなっている。周りの人は悲鳴をあげながら逃げる。橋の上で止まっていた電車からも人が次々と降りる。俺達もその場から逃げようと走り始めた。しかし怪物が俺達に飛び付く。

 寸前で交わすが俺はその場にこけた。

「あ、そうそう!!もし怪物に噛まれたり怪物の体液が自分の体液と混ざったらその人は怪物になる事があるんだ〜!人によっては早い遅いあるけどね!!」

「グワァアアア!!!」

「うっ...!?」

 怪物が俺めがけて飛びつこうとしてきた。俺は恐怖で身体が硬直して動けずに目を閉じることしか出来なかった。もう...終わった.........あれ...?何も...痛くない...!?目を開けると目の前に刃がある。その前には...章が居た。俺の前で腹を刃が貫通したまま仁王立ちしている。

「じゃ、ゲームの説明はまた明日にするから。その時まで頑張ってね〜!!!」

「うっ...!!」

 腹から刃が抜かれた瞬間バタりと前に倒れる章。そのまま怪物は他の人を次々と襲い始めた。

「あ、章...!!おい!!...!?」

「...賢治...逃げろ...俺なんかもういいから...!!」

 するとすぐに身体が変化し始めた。...嘘だ...嘘だろ...。こ、こんなの...嫌だ...!!

「賢治!!」

 はっ...!!颯の声が聞こえた。

「早く逃げようよ!!」

「...っ」

 俺と颯は手を繋いで逃げる。周りの人達も逃げ惑っている。駅や電車、店やビルから物凄い量の人が飛び出してくる。気が付けば淀屋橋まで走っていた。周りには血が零れている。御堂筋が地下鉄御堂筋線の路線カラーである「赤」のように真っ赤に染まって警察やスーツを着たサラリーマン達が身体を抉られて倒れている。そして逃げ回って逃げ回って20分が経過した。颯の体力が限界に来たからか颯が突然バタりと倒れた。

「ど、どなえした?」

「...け、賢治...もう...行って...」

「は、はぁ!?何言うてんねん...何バカな事言うてんねん...!!」

「もう...ぼ、僕動けないよ...ほ、ほら...か、怪物が来てるから...」

 後ろを見ると10数体の怪物がこっちに迫っている。しかし俺は諦めなかった。俺は颯を担いで走って行く。こんな所で諦めてたまるか。しかしそれは長く続かなかった。道頓堀を過ぎた辺りで体力が無くなって裏路地に隠れた。......。言葉が出ない。どうすればいいのかも分からない。御堂筋からは人の悲鳴が聞こえる。刺される音や抉られる音、耳を潰したいくらい聞きたくない音が聞こえてくる。

「...ごめん、賢治」

「ええよ...放っておく訳にいかんし...」

 バリリリィんっ...!!!

「!?」

 突然ビルの窓ガラスが割れた。その窓ガラスから怪物が裏路地に入って来た。怪物はどんどんこっちに迫って来る。

「...賢治、もう逃げて」

「......いや、まだ」

「ボクみたいな奴が居たって足で纏になるだけだよ...だから1人で」

「グワァアアア!!!」

 怪物がこっちに向かって走ってきた。俺は颯を担いで...あれ?颯が居ない...え!?前を見ると颯が怪物に向かって走っている。怪物に歯向かおうと殴ったりするがすぐに弾き飛ばされる。そして怪物は両手で颯の首を絞め上げ始めた。

「うっ...くっ...け、賢治っ...うあっ...逃げて...!!!」

 身体の震えが大きくなり始めた。目の前で首を絞められている颯が居ることに恐怖で何も出来ずにただ呆然と見ることしか出来なかった。

「...い、嫌や...これ以上...これ以上」

 両手が下がって力がもう無い颯。するとこっちを見て微笑む颯。


「っ...賢治......好きだよ......っ...」


 そういった瞬間颯の両手が下がったと同時に颯の首から両手を離す怪物。颯は動かなくなった。

「...は......颯...?」

「グゥウウ......」

 颯の元に行くがもう意識は無くぐったりしていた。怪物は威嚇しながらこっちに近付いてくる。

「ひっ...あ...あぁっ...!!うわぁああああああああ!!!!!」

俺の足が颯と反対側の方へと動く。俺は後ろを振り向かずにそのまま宛もなく走る。...周りを見ても血と死体だけ。華やかだった難波は死体だらけ。その死体の中には小さな子供を抱いたままの母親も居た。俺は目と耳を潰したい思いで死体の街を駆け抜けて行く。


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