第3話 姫様は屈辱と踊る

「こんにちは。私は夏目 涼子(なつめ りょうこ)」

そう自己紹介してきたのは大学でアイドル的存在の女。家は金持ちでミスキャンパスにも選ばれた彼女は他の女を見下している。それでも取り巻きが多いのは彼女のおこぼれを狙っての事だろう。当然、容姿で彼女に男が纏わり付くが高飛車な態度をとるばかりだ。


(この女が落ちるところまで落ちたら…どんな素敵な表情を見せるのだろう)


「知っていますよ。有名ですから」

「それ程でもないけどね」

彼女は満更でもない顔をする。

「ところでなんですか?」

「一緒の講義が多いから情報交換できればと思って」

「情報なんてないですね」

俺はそう言って彼女から離れた。彼女は不思議そうな顔をする。彼女が話しかければ大抵の男は鼻の下を伸ばすであろう。しかし俺は無関心だ。それが彼女のプライドを傷つけるであろうことは解っていた。


それから毎日彼女は俺に付き纏ってくる。彼女にとって無関心は屈辱的であろう。俺は笑顔の下に潜む彼女のプライドを傷つけられた負の感情を見逃さなかった。そこから俺はちょっと関心あります的な態度をとる。すると彼女の行動はエスカレートした。もうひと押しで俺を籠絡できると思い込んでいるのであろう。その度に俺は引く。徐々に彼女の顔に焦りの色が出る。当然、過去に振られた男子からは俺は避けられるが彼らの負の感情もなかなか美味である。

ついに痺れを切らした彼女は行動に出る。

「美術館のチケットがあるけど一緒にどう?」

「そこは昨日行ったから遠慮しますよ」

彼女は唖然とする。学園のアイドルが誘っているのに断るこの男。

「私の事嫌い?」

「興味ないです」

その言葉に彼女の顔は凍り付く。

「彼女が居るの?」

「いませんね」

「じゃあ、何なら一緒に行ってくれる?」

「そうですね…飲み会なら行きたいですかね」

「じゃあ、今度飲みに行きましょう」

「集団が良いです。誰か誘っても構いませんか?」

「みんなで飲むのも楽しいわよね」

そう言いながら彼女の顔は少し引き攣る。多分、2人きりを匂わせて集団で飲み会を開く予定であったのだろう。そして期待した男を嘲笑う。彼女の手の内は解っている。故に先手を打った。周りはクスクス笑い出す。


飲み会当日、俺は過去に振られた連中に声をかけまくった。そして特にルックスが悪く酒に強い連中とルックスが良い連中を集める。彼らにはトーク力がある。盛り上がる飲み会になるだろう。

そして飲み会当日、彼女の顔は曇る。過去に振った男ばかりの飲み会。そこでは彼女は完全に蚊帳の外だ。俺達は楽しく飲み明かす。そこに居辛さと無視され続ける彼女の姿は滑稽であった。おれは密かに告白したことがない男を彼女に宛がう。すると彼女はホッとした顔に変わる。酒が進んでいく。あとは俺が知ったことではない。

酒に飲まれた彼女の行動は皆に広まった。酒に飲まれて俺以外の男とキスしまくっていたのだ。それが動画付きで広がっていく。俺は全く興味なく聞いていた。


「西村さん、どういう事よ!」

夏目は凄まじい勢いで俺に迫る。

「楽しい飲み会でしたね」

「私は…汚されたのよ!」

「おや?同意の上でしたよ?」

そう言いながら他の人間が撮影した動画を流す。明らかに酒に飲まれた彼女が男達に抱き着き唇を重ねまくっていた。しかも俺以外の全ての男と。

「なぜこんな事に…」

彼女の顔が青ざめる。彼女がアイドルで居られるのは清純さがあってこそだ。それがなくなったらただのビッチ扱いになる。

「謀ったわね」

「何を?」

「私がこうなるようにしたんでしょ!」

「言い掛かりはやめてください」

「私は…」

「自分の行動の結果でしょ?」

「それは貴方が…」

「はっきり言います。性格が悪くて、可愛くもないのにお姫様キャラとかキモいだけです。俺の方が付きまとわれて迷惑です」

彼女の顔が苦痛に歪む。姫がただのビッチになり下がった姿がたまらなく素敵に思える。

「許さない…」

彼女は悲痛と苦痛の面持ちでそう言った。

俺はその顔が美しく感じられ見とれる。

「何よ!」

「夏目さん、無様で素敵ですよ」

俺は満面の笑みでそう言った。同時にどこまでも見下した態度をとる。

「絶対に許さない」

美女の顔が屈辱と怒りに満ち溢れている。

「その顔は本当に素晴らしい」

俺は見下した態度をとり続ける。周りの女子が嬉しそうに笑っている。

「ちょっと可愛いからって調子に乗りすぎだよね」

「いい気味じゃない」

「狙った男は必ず落とすんじゃなかった?」

「みんな体目当てだったんだよ」

女子たちの声に彼女は屈辱と悲痛の顔に歪む。それが俺にはたまらなく美しく思えた。

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