第3話ティナ=マニエル 2

 秘書のルシアより、依頼内容を聞いた二人は銀竜酒家へと戻ってきた。


「また、面倒そうな依頼ねぇ‥‥‥」


「仕事を選んでる場合じゃ無いですが、確かに」


 珍しく依頼に関してティナがジュディに共感きょうかんした。


「‥‥‥前から気になってたんですが‥‥‥」


 客席に腰掛こしかける二人が注文したドリンクをテーブルに置きながら、ルーニアが二人に聞いた。


「何で、斡旋所あっせんじょとかで仕事探さないんですか? わざわざ市長さんから仕事受けるのは‥‥‥」


 不思議そうに顔をひねるルーニア。


「あー、ルーニアの言いたい事は解る‥‥‥ただ、これはジュディさんのせいなんだよね」


 頬杖ほおずえをついてダレていたティナがルーニアに目線をやり答えた。


「え? そうなんですかジュディさん?」


 急に話を振られたジュディは明後日あさっての方角を向きながら、ドリンクのストローを吸うのを止めて言った。


「‥‥‥私のせいって言うか、根本的な原因はメイシンさんなのよ?」


「ほぅ、アタシが何だって? ジュディ?」


 声が聞こえた方をジュディが慌てて振り返ると、ルーニアの横にボサボサのショートボブで、気だるげな目をしながらキセルを吹かせる、所謂いわゆるチャイナドレスを着た残念美女が立っていた。


「め、メイシンさん‥‥‥」


 顔色を真っ青にしたジュディが口許くちもとをひくつかせながら見つめる。


「アタシは、アンタの尻拭しりぬぐいをしただけだと思ってたんだけどねぇ」


 そう言うと、キセルから口を離してふわりと煙をいた。


「それで、何があったんです?」


 ルーニアは好奇心に駆かられてメイシンに聞いた。


「あぁ、あれはコイツがまだフューゾルに来たばかりの時に‥‥‥」


 だるそうにキセルを一度 かせてメイシンが話始める。


「あーっ! あーっ! その話はまた今度! 私からルーニアちゃんに話すから! ねっ?」


 慌ててメイシンの話をさえぎるジュディ。


「えっ? ええと‥‥‥あの、はい‥‥‥」


 余りの剣幕けんまく相槌あいづちを打つ。


「まあいい、それよりアンタ等市長からどんな依頼を受けたんだい?」


 ジュディはかく、ティナがあまり依頼に乗り気で無いことが珍しく、メイシンが聞いてきた。


「それが、実はですね‥‥‥」


 ティナはメイシンとルーニアに依頼の内容を話した。


ーーーーー


 メイシンとルーニアに依頼内容を話したくる日、ティナはジュディと依頼先の、郊外こうがいにある洞窟どうくつに来ていた。


 二人が洞窟に来てそろそろ六時間をえようとしていた。


「ジュディさんも探してくださいよ! 爪ばっかりいじってないで‥‥‥っ」


 先程から、爪弄りを繰り返しその場から動かないジュディにティナが言う。


「ほら、私って繊細せんさいでか弱いじゃない?」


 爪先をヒラヒラとさせ、それを見ながらジュディは言った。


「土いじりみたいな作業はティナちゃんがするべきだと思うの」

「あ!?」


 こめかみに青筋をたてジュディをにらむ。


「と、言うか何なのよこの依頼は‥‥‥」


 ジュディは半眼はんがんになりながら、地面にらばる石をながめた。


「知りませんよそんなの!」


 半ばヤケクソにさけぶ。


「偉い人の子供が、遠足に来たときに落としたお気に入りの石を探せとか‥‥‥」


 そう言うと、ティナは依頼書を取りだし絵の描かれている部分を見つめる。


「解るわけないでしょ! 何のいじめですかコレっ!? 大体、何で遠足でこんな洞窟にわざわざ入るんですか! どうなってるんですか最近の学校って!?」


 半泣きになりながら石と絵を見比みくらべるティナ。


「あー、もうそこら辺の綺麗きれいっぽい石持っていけば良いんじゃない?」


 探しもしないジュディが面倒臭そうに言う。


「コレ! 絶対に悪意を持ったロゼッタさんの報復ですよね!?」

「私に聞かれても‥‥‥」


 怒りをぶつけられたジュディが困惑こんわくする。


「間違えないです! ジュディさんが余りにも依頼をサボるから、始末書が山のようになってるってこの前言ってましたから! て、根本はジュディさんのせいじゃないですか、よく考えたら!?」


 そう言って手元の石をジュディに投げ出した。


「ちょっ! ティナちゃん危なっ!?」


 最小限の動きで何故なぜ優雅ゆうがにかわし続ける。


「ちっ! 当たれぇえぇ!」


 全く当たらない石に、更に怒りをつのらせて投石する。


「ティナちゃんキャラ崩壊ほうかいしてるからっ! ‥‥‥て、ちょっと待ってティナちゃん?」

「何ですか!?」


 ジュディの制止に動きを止めるティナ。


「今手に持ってる石、もしかして‥‥‥」

「へ?」


 そう言って、手元の石を依頼書の絵と見比べる。


「‥‥‥同じ形、ですね」

「だよね、やっぱり‥‥‥」


 無理かと思われる物も案外見つかるものだ。


ーーーーー


 依頼を達成した二人は、さっそく市庁舎へ来ていた。


「‥‥‥あったの?」


 開口一番かいこういちばん、ロゼッタはそう言った。


「普段は全く役に立たないのに、こんな訳の解らない依頼の時だけ‥‥‥」

「こんな訳の解らない依頼って‥‥‥」


 ティナは、ロゼッタに対たいする自分の考えがあながち間違えていなかったことに驚愕きょうがくした。


「まぁいいわ‥‥‥後で一階の受付で依頼料受け取っておいて」


 どうでもいい、と言った風に手をヒラヒラとさせて言った。


「なんか釈然しゃくぜんとしないけど、お金が貰えるならまぁいいわ」


 何故か疲れた雰囲気ふんいきまとうロゼッタに、ジュディが適当てきとうに答えた。


「それよりも、アンタ達にもう一つ追加で依頼をしたいんだけど時間ある?」

「面倒臭いからパスで」


 即答そくとうするジュディ。


「ちょっ! ロゼッタさん、ジュディさんはスルーしてください!」


 ティナがあわてて答えた。


「あー、うん、ティナちゃんに聞いてもらうわ‥‥‥」


 あきれ顔でジュディを一瞥いちべつしてから、ティナに向き直した。


「仲間はずれとかひどくない!?」


 ジュディがめく。

 そんなジュディを無視して、ロゼッタはティナに話始めた。


「隣の国のゴバ、あるじゃない? 最近あの国との国境で妙な二人組が出没しゅつぼつするらしいのよ」


 手元の資料から一枚の紙を取りだしヒラヒラとさせる。


「妙な二人組、ですか?」


 ティナの質問に、紙をテーブルに置き直し答える。


「そう、変わった服を着た老人と神官衣を着た子供らしいんだけどね、国境を通る人達に変な質問をするらしいの」


 そう言うと、ロゼッタはハーブティーを一口 ふくんだ。


「変な質問ですか、その二人組で他に実害とかはでてないんですか?」

 眉根をしかめて聞く。


「んー、質問するだけらしいんだけど‥‥‥ほら、ゴバとフューゾルってあんまり友好的じゃないじゃない?」


「そうね」


 ジュディが会話に割り込んできたが無視する二人。


「だから、あの辺りにあんまり妙なのが居ると色々と面倒でね」


 はぁ、とめ息をついて顔を手でおおうロゼッタ。


「何とかその二人組を排除はいじょ出来ないかな?」

「‥‥‥平和的にって事ですか?」


 ティナはあまりにも少ない情報に、またろくでも無い依頼になりそうだと、顔をしかめながら聞いた。


「基本的にはそれで、面倒になりそうなら実力行使でいいから」

「ふぅん、ロゼッタがそう言うなんて珍しいわね?」


 またジュディが割り込んできた。


「仕方ないでしょ‥‥‥ただでさえ忙しいのに、そんな訳の解らない二人組の対処たいしょまでからんできたら、私 発狂はっきょうするよ?」


 無視をしきれず、ジュディに返すロゼッタ。


「まぁ、良いんじゃないティナちゃん、私受けても良いわよ?」


「ジュディさんは実力行使が出来て楽そうだから乗り気なんですよね‥‥‥そうですよね?」


 そう切り返したティナに、ジュディはニコニコと笑顔だけで返事を返す。


「はぁ‥‥‥解りました、その依頼引き受けます」


 めずらしくジュディが乗り気とあって、流石さすがにティナも断れなかった。


「良かった! それじゃ今から向かってね! 乗り合い馬車手配しといたから、予約してある国境の宿場しゅくば拠点きょてんに解決してきてね!」


「なんか手際てぎわが良すぎません!?」


 まるで引き受ける事を前提ぜんていにしていたかの様にロゼッタがたたみ掛けた。


「まあまあ、良いじゃない、依頼料 はずむわよー?」


 小さく嘆息たんそくして、ティナは「解りました」と小さく返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る