第136話
マイクロ波照射後、待機していたアルファは、予備戦力として待機していたフォックスと共に突入を試みた。
すでに三部隊が連絡も取れない状態となっている。
個別で行っても各個撃破されるだけと悟った指揮官により、アルファとフォックスの二部隊計十二人が共に行動することになった。
離れ屋にはすでにデルタが向かっており、こちらはまだ健在だった。
そこで母屋とは別の大きい施設――道場から侵入する。
扉の鍵を破壊し、まずは斥候として短機関銃持ちが二人、内部に入った。
斥候から敵影なしの報を受け、残りのメンバーも入る。斥候が入り口の両側で短機関銃を構えて警戒する中、続々と入っていく。入った面々もカービン銃を油断無く前後左右、挙げ句に天井にも向け、死角をなくす。
入っている間も、襲われれば排除する構えでいたが、全く襲撃はなかった。
最後に、後詰めの隊員が、背後を警戒しながら入る。
これで全員が内部に入った。
母屋に対し、全く何も起こらなかったことにやや拍子抜けしつつも、男達は母屋へ通じる通路を探そうとする。
その時だった。
入ってきた扉が、突如勢いよく閉まる。
さらに上から鉄格子が降りてきて、完全に塞いでしまった。
「罠だ!」
アルファのリーダーが叫び、隊員達は互いの背をカバーし合うように陣形を組む。
部屋の中に置かれていた篝火が灯った。明るくなり、さらに篝火の熱によって、熱感知式暗視装置が役に立たなくなった。
暗視装置を外すと、
「よく来た!」
と、声が掛けられる。
一斉に声の方向へ銃を向けた。銃口の先では一組の男女が、一段高い舞台に立っていた。
男の方は初老を過ぎ、白髪混じりの髪を撫でつけ、皺の深い顔に笑みを浮かべている。
女は季節の花の柄が入った着物を着て、長い黒髪を結って簪を挿している。
男の方は十文字槍を、女の方は薙刀を持っていた。
あまりにも自分達と応対するには場違い過ぎる装備に、男達は困惑した。
「その中に指揮官はいるのか?」
男――
「――隊の指揮、なら私だ」
アルファリーダーが声を上げる。「おい」とフォックスリーダーが止めに入るが、アルファはそれを制すと、
「何のつもりだ?」
と、逆に問い返した。
「すでに我々は君達の仲間を十八人程倒している。これ以上犠牲を重ねることは不毛だとは思わないかね?」
「――まるで我々十二人も倒せる、と言っているように聞こえるのだが?」
「そうだ」
「愚かな――まさか、その槍で貫けるとでも思っているのか? 我々十二人を?」
リーダーが返し、他の隊員達が殺気立つ。指示一つで、全員が一斉に銃撃を開始するだろう。
「素直に引いてくれれば、これ以上犠牲が出ない、と言っている」
「ほぉ……」
リーダーが考える素振りを見せる。
それを見た他の隊員達は、警戒を緩めないまま狙いを外す。
数秒――睨み合っている当人達にとってはもっと長く感じる時間が流れる。
リーダーが再度口を開いた。
「だったら、こんな手の込んだ芝居などするべきではなかったな!」
リーダーが手を挙げ、隊員達は引き金を引く指に力を掛ける。
次の瞬間、篝火が一斉に消えた。
慌てたものの、即座に引き金を引いた。彼らにとって暗視装置を外したのは痛手だが、位置は分かっている。そこ目掛けて撃ちまくった。
悲鳴が上がった。
M4カービンを撃っていた隊員が倒れる。
慌てて倒れた隊員の方を向いた男が、首を十文字槍で刺された。
そちらに向け、別の男が撃つが、今度は側面から薙刀で両腕を斬り飛ばされる。傍にいた隊員も、返す太刀で首を撥ねられた。
一瞬で四人がやられ、男達が散開する。
それを、太刀掛の槍と美妃の薙刀が追った。
美妃が薙刀を振るう度に、防弾ベストで守られていない部分を斬られ、特殊部隊の隊員達が血の海に沈んでいく。
三人目の眉間を両断したところで、フォックスリーダーがM4カービンを撃つ。美妃が避け、斬られたばかりの男に弾丸が命中した。
美妃は発砲炎が瞬く方向へ、円を描くように接近する。相手は必死に撃っているが、狙いが定まっておらず、ただ自分の位置を知らしているだけだ。
接近したところで、美妃は薙刀の柄を長めに持って、振るった。遠心力で威力の増した斬撃が、男の両足を薙いだ。転倒した男の銃を柄頭で弾き、切っ先を首に突き立て、止めを刺す。
美妃がフォックスのメンバーを殲滅している間に、太刀掛もアルファを片付けた。
電光石火で槍が突き出され、十字に分かれた穂先が首を裂く。流れるように反転し、横殴りにもう一人の首を刈った。
穂先の反対側、石突きが突き出される。太刀掛を狙おうとしたMP7短機関銃が打撃で弾き飛ばされた。さらに石突きで太股を強打し、相手が膝を着いたところへ、顔面に膝蹴りを叩き込む。
最後に槍を投擲した。一番距離を取ってM4カービンを構えていたアルファリーダーの首に深々と突き立った。
再び、篝火が灯った。
「年寄りの忠告はちゃんと聞くべきだ」
太刀掛はそう言い、虚ろな目を天井に向ける男の首から槍を抜く。
美妃も、薙刀を軽く振って血糊を落とした。
相手はこれだけの被害を出したのだ。いい加減、撤退の判断をしてくれないか――太刀掛がそう思いながら、道場の外を確認した時だった。
離れ屋の方角から、微かに銃声が聞こえた。
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