あなたの為に勉強してます

上田歩実

プロローグ

駅のホーム。辺りを見渡す。

流れ込んで来た電車。降りる人を見つめる。中で座っている人、立っている人を眺める。…どこにも私の探している人はいない。もう探すことが毎日の日課になっているけど、一度も会えたことはない。

あぁ、一年前に戻りたい。火曜日と土曜日には絶対に会えたあの頃に。


テストが返ってきた。…⁉︎思わず目を疑った。自分の氏名である「斎藤 里美」の隣にある数字に、衝撃を受けた。そのまま思考停止してその日の学校は終わってしまった…。


「38点…!あんた、これ欠点じゃないの‼︎」返却されたテストを母に見せたのだ。「勉強しなかったの?」いや、勉強はした。自信を持てるほど勉強した。何度も何度もワークを解いた。「したよ」

「じゃあ何故こんな点数なのよ⁈」

それが分かれば苦労しない。自分だって取りたくてとった欠点ではない。とったって何にもメリットないし。それに高校入って割とすぐに母と約束したことがある。

「里美。約束してたよね。明日、部活辞めて来なさい。」

私が所属するのはダンス部。とはいえ、初心者だから、毎日の練習がきつかった。でもせっかく頑張ってきたのに、辞めたくない。

「…。」

私は返事出来ずに頷くだけになった。


それから寝る時間になるまで落ち込んでいた。寝る時間が過ぎても寝られなかった。一度だけ、私の部屋に母が様子を見にきたが、何も言わずに戸を閉めた。


そして朝、一睡もせずに起きてきた。

朝ごはんを食べる為に食卓につくと、「話がある。」と父。

もう、話が伝わったのか…と思っていたら、思いがけない言葉。

「部活は辞めなくていい。」

「えっ…。いいの?」

「部活を辞めて成績が上がってもお前の為になるとは思えない。両立することが一番だしお前の為になる。今回のことでも何か学べることがあるだろう。それを生かして次で挽回しろ。後悔するような高校生活はやめとけよ」

私はこれを聞いて心から感謝した。ありがとう…次絶対挽回する…!

すると、母が割り込んできた。

「あんたが部活を続けることには反対しないでおくわ。でも、この英語のテストの点数は心配なのよ。昨日言わなかったけどあんただって勉強して受けたでしょう⁇私思うんだけど、英語だけ塾で教わったら⁇」

またもや衝撃を受けた。あのお金に厳しい母が、塾に行けと言っているのである。それだけ心配されているとわかった。

「わかった。英語だけ受けてみる。頑張ります。」

「頑張れ」

2人の声が重なって聞こえた。

こうして私は塾に通うことになったのだ。

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