マリッジ ブルー

スリーアローズ

Scene1 白いワンピース

 夏美が3年ぶりに電話をかけてきた。


「久しぶりに、海が見たいです!」

 昔と変わらぬ溌剌はつらつとした声がスマホから響いてきた。

 ぱっとしない日常生活をだらだらと送っていた僕にとっても、決して悪くないアイデアだった。

 

 1週間後、彼女は、本当に15:25着の新幹線でやってきた。


 前回会った時よりもずいぶんとほっそりとした印象で、白くて薄い生地のワンピースがじつによく似合っている。

 ブルージーンズの上に黄色のパーカというお決まりのコーディネートだった学生時代の夏美を忘れてしまうほどに、彼女は大人びている。いったい、本物の夏美なのかどうか、目を疑ったくらいだ。

 

 僕たちはまず、駅前に古くからある喫茶店に入ることにした。

「式の準備は順調?」

 僕はベイクド・チーズケーキを小さく切り分けながら聞いてみる。

「ぼちぼち、というとこですかね」

 夏美は、アイスコーヒーの氷をストローでつつきながら答える。

「でも、全然実感が湧いてこないんです」

 感じの良いメイクが施された顔から、次第に輝きが消滅していく。

 久しぶりに夏美を前にして、ちょっとだけ緊張しながら、ケーキをかみしめる。

「ついに夏美も結婚か・・・」

「私も、そろそろいい年ですからね」

 彼女はそう言い、かすかに口元をほころばせる。大学時代には見られなかった小さなしわがそこにある。

「2ヶ月後だっけ?」

「ですね」

「それにしてもいい人を見つけたみたいだな」

「誠実な人で、一緒にいて安らげるんです」

「しかも県庁マンだろ? 安定した生活が送れるだろうしね」

 話を盛り上げようとすると、夏美は何も答えぬまま伏し目がちに笑う。

 そんな物憂げな仕草にも思わず心が引きつけられる。

 それほど、彼女は綺麗になっている。

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