四天王は勇者になる
八木山蒼
プロローグ 謎の青年
かつて魔王と勇者がいた。
両者は激しく戦い、やがて勇者が勝ち、魔王は滅んだ。
だがそれで戦いが終わったのではない。
むしろその時から始まったのだ、本当の戦いが。
これは己の存在を確かめる物語。
混濁する運命が紡ぐ後に待つのは光か、あるいは――
とある山の中。
うっそうしげった木々の間に、葉の擦れる音と少年の叫び声が響いていた。
「うわあああああああああああああっ!?」
絶叫しながら木を避け岩を飛び駆ける少年、その背後にはすぐそばまで巨大なイノシシの魔物が迫っていた。イノシシは目を血走らせて少年を追っており、かなり狂暴な様子だ。
「うっ」
やがて少年は地面からわずかに出た木の根に足を引っかけて転倒する。イノシシは容赦なくそこに襲い掛かり、少年が恐怖に目を閉じたその時。
「大丈夫か?」
第三者の声と共に、どずん、と重い音。それと同時にあれほど暴れていたイノシシの動きが止まる。
恐る恐る目を開けた少年が見たものは、脳天をカチ割られて血を吹き出しつつ倒れる大イノシシの姿と、そのそばに「最初からいました」とでも言いたげに立っている青年の姿だった。
青年は剣も杖も持っておらず、体格もごく普通に見えたので、彼が大イノシシを一撃で仕留めたのだという事実を少年はしばし理解できていなかった。
「お前、この近くの村の子だろ? 夜を越したいんだ、案内してくれ」
青年は少し恩着せがましい笑みを浮かべながら手を差し伸べる。
その青年に、ほんのわずかに恐怖を抱いたのは、少年の錯覚だったのだろうか。
少し経ち、両者は並んで森を歩いていた。
青年はレオンといった。少年改めロッドたちが住む山の南にある農村から来た農民らしく、ある目的のための旅すがらこの山を通ったのだという。先々で狩猟や採取を繰り返して食料にしているらしく、今仕留めた大イノシシも足を持ってずるずると引きずっており、体格の数倍ある獲物を平然と運ぶ怪力にロッドはまた驚かされた。
「俺たちの村は山の中腹だ、少し歩けばすぐだよ」
「助かる、やはり野宿は危なくてな。宿代はこのイノシシでいいよな?」
「十分すぎるって、そんなのなくても俺を助けてくれたんだしさ」
「食糧を調達しようとしただけだよ」
レオンは思ったよりも気さくな男で、最初に抱いた印象はやはり間違いだったのだとロッドは考えていた。
「レオンはどこまで行くんだ? こんな山奥まで通るなんてよっぽど急ぎの旅なのか」
「まあな、王都シウダッドまで行かなきゃならないんだ。ここを通るのが最短だからな」
「シウダッド? あんたまさか、勇者になるつもりか?」
半信半疑でロッドが問うとレオンはあっさりと頷いた。
今からほんの数日前、世界中の空が真っ赤に染まるという事件があった。それは魔王復活の証、波乱の世の訪れを告げる凶兆だ。実際に各地で魔物が狂暴化するなどの被害が出ており、大イノシシもそのためにただ近くを通っただけのロッドに襲い掛かったのだ。
シウダッドを王都とするロルス王国は魔王を討つ勇者を探している。100年前と同じように、だ。勇者募集のお触れは山奥にあるロッドの村にまで届いていた。
だがロッドは腕を組み唸った。
「うーん、でもどうだろうな、たしかにあんたはかなり強いみたいだけど……勇者にはなれねえんじゃないかなあ」
「ん、なんでそう思う?」
「やっぱさ、勇者って王国中から選ばれるわけだからさー。あんた力は強いけど剣もないし、魔法も使えそうにないし……」
ロッドは心配して言ったのだが、レオンは笑って返した。
「見た目で判断するなよ、俺は魔法も得意なんだぞ? むしろ魔法が専門で力はそうでもない、今も魔法でイノシシを運んでんだ」
「え、そうなのか? でもレオンは農民って言ってただろ、魔法の勉強なんてできなかったはずだぜ」
「まあな、文字の読み書きすら俺はおぼつかない。だが……持って生まれたものが人生を左右することもあるんだよ」
レオンはニヤりと頬を歪め、意図して僅かな悪意を混ぜるようにして笑った。
「『きれいごとだけじゃあ世の中は回らない』、ってな」
「なんだそれ?」
「俺の口癖だ。世界にはろくに勉強もできなかった俺みたいなのもいれば至れり尽くせりの王侯貴族もいる……その例外も、な。平等なんてきれいごとは必ずしも成立しない、現実は現実だ」
その言葉には何かしらの含みがあり、ロッドの親が答え辛いことを聞かれた時の様子とよく似ていた。ロッドにはレオンの感情はよくわからず、ふーんと適当に流す。
「どうでもいいけど、勇者にしちゃずいぶん夢のねえこと言うんだな」
「悪いか? それこそ勇者が清廉潔白ってのもきれいごとだと思う、現実が全てだよ」
「まああんたがどう考えようといいけどさー、勇者を決める日って3日後だぜ。かなり急がないと間に合わないんじゃね?」
「マジか。やばいな」
「ま、遅刻で勇者になりそこねるのもある意味きれいごとじゃない現実だよな?」
「……言うなあお前」
意味深なようで軽いような会話を交わしつつ、2人は山道を進んでいった。
山の中腹にロッドの村はあった。だが2人がそこに着いた時村はすでになかった。
あったのは崩れた家屋の山、広がりつつある炎と傷ついた人々。村は壊滅していた。
「なんだよ……なんだよ、これ」
ロッドは村の惨状を見て呆然と立ち尽くす。
一方でレオンは近くにあった家屋の残骸を持ち上げ、その下敷きになっていた男性を助け出していた。男性は何か所か怪我をしていたが命に別状はなさそうだった。
「う、うう……ありがとう、助かった」
「話せるか? 何があったんだ?」
「でかい魔物が、いきなり襲ってきて……戦ったんだが体が土でできてて、斬っても突いても効かなかった」
男の話が聞こえたロッドがビクリと体を震わせる。その瞳は恐怖に染まっていた。
「ヤツだ……伝説の魔物が、魔王といっしょに復活したんだ……!」
ヤツ? と怪訝に思いレオンが聞き返すと、助け出された男性が答えた。
「ここら一帯の山は昔、ある1体の魔物によって支配されていたんだが、100年前勇者がその魔物を倒してくれたんだ。俺らの祖先はそれからここに村を作って、農業や山越えの宿で栄えていった……それが、例の異変で復活しやがったんだ。まさか言い伝えの怪物が村を襲うなんて……ぐっ」
「おい、大丈夫か!」
苦し気に呻く男性をロッドが気遣う。その横でレオンは静かに立ち上がり、辺りを一瞥した後言った。
「……何人かまだ埋まってるが命の危機のある者はいない。ロッド、ここはお前に任せる」
「え? 任せるって、助け出すの手伝ってくれないのかよ!」
「俺は魔物とさらわれた住民の方に行くってことだ。頼んだぞ」
ロッドの返事も聞かずにレオンは走り出した。魔物がどこに去っていったかも聞いていないのに、その足取りに迷いはなかった。
山の村からかなり離れ、その上木々で覆うようにして隠された場所に、その洞窟はあった。
ゆるい下りになり山の奥へ奥へと続く洞窟は暗く深く、中で何があろうとも外にはけして届かない。
その最深部にある開けた空間で、その魔物は笑っていた。
大量大量、近くに人間の村があって助かった。
魔物は土でできていた。人間の数倍はある巨人の姿をとっているもののその細部は曖昧で、穴だけの目を歪めて笑うたびに体が僅かに崩れまた再生する。その全身には邪悪な魔力が満ちていた。
久々の目覚めだ、こいつらの精気を吸い取りつくした後山を下りてもっと人間を喰らおう。その後は魔界の、魔王様のもとへ行くのだ。今の自分ならば、あいつに代わってあの座に……
そうして魔物が空洞の口でにたりと笑っていた時。
魔物のほか動くものはいないはずの洞窟の中に、声が響いた。
「やっぱりお前か」
背後から聞こえた人間の声に土の魔物は振り返る。侵入に気付いていなかった魔物は少し焦ったが、その人間を見て「なんだ」とほくそ笑んだ。
そこにいたのはたった1人、鎧もなく剣すら持っていない丸腰の男。到底魔物の敵ではなかったからだ。
『キサマ、村の生き残りかぁ?』
魔物は笑いつつその姿を微妙に変化させていく。泥人形のような姿は緻密に変化し、強靭かつ狂暴な、鬼を模した姿に変じた。その顔にも明確な表情が――嘲笑が浮かぶ。
『オレが襲った時たまたま村を離れてたってことか。馬鹿め、そのまま怯えてりゃ助かったかもしれねえのに、わざわざオレに喰われに来たのかよ!』
嘲笑う魔物に対し、青年は表情を崩さずにいた。よほど自信があるのか、それともただのイカレ野郎か……魔物はより一層邪悪に形相を変え、浮かぶ笑みも頬を裂かんばかりになる。
『それともいっちょ前に仲間を助けに来たのかァ? オレが誰だかも知らねェザコ人間がァ?』
「知ってるよ」
青年が初めて口を開く。「なに?」と魔物が聞き返すと、今度は青年が微笑する。魔物に返すように、嘲りを含んだ笑みだった。
「土の魔物スワンプマン。体が土でできてるから物理攻撃は効かず、魔法も一度受けたら学習し耐性をつける上姿も自在。100年前の勇者パーティがなんとか討伐したはずだが……魔力の残滓がこの地に残っていて、『魔王の産声』の影響で復活したってとこか」
魔物――スワンプマンは自らのことをズバズバと言い当てた男に少なからず驚愕した。だがすぐにこの男が丸腰で矮小な人間であることは変わりないと思い返し、また邪悪な笑みに顔を歪めた。
『じゃあわかってんだろ? テメエ程度じゃ、オレのエサになるだけ……だっ……!?』
男に襲い掛かろうとしたスワンプマンの動きが止まる。いや、動けなかったのだ。見上げるほどの巨体は腕を振り上げた体勢で硬直し、スワンプマンの笑みは焦燥に変わった。
男はスワンプマンに手を向けている。その全身からは、人間1人が持つものにしては異様な気配の魔力が漂っていた。
「厳密にはお前は蘇ったわけじゃあない、『魔王の産声』の衝撃により合成された同じ記憶を持っている別人、それがスワンプマン。だからお前は一切の魔力耐性を持っていない……特にこの土魔法にはな」
『土魔法……だと? 馬鹿な! このオレを上回るパワーの土属性魔法を、貴様が……!?』
「俺に対し土で出来た魔物なんてな……相性が悪い、ぜっと」
男が手を軽く捻ると、スワンプマンの両腕が千切れて、ただの土塊となって落ちた。スワンプマンの体は完全に男の魔力支配下にあったのだ。
「お前の本体はごく小さな魔物……そいつが土魔法で土の巨人を作ってる、そいつがお前の正体だ。先代勇者は土切り刻んでそこまで辿り着いたようだが、土魔法で直接攻撃するのが一番手っ取り早い」
男がいよいよ止めを刺そうとする気配を感じ、慌ててスワンプマンは叫んだ。
『ま、待て! そこまで知ってるならわかるだろう、オレのこの体の中には村の人間たちがいる! オレのエネルギー源にするためにな! そのために今は生かしておいてあるが、俺を殺せばこの全身の土がそいつらにのしかかり、全員圧死するぞ? いいのかァ?』
下卑た笑みを浮かべ最後の足掻きを謀るスワンプマン。密かに切り離された腕を操作し、男に不意打ちをかけようとしていた。
だが男は涼しい顔をしていた。
「いいよ別に、生殺与奪が完全に握られてる以上死んだも同然、俺がいなくてもどの道死ぬ命。必要な犠牲って奴だ」
『なッ……て、テメエ、こいつらを助けに来たんじゃねえのか!?』
「一応はそうだが無理なら諦める、お前をほっとけば被害は大きくなる一方だからな」
その時男は再び笑う。今度はスワンプマンのそれにもにた、邪悪な笑みだった。
「『きれいごとだけじゃあ世界は回らない』のさ」
意味ありげに間を置いて男が放ったその言葉にスワンプマンは聞き覚えがあった。
男が掲げていた手を握った。
『キサッ……!?』
次の言葉を言う間もなく、スワンプマンは粉々に砕け散る。その頭があった部分からその本体――巨大な芋虫が投げ出され土塊の上に落ちる。その半身が千切れ青黒い体液が流れ出していた。
『キサ……マ……ナニモノダ……? ナゼ、オレノコトヲ、シリ……ソンナ、チカラヲ、モツ?』
文字通り虫の息の芋虫が問う。男は笑みとも蔑みともとれない目で答えた。
「お前を作ったのは俺だ。蘇った者同士なのに悪いが、俺はかつての俺の罪をこれ以上増やしたくないんでな」
『キサマ……ヤ、ヤハリ……』
今わの際、芋虫は思い出していた。自らを生み出した強大にして邪悪なる魔物――極大の土魔法を操る存在のことを。そしてようやく納得しつつ男を認める。そこに宿る魔力は自分とよく似たものだった。
男はついに名乗った。
「改めて自己紹介しよう……俺はゲスワーム。魔王四天王の1人、『土葬』のゲスワームだ」
土の四天王、ゲスワーム。目の前の男が宿す邪悪な魔力と強大な力を理解する。そこにいるのは人間であり、人間でなかったのだ。
「100年ぶりだが永遠にさよならだ、かつての我が下僕よ」
『ゲス……ワーム……サマ……』
自らの創造主でもある存在に気付かず挑んだことを最期に悔やみつつ、かつて勇者を苦しめた魔物は、あっさりと息絶えたのだった。
スワンプマンが今度こそ完全に死んだのを確認して彼は息をつく。そして少し休憩しようとしたが、『土』が背後の気配を教えたためにすぐに振り返る。
「そこにいるのは誰だ」
強く問うとひっと怯えの呻きと共に、洞窟の物陰から姿を現したのは、松明を手にしたロッド少年だった。涙をためてレオン――いや、四天王ゲスワームを見る目は完全に怯えていた。
「ロッドか……参ったな、聞いてたのか。村の方を任せると言ったのになんでついて来たんだ」
大方レオンが心配だったのか、あるいは自分でさらわれた人間たちを救おうとしたのか。ともかくロッドがレオンの正体を知ってしまったのは間違いないようだ。
「あ……あんた、何者なんだよ。四天王、ゲスワームって、あの……」
「ああそうだ、聞いた通りだよ。俺は四天王ゲスワームだ、それは紛れもない事実だよ」
誤魔化すこともできそうにないので彼は素直に認めた。そう、ここにいる青年レオンはかつて全世界を恐怖に陥れた魔王の配下の1体土の四天王ゲスワーム、その生まれ変わり。
「100年前勇者にやられて……気が付いたら今の時代に、人間として転生していたんだ。記憶もそのままにな……くっくっく」
彼がわざとらしく悪そうに笑ってみると、ロッドは素直にびくつくので少し楽しかった。
「見ての通り俺は記憶と共に四天王の力をそのまま受け継いでいる。最上級の土魔法をはじめとした、人間を越えた力の数々をな」
試しに土を操ってみせるとまたロッドが怯え、レオンは愉快そうに笑う。だがロッドからすれば必死だろう、村を滅ぼした魔物を討伐してくれた救世主のはずが、それ以上に邪悪な魔物だったのだから。
ロッドは松明を剣のように構えて叫んだ。
「村を救ってくれるって思ってたのに……お、お前のせいで、村の皆は!」
「ああ、スワンプマンに喰われてた連中か。それなら無事だよ」
「え?」
レオンはくいと手を捻る。するとスワンプマンの残骸たる土が盛り上がり、そこから次々と食われていた村民が出てきた。気を失って横たわったままだが傷はない。
「だいぶ消耗して気を失ってるが命は無事だ。中に人間がいるのはわかってたからな、あいつが死ぬ時に人質を潰さないように土を操るくらいわけないさ」
「い、生きてるのか……皆……? で、でもお前、こいつらなんか死んでもいいって」
「無理なら見捨てたが、できたから助けただけだよ。きれいごとだけじゃあダメとは言ったが助けないとは言ってない」
レオンが悪戯まじりに言うと緊張の糸が切れたのかロッドはへなへなと座り込んでしまった。そして問いを繰り返す。
「お、お前は、何者なんだ……? なんで、どうやって復活なんてしたんだ? そうだ、お前勇者になるって言ってたな。四天王が勇者になるって……な、何が目的なんだよ!」
その問いにレオンはしばし考え込む。やがて沈黙ののちに首を横に振った。
「この俺、ゲスワームが蘇った理由は俺にもわからない。魔王の復活が関係してるのかもしれないが、そもそも俺は自分が死んだ後魔王様がどうなったのか知らないし……なぜ力をそのままに人間になったのかさっぱりだ」
それもまた事実。レオンはなぜ自分が転生したのかまるでわからなかった。魔王復活と無関係とは思えないが――判断するには材料がなさすぎる。四天王が転生した、少なくともその事実があるだけだった。
「お、俺は知ってるんだぞ! 四天王の中でもゲスワームは一番凶暴で邪悪で、何人も人間を殺したって! 人間になったって記憶はそのままなんだろ? な、何を企んでんだ!」
ロッドは強い警戒を持ち松明を手に震えている。彼の心配はもっともだろう、記憶も力もそのままに転生した四天王、それはつまりその邪悪さもそのままだということだ。100年前、勇者に滅ぼされるまで世界を暗黒に染め上げたその性質が現代に蘇ったという事実は恐怖でしかなかっただろう。
怯えるロッドを見てレオンは笑っていた。
「俺にも色々と事情があってなあ、お前の思う土の四天王ゲスワームと、目の前それとはちょっと違うんだ。安心しろ、と口で言って信じるかは知らないが、俺は魔王側につく気はない。勇者になる、ってのもそのままの意味さ」
レオンは笑いつつも心中では己の複雑な感情を理解する。土の四天王ゲスワームは悪い魔物、それは間違いないのだが――死ぬ前、いや死ぬまでそうだったかというとそうでもなく。彼が生まれ、そして死んだのにはそれなりの理由があるのだ。それをここで語ることはしなかったが。
そうそう、とレオンはロッドを指差した。
「勇者になるのが目的というのはちょっと違うな。俺は勇者になって何かしたいわけじゃない……『勇者になりたい』んだ」
「ど、どういう意味だ?」
「俺が思うに勇者ってのは国王だのなんだのに認められればなれるってわけじゃあない。勇者になって何かをするんじゃなく、『何かをして勇者になる』んだ。それこそ魔王を倒し世界を救う、とかな」
ゲスワームを突き動かすのは功名心とは少し違う、もっと高尚――というほどでもないが、より重く深く、そして暗い感情だ。だがその内面を考えなければ彼は善なる存在といえるだろう。勇者として世界を救う、それは確かだからだ。
レオンの思惑が読めず混乱するロッドをよそにレオンは歩き出した。
「気絶してる連中ももうすぐ目を覚ますだろ、悪いが村の復興は手伝わないぜ、勇者選抜のために急がなきゃならないからな。俺の正体は別に隠してもらわなくてもいい、言いふらしたきゃ言いふらせ。だが」
通り過ぎる前、レオンはロッドと目を合わせ、企みのあるように微笑んだ。
「俺が魔王を倒して世界を救った後、恥をかくのはお前だぜ」
ロッドはやはり反応する余裕などなかった。ロッドの返事を待たず、レオンはまた歩き出し、振り返らずに洞窟の外へと消えていった。
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