罪と罰 あるいは恋
ライカ
第1話 上善は水の如し。
滔々と水が流れていく。清く、涼やかな水だ。それは滾々と湧き上がり、溜まることなく、淀むことなく流れていく。木々の緑を溶かし込んだ色で、柔らかな日差しを浴びてキラキラと輝いている。わたしは水の流れを見ている。試みに、足元に落ちていた木の枝を差し込んでみる。水は木の枝にぶつかり、一瞬だけ動揺を見せ大きく盛り上がるが、すぐに冷静さを取り戻して流れ下っていく。わたしは水が好きだ。その透き通った美しさは宝石にも比肩する。その柔らかなあり方を大変好ましく思う。まさに、老子が「上善は水の如し」と記した通りだ。では翻って、わたし自身はどうだろうか。
わたしはわたしのことが嫌いだ。わたしは美しくなどなく、誰からも愛されない。誰もがわたしを見て路傍の石を見るような、無関心の視線を投げつける。そのたびにわたしはひとり静かに、そして深く傷ついていく。わたしはわたしのことが嫌いだ。しかしそれは、自己愛が歪な形で湧き上がっているに過ぎないのかもしれない。ここで湧き上がっているのは、清冽な水などではなく、淀みきった薄暗い感情だ。感情の奔流は濁流となってわたしの中を駆け巡り、その強力な侵食作用でわたしを削り取っていく。わたしは磨り減っていく。
わたしはなにもわからない。わたしにもなにかがわかる日が来るのだろうか?
なにもわからないわたしだが、わたしは水になりたい。願わくば、その清さを好んでくれる美しい魚を住まわせる事のできるような、澄み渡った水に。そして守りたい。
その美しさを、その尊さを、その生命を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます