釣りのアイコン、生ける仲達を走らす
ウェルダン穂積
第一話「僕、簡単に釣れます~誕生!首筋黒子娘」」
『ただ~いまっと!』
とTwitterで呟くと誰かが『おかえり!』と返してくれた、、、時代はとっくに終わり(有名人やアイドルは除く)、どんどん流れるタイムラインにみんなだんだん押し流されて、無関心になっていく。時代、なんて言うほどに時は流れていないのに流行り廃りが加速度を増している。それでも日課として、Twitterのフォローを増やすためにせっせと無作為にフォローボタンを連打する。フォローの限界が来てはフォロー返しがない相手を外して、またフォローを続ける。連打しすぎるとアカウントは運営に不正と誤解されロックされる。ロック解除のために暗証番号をもらいアカウントのロックを解除する。
「ハァ~、なんて地道で不毛な行為」
でも僕はフォローを増やして有名人になりたいんだ。ただの目立ちたがり、なのか、有名になって世界を変えたい、という淡い幼い夢なのか。誰かの人生に影響を与えられる人になって、僕は苦しんでいる人を救いたい、と言えば聞こえはよいけど承認欲求の飢えなのかもしれない。それでも、だから、僕はTwitterのフォローボタンを押している。すでにフォローしてくれているフォロワーのみなさんのフォローも忘れない。フォローを返さないと僕と同じようにフォローを外されてしまうからだ。みんなみんな、誰かに認めてほしいんだ
ふと、ひとつの表示アイコンが気になった。目元を隠した首筋までの顔写真、キャバクラなどの紹介写真のようだけれど首筋に小さな黒子が見える。妙に気になる。気になるな~。なんか気になっている自分に腹が立ってくる。いや、違う! フォロー数が1979、それはいい。なかなかたくさんフォローしている、それだけだ。昔Twitterのフォロー上限が2000だったはずだから、凍結されたアカウントなどで調整されたとしてほとんど限界までフォローしていたのだろう。気になるのはTweet投稿の数が10000を超えているのにフォロワー数がゼロというところだ。鍵アカウントにしてあるから、フォローしたい人がいた場合、この人の許可を待たなくてはいけない。この人いったいなんのために呟いているんだろう。備忘録かなんなのか、なにかの拍子にみんなから嫌われすぎていきなりフォロワーがいなくなったのか。呟きまくっているけれど、たいしてTwitterの使い方もわからないままやっていたのだろう。…今は稼働しているのだろうかわからないけど、とりあえずフォローボタンを押してみた。
数日後、いつものようにフォローチェックを入れていた。気になるあの首筋黒子娘(くびすじほくろこ、と名付けた)の釣りアイコンを覗いてみた。淹れたてのコーヒーが熱かったのも災いして身体全体がビクンと震えた。
首筋黒子娘のフォロワーが1に増えている。こいついったい何考えてるんだ。フォロワーが1ってことは彼女(であろうことを願う)の呟きは僕だけに見えるってことなんだぞ。立っては座り、座っては立ち、うろうろ部屋を歩き回り、僕は静かにはしゃいだ。
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