第5話スオウ=アサカゲ

 ティナの残撃ざんげきの雨をかわしながら、スオウは抜刀していた刀をさやに戻した。


「ふむ‥‥‥もう良いかの」


 ティナの残撃をかわしていたスオウが呟く。


「はぁああぁっ!」


「お嬢ちゃん‥‥‥お主の武器は確かに恐ろしいのぉ、恐らく儂わしの刀では受け止める事すら出来まいて‥‥‥じゃがの?」


 そう言うと、スオウは不規則ふきそくな残撃のすきを突いてティナのふところへと侵入した。


「力量が武器にともなっておらぬよ」


 こぶしをティナの腹に叩き込む。

「グッ‥‥‥フッ!?」


「まぁ、それでも二流の剣士相手ならもなく歩振ほふりそうじゃがな」


 ティナの体が前のめりになり、スオウへ寄り掛かる。

「ぐっ‥‥‥フゥ、フゥっ!」


「その武器の光も消えたようじゃな、一体どうなっとるんじゃソレは‥‥‥」


 腹を押さえ、苦しそうに呼吸するティナに語りかける。


「ティナちゃんっ!」

 二人のやり取りを見ていたジュディがけぶ。


「あ‥‥‥ぐぁあっ!」

 うめき声あげたティナの瞳が二重になり、紅へと染まる。


「スオウさんっ! クリムゾンが発動します、気を付けて!」

 クエンが叫ぶ。


「ぬっ! なんとっ! まだ意識を集中出来るか!?」


「ぐあぁあっ!クリムゾ‥‥‥」


「ティナちゃんっ! この前ティナちゃんが探してた棚の中のケーキ食べたの私なのっ! ごめんなさいっ! テヘッ」


「アンタだったのかぁあぁっ!」


 ジュディの衝撃しょうげきの告白に、ティナはジュディに向けて走り出す。


「クッ! 仕方な‥‥‥、あれ?」


 クエンが途中まで台詞せりふを言ったのち、ポカンとした。

 スオウは成り行きについて行けず固まっている。


「あのケーキ手に入れる為にどんだけ苦労したと思ってんですかぁああ!」


「ちょっ! ティナちゃん落ち着いて! 能力の発動止まったでしょ!?」


「何訳の解らない事言ってんですかあぁっ!」

 ティナとジュディの追いかけっこは続く。


「‥‥‥のぅクエン殿、どうなっとるんじゃ?」

 あまりの展開の変わり様にスオウが脱力する。


「あの二人が落ち着いたら説明しますね‥‥‥」

 スオウの質問に短く返してクエンは嘆息した。


 ティナとジュディによる、追いかけっこが一頻ひとしきりした頃合いを見計らい、疲れはて項垂うなだれている二人にクエンとスオウが近づく。


「あの‥‥‥スオウさんと、そちらの女性に説明したいので少し宜よろしいですか‥?」


 躊躇ためらいがちにクエンがジュディに聞く。


「はぁ、はぁ‥‥‥え、えぇ、良いわよ‥‥‥ティナちゃんも良いわね?」


「ハァ、ハァ、いつの間に打ち解けてるんですか‥‥‥まぁいいですけど‥‥‥」


 二人の了承が得られた為、クエンが話を切り出した。


「先まず、僕はクエン、クエン=ニーチェと言います」

「儂はアサカゲ=スオウじゃ、此方こちら風に言えばスオウ=アサカゲじゃな」


 二人の自己紹介に、ジュディとティナも返す。


「はぁ、はぁ、ジュディ=キルメイアよ」

「ティナ=マニエルです‥‥‥ハァ、ハァ」


 息も絶え絶えに自己紹介をする二人。


「とっ、取り合えず息が整うまで待ちましょうか‥‥‥」


 若干じゃっかん戸惑とまどいながらクエンが提案した。


 二人の息が整った所で、再び説明を開始する。


「では先ず、最初に謝罪しゃざいをさせて下さい」

 頭を下げ、クエンが話を続ける。


「人間違えをしてしまい大変申し訳ありません‥‥‥逃亡中の【ある能力者】と間違えてしまいました、早めに気付けた事が救いでした‥‥‥」


 そう言うと、隣のスオウがクエンに話しかけた。


「人間違え‥‥‥ですかな、クエン殿? では‥‥‥」

 クエンへと顔を向けるスオウ。


「はい、この方達は別口の【能力者】です」

 そこまで黙って聞いていたジュディが話に加わる。


「って、人間違いは解ったけど‥‥‥なんでこんな辺鄙へんぴな所で人探しを?」


 その質問に、苦い表情をするスオウ。


「ふむ‥‥‥その話の前に儂も謝罪をさせて欲しい、まことにすまなんだ、特にお嬢ちゃんには、な‥‥‥」


 スオウがティナを見て深く頭を下げる。


「お腹を殴られて滅茶滅茶めちゃめちゃ痛いですけど‥‥‥まぁ、謝罪は受け止めます」


 釈然しゃくぜんとしないながらも、不承不承ふしょうぶしょうと謝罪を受け入れるティナ。


「‥‥‥話を戻しますが、ここがゴバとフューゾルのさかいだと言うことは解っていると思います」


 説明を一区切ひとくぎりし、三人を見渡して話を再開する。


「最近、ゴバとその周辺で【能力者狩り】が発生しているんです」


「能力者狩り?」

 ティナがクエンに聞き返す。


「はい、お二人はフューゾルの方ですよね、ならまだ能力者狩りが西側に来た事については知らないかと思います」


「そうじゃの、クリムゾンイーターによる能力者の被害者もロストチルドレンの被害者も、今の所は東の十二カ国連合と、ゴバでしか出ていないからのぅ‥‥‥」


 クエンとスオウの話を聞いていた二人は、知らない単語が出まくり疑問符ぎもんふだらけになっていた。


「能力者狩り? クリムゾンイーター? ロストチルドレン? おまけに東側の十二カ国連合まで、何が何だがサッパリ何だけど‥‥‥」


 ジュディが聞いた。


「あれ? 一般人なら解らないかも知れませんが、帝国から追っ手がかかる位の位置の人なら聞いた事位ありそ‥‥‥」


「ちょっ! ストップ! クエン君ストップっ!」


 ジュディが慌ててクエンをせいした。


「私が帝国と関係があるって事は秘密にしてくれないかな?」


 クエンの耳元で、ジュディが小さく囁ささやいた。


「‥‥‥あの人何も知らないんですか?」


 クエンがジュディに囁いて聞く。


「そ、ティナちゃんは何も知らないの」


「‥‥‥解りました」


 内緒話を区切り、クエンが二人に話し出す。


「何も知らない様ですので、一つ一つ話していきますね」


「あの‥‥‥展開についていけないんですけど‥‥‥」

 ティナが唸うなった。


「実は儂も若干じゃっかんついていけてないのじゃ」

 スオウもついていけてない。


「先ず、クリムゾンイーターですが読んで字のごとく、クリムゾンに覚醒した者を食べる存在です」


「‥‥‥カニバリズム的な?」

 気持ち悪そうにジュディが聞く。


「いえ、比喩ひゆ表現でして‥‥‥厳密げんみつには、能力者が死亡した際に同じ能力者同士にのみ見える、力の結晶と言うか‥‥‥そんな様な物が体から抜け出るんです」


 チラリとスオウを見ると、頷いている。


「その抜け出た結晶を、何らかの形で吸収するらしく‥‥‥ついた名前がクリムゾンイーター、と言う事です」


「ロストチルドレンって言うのは?」

 ジュディが聞いた。


「‥‥‥完全にクリムゾンに覚醒した者は覚醒者と呼ばれますが、力の発現の際に完全に覚醒出来なかった者達がいます」


「不完全な覚醒って事? それって力が使えない一般人とどう違うの」


 ジュディの質問に、クエンが一つうなずき答える。


「力は使えるんですよ、ただ、覚醒者の様にL型、E型、D型‥‥‥この型に分けれないZ型、つまりゼロ型に当てはまるのがロストチルドレンです」


「ちょっ! ジュディさんと君で話を進めるのは良いけど、私とこのお爺さんは理解できてないから!?」


「いや、儂は知ってるんじゃが‥‥‥何故理解できてないと決めつけおった?」


 巻き込み事故にしようとするティナにスオウがツッコミを入れた。

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