第6話とうじょうじんぶつふえる。

キロがアイスを食べたいと言い出したので買い出しタイム開始。行き先は近所のスーパー。行くのはもちろん俺。もちろんキロはついて来ない。アイスを買うついでにお菓子やジュースも買ってやろうと企てながら道中を歩いていると、思わぬ人物に出会う。

「あ!」

こちらが向こうに気付いたように、向こうもこちらに気付いたようだ。彼女は声あげ、知った顔、俺に手を振る。彼女、と言うからには、もちろん女性だ。俺と同じ二回生。キロのようにダブってるなんて事もないので、普通に俺と同い年。

「あ、えと、あの~、倫理おなじの……」

どうやら、俺の名前を思い出せないらしい。めっちゃ目泳いでるし。

「ども」

そもそも名乗ったかどうかさえ曖昧だが、挨拶はしておく。先手必勝とばかりに挨拶。まぁ。この場合なにが勝ちなのかよく分からないが。

「えぇーっと、さ、さ、さ……」

なんだか思い出そうと頑張ってくれているようだ。ボブカットの少し茶色い髪がゆらゆら。なんだか可愛らしく見えてきたので、しばらく観賞。

「さ、さ、さーくん? さとし、くん?」

顎の先に手を添えて、まるで名探偵のような仕草で考えているようだが、姓にも名にも「さ」なんて音は存在していない。ってか、さ行すら入ってねーし。

「あー、俺は、ゆ……」

「ちょっと! ちょっとタンマ、あと十秒! お願い!」

前髪に半分覆われた上目遣いで、懇願。超可愛くね?って、思っちゃう。

名乗ることを拒否されてしまったので、手持ち無沙汰な数秒間。逆に俺がこの娘の名前を思い出そうと試みる。んー、たしか……。サキちゃん?だった気がする。誰かがそう呼んでいたはず。多分。

「んー、とりあえず、俺そこのスーパー行くけど、サキちゃんも来る?」

あっているか定かでない名前を、呼んで、とりあえず、誘ってみた。まぁ、このまま道端で立ち話ともいかないので良いだろう。そろそろ他の通行人の方々の邪魔にもなりそうだし。

「ん? あ、うん! いくいく!!」

うん、スーパー行くのに快諾してくれた。そんなに喜ぶあれもねーだろって思ったのは内緒。

ってことで、謎の二人でスーパーに行くことになったけど、とりあえずでスーパー行くの誘うって我ながら頭のおかしいことをしたなって、今さらになってそう思う。

お互い、名前を思い出せない者とあやふやな者同士、どうなるのかもよく分からない。

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