第2話 わたしは理解されたかった。

「誰からも理解されない」と悩んだ時、確かに、その「悩み」は純粋だった。

硝子のように繊細だった。

まるで我が子を育てるように、わたしはわたしの「悩み」を育んでいった。


やがて幼子だった「悩み」は成長し、わたしはいつからか、誰からも理解されないことに対して、優越感を抱くようになった。

わたしは誰よりも優れているから、誰からも理解されないのだ、と思い込むようになった。

人々を見下すことで自分の心の均衡を保つようになった。


頭の片隅ではわかっていた。

それは誤った考え方で、歪んだ優越感だということ。

どんなに思い込みの分厚い壁を塗り固めて自己暗示をかけても、わかっていた。

わたしが誰からも理解されないのは、わたしが誰も理解しようとしないからだということ。

わたしが誰からも愛されないのは、わたしが誰も愛そうとしないからだということ。


すると分厚い壁はたちまち瓦解し、心のどこかに隙間風が吹き込んだ。

わたしはそのうすら寒さにぶるっと身震いした。

と同時に、理解も愛もない荒涼とした世界に慄いた。


いつしかわたしと「悩み」の立場は逆転し、肥大化した「悩み」は無慈悲にわたしを飲み込んだ。

わたしは暗闇の中でもがいた。幼子のように、助けて、誰か助けて!と泣き叫びながら、見下してきたはずの人々にみっともなく懇願し続けた。






どれだけ長い間もがいたのだろうか。

救いの言葉は与えられなかった。

救いの手は現れなかった。

わたしは暗闇の中で足を抱え、ひとり静かに佇んでいる。

もう疲れてしまった。

誰かを理解してみたかった。

誰かを愛してみたかった。

そうしてわたしは目を閉じた。

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