第8話

表情の読み取れない、竜人のルゴルスであったが、内心ははっきりと衝撃を受けていた。


「まさかな、このような辺境の森で、魔武具をもった戦士がふたりも立っているとは」

魔法の付与された武器というのは、それだけで希少価値がたかい。

呪文の詠唱無しで、武器から魔法が発動するのだ。

およそ剣士と名のつくもので、必要ないと応えるものはいないであろう。

その便利さ、威力もさることながら、現在その技法は失われ、新たに魔法の武器は作成できないという点も、希少性に輪をかけている。

手に出来るのは一部の特権階級のもの。あるいはトップクラスの収入をたたき出す、一流の傭兵などしか所有することはできないとされている。

これはどういう運命のいたずらなのか、ルゴルスはすこし考えた。

―――しかし、結論のでる問いでもない。

むしろ戦士として、魔武具どうしの戦いを経験できるのは僥倖だと結論づけた。


「―――おもしろい。これで戦力はふたたび拮抗したわけか」


「さあな、そうとも限らん」


そのとおりだ―――とルゴルスは思った。

彼自身の、速度加速ブーストはすでに知られているが、彼はブライの付与されている魔術が何なのか、まだ把握できていないのだ。

しかし、推測することはできる。

まず武器に付与された魔術で多いのは当然ながら、武器そのものが強化されるものだ。

武器に火の能力、氷の能力などが加味されたり、破壊力を倍増させるものもある。

ついで多いのは身体強化系。

得物のもちぬしに加護をもたらすものだ。

ルゴルスの魔斧はこれにあたる。

ルゴルスは、ブライの魔武具の能力もこれだ、と確信していた。

でなければ、あの必殺の竜巻を受けて無事でいられるはずもない。

―――おそらくは、同じブースト系。

同じ速度で動けるなら、かわすのも難しくはないだろう。


「厄介なことになった、が・・・」

古代龍語でつぶやく。

つまるところ、条件は対等にもどった。

こうなれば―――技量―――互いの技術のみが勝負の決め手になるはずであった。


「こうして睨みあっても、勝負はつくまい」

ブライが半身の姿勢でいう。指先は柄頭に。


「まあな、ここまでの勝負になるとは、想像もつかなかった」

自嘲をふくんだ声でルゴルスは応える。


「想像力の欠如だな、直すべきだ」


「そうさせてもらおう。おまえを斬ったあとでな―――!」

―――またも、ルゴルスから動いた。

ふたたび、速度加速ブーストから旋回し、竜巻が出現した。

ブライはまちがいなく竜巻に呑まれる前に、動くだろう。

それだけの速度を持っているはずだ。

そこで―――。

手前。

斧を、突いた。

握りをぎりぎりまで下に持ちかえ、距離を伸ばす。


「ぬうっ」

身を沈め、これをかわすブライ。

すぐさま身をよじり、尻尾を鞭のように飛ばすルゴルス。

これを、ブライが跳躍してかわした。

―――ここだ。

ブライの身は中空にある。

死に体だ。

もはやかわす術はない、確信と同時だった。

ルゴルスは、口から火炎を噴いた。


前述したとおり、ドラグ族はドラゴンの末裔とはいえ、長い年月を経て徐々に退化していった。

かつて縦横に空を駆けめぐったという、強靭な両翼を失い、さらに火炎や氷の息を吐いたという始祖の特技は、とうに退化して使えなくなっていた。

もう、まるで別の種族のようなものなのだ。

しかしごく一部のドラグ族の上級種、ハイ=ドラグだけが、現在でもその失われし特技を有しているという噂はあった。

伝説のようなものだ。

しかし、それは真実だったのだ。


この流れの傭兵だったドラグ族が、まさかハイ=ドラグだとは誰も思うまい。

雇用主の野盗どもすら、驚愕に眼をまるくしている。


「虎! ――――ブライ―――ッッ!!」

セシリアは危険も顧みず、身をのりだし、叫んでいた。

ものの焦げるいやなにおいがした。


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