つぼ女をストレスなく生育させるだけの特別なスキル

ちびまるフォイ

特別な技術があるつぼ男

部屋がさびしく感じたのでつぼ女を買うことにした。


花瓶サイズのつぼに体を収められた女は

顔だけが花のようにびんからにゅっと出ている。


「うんうん。なんか部屋が少しさびしくなくなったぞ!」


勇気を出してつぼ女を買ってよかった。

それからしばらくは毎日楽しかった。


「聞いてくれよ。今日は仕事で嫌なことがあったんだ」

「そうなんだ」


仕事から帰ると今日1日のできごとをつぼ女に報告する。

観葉植物や単なる花瓶を買っていたらこうはできない。


生きているのに手間がかからない。


それがつぼ女のいいところだと思う。


ある日、家に帰るとつぼ女がしくしくと泣いていた。


「お、おい。どうしたんだい?」


「私、もうこんな生活いや……。

 毎日ここでインテリアとして生きながらえて……もう辛いの」


つぼ女はその日から毎日めそめそと泣いていた。

リラックスするはずの自宅は女のすすり泣きばかり聞こえるのでつぼ女を壊した。


また新しいつぼ女を飾り始めてもいたちごっこだった。


「あたしもうこんな生活イヤ!!! もう殺してよぉ!!」


「またか……」


つぼ女は一定期間を過ぎると、同じ結末になってしまう。

これではどんなにお気に入りのつぼ女を買っても部屋に飾れない。


そこで、今度はたくさんのつぼ女を買いそろえた。


「それでね、私こないだ思ったんだけど――」

「えーー。やっぱ男ってそういうとこあるよね」

「これから暑くなるから髪のケアとか大変で――」


部屋は急にかしましくなった。


けれど、複数のつぼ女を買ったのがよかったからか

数日たっても自分の状況に絶望するものはなくなったのでよかった。


ちょっとしたプチハーレムだ。



ある日、つぼ女の世話をしていると家のチャイムが鳴った。


「誰だろう? 宅配なんて頼んだかな?」


玄関を開けると黒いスーツを着た男が立っていた。


「はじめまして、私は大富豪です。

 あなたがたくさんのつぼ女を飼っていると聞いてやってきました」


「はぁ……それがなにか?」


男は玄関から部屋にあるつぼ女たちを見て拍手した。


「おお、やはり本当だったんですね! たくさんのつぼ女を同時に飼っている!」


「ええ、まあ」


「どうでしょう。つぼ女を譲ってはくれませんか? お金は支払います」


「どうして僕なんですか?

 経済力のあるあなたなら、普通に買いそろえればいいじゃないですか」


「気付いてないでしょうが、あなたには"つぼ女を飼う"という特殊な技術がある。

 たいていの人はストレスでつぼ女はダメになるんです」


そうなのか。

自分が特別な技術あるとは思ってなかった。


「私はね、このつぼ女をいつまでも眺めていたいんだ。

 そのためならどんなことだってしてみせる。


 君の技術とこのすばらしいつぼ女、ぜひとも手に入れたいんだ!」



「わかりました、ではこうしましょう」



 ・

 ・

 ・



それから数日後、俺のことをテレビで紹介したいと取材がきた。


「今、若い人で間のつぼ女をたくさん飼っている山田さんです!」


「はじめまして山田です」


「こんなにたくさんのつぼ女を飼ってひとつも枯らさないなんてすごい!

 山田さんには、つぼ女をストレスなく生育させられる特別な技術があるんですね!」


「ありがとうございます。

 最近では新しい技術も身につけたんですよ」


「おお、それはすばらしいですね! どんな技術なんですか?」


「はい、つぼ人間を自分で作れるようになったんです」




今、部屋には大富豪がつぼ男として飾られている。

いつまでも部屋のつぼ女を眺められて幸せそうだ。

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