021 決別と、決意

 ジェイムズさんと会って、三週間。彼は、殆ど毎日、岩場に居た。

 私は、会える日が多くて嬉しかったけど。日の出の時間には来る私よりも早く、ジェイムズさんは来てる。私は不思議に思って。


 「何処で寝泊まりしているんですか」


 そう聞いた事がある。そうしたら。


 「彼処あそこだよ」


 そう言って、指を指された先。成る程、テントが張ってある。荷物の置き場だと思っていたら、どうやら、そこで寝ているらしい。時折、水と食糧だけを買いには行くらしいけど。

 やっぱり、変わった人。私はそう思う。そんな変わった彼が、嫌いじゃあ無かったけれど。


 でも、ジェイムズさんとそうやって会える日常も、もう終わる。多分だけれど。

 ジェイムズさんが今登ってるルートは、凄く難しそうで。時々岩が欠けたりして、その度に悩んでいた。でも。




 「ダアアアアッ――」


 ジェイムズの体が飛び出し、掴む。右手。欠けて、より悪くなった、外傾ホールド。恐らく、このルートの核心部。

 捉えられている間に、左足を上げようとして。


 ――落ちる。手を固定し続ける事ができなかったから。本日、十二度目のトライも、失敗に終わった。しかし。


 「イケる。登れる――」


 ジェイムズは手応えを感じていた。昨日まで、まるで止まる気配のなかった箇所だった。

 だが今の感覚は、保持をする感覚だった! なら絶対に、登れる。その手応えが、ジェイムズには有った。


 (――そうすると)


 この岩場で、粗方は登り終わった。そろそろトポを編纂しても良い頃だろう。すると、今回の様な長期滞在も、必要が無くなる。

 今回の遠征は、終わりの時を迎えていた。




 そう。分かっていた。ジェイムズさんも、ずっと居るわけじゃあ無い。楽しい時間も、そろそろお終い。

 私は未だ、登れていない。初登をしたり、見つけた人が決めるんだよ。そう言われた課題名も、決まらない。


 (諦めよう)


 諦める。あの課題の登攀も。ジェイムズさんとお喋りする日常も。


 (ジェイムズさんは、明日で登り終わるかな)


 そしたら、私も一回。本気でトライして。それでお終い。名残り惜しいけれど、辿り着かない希望は余計に苦しい。

 そう決めたから――




 「フォクシィ」


 お勤めの後。スティング様に呼ばれる。ああ、今日も機嫌が悪そうで。


 「分かりました」


 来いと、呼ばれる前に、フォクシィは答えた。

 其れを聞いて、スティングは黙って部屋へ向かう。

 いつもの通りのやりとり。この後のことも、いつもと同じ。でも違うことが一つだけ。


 (明日は、岩へ行く)


 そう決めていた。だから、気付いたら気絶していて、行けなかった。とか、そんなのは了承できない。

 だから。




 「なんだよその目はッ!」


 スティング様に殴られる。それでも、目を離さない。こうやって、他人の目を見るのは久しぶりだった。思った程の怖さは感じない。人の目を見れば、ドワーフが何見てる、と絡まれる。その先の行為が怖くて、臆病になったけど、思えばそんな行為に今更物怖じする必要は無い。


 髪を鷲掴みにされて、持ち上げられる。それでも、逸らさずスティング様を見つめる。


 「もう良いッ!」


 堪らなくなったのだろうか。離された。 スティング様は、黙って距離を取って。服を脱ぎ始める。

 成る程、これから行われる行為にも、予想が付く。それも、何時も通りだけれど。


 「やめろ!」


 スティング様の後ろから近づいて、枝垂れ掛かる。未だ脱いでいない下着の中に、手を差し入れる。


 「どうして、ですか?」


 そう、どうしてだろう。何時もは人形なんか抱いても、面白くない。そう言うじゃないか。

 協力的なのだから、受け入れれば良い。


 「――ッッ!」


 スティング様は、私を突き放そうとする。でも、体勢が体勢だし、力は私のほうが強い。バランスを崩して、ベッドにうつ伏せに倒れ込む。

 彼のモノを、ゆっくりと撫でながら、私は言う。


 「楽しみましょう……」




 ――事が終わって、私は部屋から叩き出された。


 (明日は、どうなるのかな)


 きっと、無事じゃあ済まない。今は動転しているけれど、冷静になれば報い・・に来る。


 (でも、岩には行ける)


 私は満足気に、部屋へ戻る。岩を、ルートを。空想しながら、やがて眠りに落ちた。 

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