ミッドナイトレインストーリー

水金 化

プロローグ

 昔から、夜に雨が降るとどこかへ出かけたくなった。

 家にいるのが嫌ってわけじゃない。

 真っ暗な町の中、しとしとと鳴る雨音には、なにか不思議な力があるように僕は思う。

 でも用事もないのに夜外出したいなんて、父さんも母さんも許すはずがない。

 高校二年の春。

 その日も雨が降っていた。

 深夜に降り始めた春の雨は強くもなく、弱くもなく、囁くように町を濡らした。

 計画していたわけじゃない。

 おもむろに、手を引かれるように、僕は家を出ることにした。

 パジャマから着替えて、持ち物はスマホと財布、それから傘。

 母さんと父さんは起こさないように家を出た。

外に出ると、ふわりと土の匂いがした。

 真っ暗だ。

 賑やかな町の明かりはずうっと遠くで、ここからはちっぽけだ。

 近くにあるのは電柱の明かりだけ。

 どこに行こうか。

 開いた傘を肩にもたれさせて、僕は何となしに考えた。

 ゲーセンは近くにないし、行くとしたらコンビニ?

 雨粒が傘に当たってぽつぽつと音を奏でる。

 ここからコンビニまでどれくらいかかっただろう。

 そんなことを考えながら、電柱の明かりに辿って足を進める。

 そしてあの人に出会った。

 電灯の下で佇む着物姿は、怪しくて、神秘的で、自分がどこか別世界に迷い込んでしまったかのように思えた。

 いつのまにか、僕は立ち止まっていた。

 僕のことに気付いたのか、彼女は顔を僕に向けてきた。

「何か用かしら?」

 そう、彼女は口を開いた。

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