罪と罰 あるいは恋

ライカ

第1話 上善は水の如し。

滔々と水が流れていく。清く、涼やかな水だ。それは滾々と湧き上がり、溜まることなく、淀むことなく流れていく。木々の緑を溶かし込んだ色で、柔らかな日差しを浴びてキラキラと輝いている。わたしは水の流れを見ている。試みに、足元に落ちていた木の枝を差し込んでみる。水は木の枝にぶつかり、一瞬だけ動揺を見せ大きく盛り上がるが、すぐに冷静さを取り戻して流れ下っていく。わたしは水が好きだ。その透き通った美しさは宝石にも比肩する。その柔らかなあり方を大変好ましく思う。まさに、老子が「上善は水の如し」と記した通りだ。では翻って、わたし自身はどうだろうか。


わたしはわたしのことが嫌いだ。わたしは美しくなどなく、誰からも愛されない。誰もがわたしを見て路傍の石を見るような、無関心の視線を投げつける。そのたびにわたしはひとり静かに、そして深く傷ついていく。わたしはわたしのことが嫌いだ。しかしそれは、自己愛が歪な形で湧き上がっているに過ぎないのかもしれない。ここで湧き上がっているのは、清冽な水などではなく、淀みきった薄暗い感情だ。感情の奔流は濁流となってわたしの中を駆け巡り、その強力な侵食作用でわたしを削り取っていく。わたしは磨り減っていく。


わたしはなにもわからない。わたしにもなにかがわかる日が来るのだろうか?

なにもわからないわたしだが、わたしは水になりたい。願わくば、その清さを好んでくれる美しい魚を住まわせる事のできるような、澄み渡った水に。そして守りたい。

その美しさを、その尊さを、その生命を。

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