1章 集い始める者達

第9話始まりの時


 ティナとジュディはスオウ、クエンと別行動をとり、クリムゾンイーターの捜索に当たっていた。


「‥‥‥雲をつかむ様な話よねぇ、こんな広範囲で人探しとか」


「どちらかって言うと、干し草の山の中から針を探す‥‥‥じゃないですか?」


 まぁどっちでも良いですけど、と一言 つぶや嘆息たんそくするティナ。


「クリムゾンなんちゃらがフューゾルに来てるかどうかも解らない訳でしょ? 詰んでるわよ、コレ」


 周りを見渡しながらブツブツ呟くジュディ。


「クリムゾンイーターですよ、ジュディさん‥‥‥確かに条件があやふやな依頼になっちゃってますよね」


「あーっ! やんなっちゃう! ティナちゃん、あそこのカフェで休憩しよっ!」


 そう言って、目に留とまった御洒落こじゃれたカフェに突撃するジュディ。


「あっジュディさんっ‥‥‥んもうっ!」


 止めるいとまもなく行ってしまったジュディに、仕方ない風に着いていく。


 店内に入ると、モダンな造りの内装にピアノの演奏がついていると言う少々グレードの高そうな店であった。


「うへぇ‥‥‥高そう‥‥‥」


「ティナちゃん! こっち! 早く早く!」

 相席を取っているジュディがティナを呼ぶ。


「もぅ‥‥‥仕方ないなぁ」

 苦笑いを浮かべ席に向かうティナ。


「ねぇ、あのピアノ弾いている女性ひと、上手ね」


 席についたティナにジュディがそう話し掛ける。


 耳を澄ませて聞いてみると、成る程レベルが遥かに上流な音である。

 その時、ジュディの隣の席に誰かが座った。


「だろ、ロナの技術は神懸かってるからね」


 そう言うとジュディの肩に手を掛ける。


「ちょっ、何すんの‥‥‥って、あ、アナタ‥‥‥」

「久しぶり、ジュディ」

「アルマ‥‥‥」


 何やら知り合いらしいジュディと、アルマと呼ばれた女性を横目に、ティナは店員にクリームソーダを注文していた。


 ティナが注文を終えると同時に、ピアノ演奏が終わりアルマにロナと呼ばれた女性が三人の座る席へと近づいてきた。


「アルマさん、そちらの方が例の‥‥‥」

「あぁ、同志だよロナ」


 同志の言葉に、疑問符を浮かべるティナ。


「ジュディさん、何の同志なんですか?」

「え、えぇっと、何て言うか‥‥‥」


 アハハ、と誤魔化しながら笑うジュディ。


「ん?ジュディの連れの子、能力者じゃ無いの?」


 アルマがジュディに聞く。


「いや、能力者では在るんだけど‥‥‥」


「なんだ、やっぱり同志なんだろ?」

「お仲間、ですわね‥‥‥ウフフッ」


 能力者、の意味は覚醒者だとは何と無く解ったが、未だに同志の意味が解らないティナ。


「四人もいれば、ロードグレイの中枢部を壊滅させる位出来るっしょ、リリス‥‥‥おっと、ロゼッタにはもう話は通してあるのかい? ジュディ?」


「ちょっ! まだティナちゃんには帝国の話とか全然してないんだってば!」


 ジュディが慌てて話を変えようとするが時既に遅し。


「ジュディさん‥‥‥帝国の中枢部の壊滅とか、何の話ですか?」


 クリームソーダを片手にティナが意思のこもらない、死んだ魚の目で聞いてくる。


「えっとぉ‥‥‥実は昔、帝国と色々あってね」


「色々あったんですか、それで?」


 ゴクリと唾つばを飲み込み、意をけっしてジュディが話し始めた。


「それで、仲間を集めて帝国中枢部をぶっ潰つぶそう、オーっ! ‥‥‥みたいな?」


「何がどうなればいきなりその結論に達するんですか! てかっ、ロゼッタさんも関与してるんですか!?」


 ジュディは困った様な表情で言った。


「関与って言うか‥‥‥中心人物の一人?」


「うっがぁあぁっ! そんな話聞きたく無かった! 陰謀とか反乱みたいな平穏から程遠い話なんて聞きたく無かったっ!」


 漫才の様なやり取りをするティナとジュディを見て、ロナがニコニコしながら「あらあら、仲が良いんですね、ウフフッ」と言った。


「‥‥‥説明してなかったのかよ、この子に」


 アルマは失敗したかな、とほほいた。


ーーーーー


 ティナ、ジュディと別れ別口から調査を始めるスオウとクエン。


「クエン殿、能力者の反応はありますかの?」

 スオウがクエンに問い掛ける。


「そうですね‥‥‥中心街に四つ? うち二つはティナさんとジュディさんの反応みたいですが‥‥‥」


 クエンが閉じていた目を開いて答えた。


「ほう? あの二人、もう見つけたのかの?まさかクエン殿と同じ能力を持っておるのか?」


スオウとクエンがティナ達と別に探索をする理由は、クエンの探知能力を秘匿ひとくする為であった。


「んー、どうですかね‥‥‥この力は、クリムゾンのソレとは若干違う能力なので、あの二人が使えるとは思えませんが‥‥‥制約もありますし」


 クエンが考え込む。


「して、クエン殿、儂等も向かいますかな?」


「そうですね‥‥‥? いえ、待ってください、フューゾルの北口に新しい反応が2つ‥‥‥ん? 何か反応がいつもと異なりますね?」


 再び目を閉じていたクエンが首を傾かしげる。


「そちらが本命‥‥‥かの? しかし、この短期間にこれだけ能力者が一つ処に集まるなど、どうなっておるんじゃ?」


「解りませんが、あまり良い予感はしないですね」


 二人は北口の方向に目を向けながら言った。


「‥‥‥万が一の場合ですが」


「ふむ、儂の零式から百式までの能力を解放しようかの‥‥‥反応が二つならば、クエン殿も受け持ちますかな?」


 スオウが口許くちもとゆるめてクエンに聞く。


「はい、僕も一人受け持ちます、ただ街中での戦闘はなるべく避さけたいので」


「あいわかった、郊外こうがいに誘い出すんじゃな」


 うなずいて了承りょうしょうするスオウ。


「嬢ちゃん達には伝えるのかの?クエン殿?」


「いえ‥‥‥僕達だけでやりましょう、スオウさんの能力も、なるべくならあまり知られたくないですし」


「ふむ、委細いさい承知じゃ、まぁあのティナとやらの嬢ちゃん程度ならば万が一戦う事になったとて、能力を使うまでも無さそうじゃがのぅ」


「油断は禁物ですよ、能力者同士の戦いは個人の身体能力の差の外側にありますから」


「確かにの」


 スオウは笑った。


「では、行きましょうか」

「ふむ、参るか」


 二人は北口へと向かい歩き出した。


ーーーーー


 クエンとスオウの二人が北口へと向かう途中、クエンがスオウに話しかけた。


「‥‥‥スオウさん、あの二人です」


 ターバンを巻き、口許の隠した大人と子供の二人組が街への道を歩いてくる。


「ふむ、何者じゃ、あ奴等?」


 スオウは、前方の二人がさらし出す雰囲気に充てられ、そうこぼした。

 そのままお互いに歩き、すれ違う瞬間にクエンが呟いた。


「‥‥‥この先でも狩りですか、ゴバの獲物は諦めましたか?」


 瞬間、すれ違った二人がその場から飛び退さり、臨戦態勢に移る。


「‥‥‥覚醒者、か?」


 大人の方がクエンに尋ねる。


「だとしたら?」

「死ね」


 何処から取り出したのか、相手の二人の手元には円盤型で中がくり貫かれている刃物があった。


「チャクラム‥‥‥にしては大きいのぅ、円月輪と言ったところじゃの」


「ただの円月輪なら良いんですがね」


 スオウが刀の柄に手を掛け、クエンが此方もどこから取り出したのかレイピアを構えて言った。


「ノーウィ、『阿』の型から始め『吽』の型で併せる、俺はあのジジイを仕留めるから、お前はあのガキを殺れ」


「わかったよ、兄さん」


 二人は同じ動きでそう言った後、動きを止めたかと思った瞬間にクエンとスオウの前に一瞬で間合いを詰めた。


「くっ! 早い!」


 クエンは何とか初撃をレイピアで受け止めたが、そのままノーウィと呼ばれた少年が流れる様に回転しながら連撃を繰り出し続ける。


「むっ、こ奴等! クエン殿、大丈夫で御座るか!?」


 相手の初撃にカウンターで抜刀を併せようとしたところ、その抜刀術を見抜かれ受け止められたスオウがクエンに向かい叫ぶ。


「僕は何とか大丈夫です! スオウさんは自分の相手に集中して下さい!」


 そう言うクエンに一瞥いちべつだけくれ、自分の相手に向き直り集中を始めるスオウ。


(こりゃあ、久しぶりに本気を出さねば危ないのぅ)


 スオウは心の中で呟いた。

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