相川優希の人間関係(序)

 相川優希には二人の兄弟がいる。

 柊秋穂のような擬似的なものではなく、まして義理の兄弟姉妹でもない。

 血を分け合った兄と弟だ。

 一つ年上で優秀かつ八方美人な兄と、二つ年下ではっちゃけすぎて不良街道まっしぐら(本人は否定している)な弟の間に位置する、影もとい個性の儚い次男が優希少年である。


 否、特段薄…儚いと言う訳ではない。

 単に上と下が両極端にふりきってることもあり、相対的に中途半端に見えてしまうだけなのだ。

 断じて影が薄いわけではない(震え声)


 そんな彼と柊秋穂の付き合いは幼稚園の頃から始まるのだが、家族ぐるみの付き合いとなれば必然的に彼ら兄弟とも多くの接点ができる。

 はてさて、そんな彼ら彼女の今の心情は如何に-。



 なしくずし的に、恋愛対決等と言う端から見ても訳のわからないものをすることになった柊と相川。

 なお本人たちは詳しい勝利条件も分かっていない、更にいうとそこまで重要視もしてない。

 彼らとしては、今までの関係性を大きく変えるようなものではないと誤認していたからだ。


 つまり、ことの重大さも理解できていなかったのだ。

 だから

「兄ちゃん、どうやったらモテるようになると思う?」


 なんて間の抜けた問いが口から飛び出る。

 聞かれたほうと言えば、1拍置いて溜め息しかでない。


「お前…。それ俺に聞く?それとも喧嘩売ってるのか?」


 パタンと読んでいた本を閉じながら逆に問い返したのは、相川優希の一つ上の兄である相川秀樹ひでき

優希少年とは違い母親に似た顔を分かりやすいぐらいに歪ませ、恨めしそうに睨み付けている。

 睨み付けられた弟のほうと言えば、多少不躾な質問であったと理解したのか必死に弁明しようとあれやこれやと言葉を重ねる。

 兄弟間の絶対的なパワーバランスの縮図がそこにはあった。


 閑話休題


「や、自分より経験豊富であろう先達者に意見を聞きたかっただけだから。」

「…」

 必死に弁明する弟に憮然とした態度を崩さない兄。

 今回はいつもより機嫌が悪いようだ、というか言を紡ぐたびに降下していっている。

 とは言え、その原因に優希少年が気づければひとまずは収まるだろう。

 …気づければの話であり、気づかないからこそのこの現状ザマなのだ。


 ここでキレて暴力に訴えようとしない辺りは、年長者としての自覚もあったのだろう。

 兄はもう一度深く息を吐き、弟に言い聞かせるよう言葉を紡いだ。


「いいか優希。どうしてお前の口からそんな言葉が出たのか正直考えたくもないが、それ秋穂に聞かれてみろ?絶対いい顔しないぞ」


 出てきた言葉は弟を真に心配する言葉、ではなく。

 その相手の心情を慮った一言である。あ、いや弟のことも二割、いや三割程度は心配している…はず。

 所詮平時の兄弟間の絆なんぞこんなものである。


 そんな次男はと言うと-

「え、なんでそこであいつの話になんの?」

 まるで意図も心情も知るよしもなかったとさ。


 これにはさしもの兄も絶句しながら頭を抱える。

 てかそろそろ妹分のためにもキレていいよね-と青筋を浮かべ始めた、そのときだった。


「秋穂にこれ以上負けたくないんだって、だから頼むよ秀兄しゅうにい!」

「…ん?なんだそれ?一寸詳しく話してくれ」


 なぜここで出てきたのかわからないキーワードを耳にし、兄は思わず聞き返す。

 興味を持ってくれたととった弟は足早に今までのいきさつを語りだした。


 とはいえそこまで込み入った事情ではなく、更に馬鹿馬鹿しいにもほどがある内容。


 普段ならば早々に切り上げ自分の作業に戻っているところだが、今日に限って兄-秀樹は足を動かさずその場で考え込んでしまった。

 -もちろん、話なぞ途中から耳に入っていない。



「-おーい!ちゃんと聞いてる?」

「あ、ああすまん。途中から聞いてなかった。それとこれからやることができたからその話は、正希にしてくれ」

「え、さすがに年下に相談するのは一寸…て待ってってばぁ!」


 優希の制止を振り切り、秀樹は自室へと戻っていく。

 そして最後には迷子の子供が一人取り残されるのだった。



 さて、その後日

「優希、お前ちゃんと勉強してるのか?」

「あー…うん、ちゃんとしてるよ?もちろん」

「そうか、たまには俺が見てやろうか?秋穂と一緒に」

「えー、いやいいよめんd…兄ちゃんだってやることあるんだし」

「そうか、邪魔したな」

「え、あ、うん。-今日はやけにあっさりだね…。」


 なんてやり取りがあったそうな、そんな、週末のある日の出来事。

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