狂気のエロスに誘われ
松林 性戯
第1話 同性愛者と薔薇
俺は西村 京(にしむら きょう)。ごく普通の大学生だ。俺は性的な興味は何もない。しかし美しいものは好きだ。欲情とは異なる美の世界。それが今、俺の前にある。そして俺が美しいと感じた者、それが目の前にいる小枝 優(さえだ ゆう)である。
彼との出会いはいたって普通。全ての講義が同じであったのだ。初めは普通に会話するだけだった。彼と接触するうちに彼の中性的な美に心動かされるようになる。
(この男の歪んだ顔を眺めていたい)
不意にそう思った。そして俺は彼との距離を縮める。簡単なことだった。普通に共通の趣味を見出しそして行動を共にする。そして気が付いたことがある。彼は同性愛者であると。何時しか彼は俺を求める。しかし俺に性的欲求はない。あるのは美を愛でる事だけ。
「すまないが性的な欲求に欠如しているんだ」
「それでも京が欲しい」
「ダメだ」
「我慢できない。何でもするから…お前が欲しい」
「ん?今、何でもすると言ったか?」
「あぁ、結ばれるなら何でもするよ」
そして俺は優に抱かれた。
数日後、優は再び俺を求める。俺はそれを断った。別に俺は抱かれたいわけではなかった。単に彼の肉体美を堪能できれば良いのだ。何も抱かれることはない。
「俺を嫌いになったのか?」
「別に好きでも嫌いでもない」
「じゃあ、何故拒む?」
「まだ何もしてもらっていないだろ?」
優は押し黙る。
「俺は美しいものが好きなだけだ。男女問わずにね」
「俺は嫌いか?」
「そうは言っていないだろ?お前は美しい。肉体も何もかも」
「それでは…」
「俺が欲しいのか?」
「あぁ、欲しくてたまらない」
「だったら俺を愉しませてくれ。その肉体美で」
俺は彼をマンションに招き入れる。2DKのマンションの一室は何も置いていない。このスペースこそ俺が美を追求する場所だ。
「京…」
彼は俺の生活スペースに入ると唇を重ねてくる。俺は流されるように身を任せる。そして何時しか2人は体を重ね合っていた。
「京、俺はお前が好きでたまらない」
「それは性的な意味でだろ?」
ベッドに横たわる彼に俺は身を起こし言い放つ。
「好きだから性愛感情も出るんだよ」
彼は微笑みながらそう言う。
「そんなものか?」
「あぁ、そうだと思う」
(それは違うな)
俺は性愛と純愛を別に考えるタイプだ。確かに体を重ねることで得られる安心感や満たされる気持ちはあるだろう。しかしそこには野獣の姿しかない。俺が求める美ではないのだ。
「何でもしてくれると言ったよな?」
「あぁ、お前が望むなら」
「それでは隣の部屋に来てくれ」
俺はベッドから一糸纏わぬ彼を隣の部屋に通す。
「縛らせてもらえないか?」
「痛いのは嫌だね」
「縛ってお前を鑑賞したいだけだ」
「何故?」
「俺は美を愛する人間だからだ」
そう言うと彼を優しく縛り座らせる。そして股間部分に造花の薔薇を活けた。
「なかなか素晴らしい花瓶だな」
「こんなの恥ずかしいよ」
俺はワイン片手に青年を眺める。腕を縛り上げ一物の上に造花の薔薇を活けられたその姿はこの世で一番美しい造形であると心底思う。
「なぜこんな事を」
「美を追求するのが好きなだけだよ」
「恥ずかしいよ」
「そうか?体はそう言っていないと思うけどな」
そう言いながら俺は青年に唇を重ねた。青年は顔を紅潮させ俺を潤んだ瞳で見つめた。
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