第118話

 MDSI本部から飛び立った三機のMH-6リトルバードが、まもなく目標地点に到着するところだった。

「総員、攻撃準備!」

 つばさ秋夏しゅうかの操縦する機体の副パイロット席から、勝連かつらたけしは指示を出す。

「すでに確保対象は外部に脱出、望月もちづき柚嵜ゆざきはまだ中で応戦中だ! 外には敵しかいない。徹底的に叩け!」

 勝連の鼓舞に、一斉に「了解」の声が返る。

 勝連が乗っているリトルバードの外装ベンチでは、勇海ゆうみあらた雲早くもはやしゅうの二人がボルトアクション式狙撃銃を構えた。勇海はアメリカ製のレミントンM24SWS、雲早はロシア製のイズマッシユSV-98のスコープを覗く。二人の狙撃銃には、暗視照準装置を装着済みだ。

 それぞれの背後には、弦間つるまたくみ一文字いちもんじはじめがそれぞれの得物を手に待機している。

 続く二機目のリトルバードでは、梓馬あずまつかさが操縦し、副パイロット席の英賀あがあつしが指揮を執る。外装ベンチにて力石りきいしみつるさつき里緒りおの二人が、それぞれHK11、HK21軽機関銃を撃つ準備を整えていた。

 その背後で、龍村たつむらレイ=主水もんど登崎とさきがくの二人がヘリの着陸を待つ。

 さらに三機目は、諜報部の忍坂おしざかあゆみが操縦していた。副座で通津つづさとしがウェアラブルコンピュータを操作し、外装ベンチで花和泉はないずみみゆきが六連発リボルビング・グレネードランチャーのMGLー140を構えている。

 逆サイドのベンチでは、邑楽おうらみやびが消音性能に特化した狙撃銃VSSヴィントレスの照準を合わせる。

 それらのベンチには、名雪なゆき琴音ことね姫由ひめよし久代ひさよも同乗していた。


 撃ち合っていたユーラシア人民解放軍と民間軍事会社の面々が、接近する三機のリトルバードに慌てた。彼らからすれば、どちらの増援か判断できないから、当然であろう。

 その混乱に乗じ、MDSIは先手を取った。

 花和泉が、持っていたグレネードランチャーを撃った。テロリストもPMCも敵であることに変わりない。二勢力まとめて榴弾の爆発で吹き飛ばす。引き金を引くごとに弾倉シリンダーが回転し、次弾の発射準備が完了する。次々と連射して、大打撃を与えた。

 さらに、力石と里緒が持っていた機関銃を撃ち、容赦なく蜂の巣にしていく。時折光る曳光弾の明かりが、闇夜の中地面に広がる鮮血を映した。

 敵の数を減らしたところで、リトルバードが降下した。ある程度地面に接近したところで、搭乗員達は跳び降りる。

「一文字と弦間は私と来い! 雲早と勇海は敵を狙撃しろ!」

 UMP45短機関銃を片手に勝連が命じる。勝連率いる三人がセーフハウスへ向かうのを、狙撃手二人は援護に徹した。

 勇海はM24を片膝立ちで構える。スコープ越しに敵の動きを見て、手振りから命令を下している人間を発見。眉間に照準を合わせ、引き金を絞った。

 7.62mmNATO弾が命中し、血飛沫が飛ぶ。

 目論見通り、集団のリーダー格が撃たれたことで、指示を受けていた人間がさらに混乱した。そこへ二射目、三射目を撃ち、一方的に討ち取っていく。

 雲早の方は茂みに隠れながら、ライフルの二脚を立て、伏射の姿勢を取った。

 スコープを覗くと、そこではちょうどPMCが新手を送ってきたところだった。早速先頭の敵目掛け発砲する。SV-98から放たれた7.62mmロシアン弾が、胸を貫通し、大量の血をばらまく。

 味方の血を浴びて恐慌状態に落ちた敵は様々な反応を見せた。絶叫して足を止める者、その場に伏せる者、見当違いの方向にライフルを撃つ者――

 ボルトハンドルを引いて空薬莢を排出すると、雲早は一度移動した。伏せた状態で茂みから身をなるべく出さないようにする。

 敵が落ち着きをみせたところで、もう一発撃ち込んだ。

 再度混乱をする敵を横目に、慎重に位置を変え、相手に自身の存在をバレないようにする。雲早の役割はあくまでも狙撃による援護だ。全滅までさせる必要はない。


 二機目のリトルバードから、レイモンドと登崎、里緒、そして英賀が降りた。力石は再度上昇したリトルバードから、引き続き援護射撃を行う。

 早速、レイモンドと登崎の二人が、敵陣に突っ込んでいった。レイモンドはベネリM4ショットガンを、登崎はレーザーサイト付きのH&K MP7A2サブマシンガンを、左右の手に各一丁ずつ計二丁を持っている。

 レイモンドの両手のショットガンが吠えた。半自動式のショットガン二丁から、次々と散弾が吐き出され、敵を片っ端から穴だらけにする。ベネリM3と異なりM4は発射時の機関部のガス圧を自動調整することで、自動式での装填・連射を可能としている。

 登崎は、両手のサブマシンガンのレーザー光を目で追い、照準が合った瞬間に引き金を引く。左右の銃でレーザーの色を変えているため、どちらの銃が目標を捉えたかを瞬時に理解し、時には二丁同時に射撃して複数の目標を撃ち倒した。

 しかし、両手を銃器で塞いでしまうと、一番困るのは弾切れだ。

 再装填の必要に駆られた際、二人が下がると同時に、里緒が前に出て、HK21軽機関銃を撃つ。弾幕を張り、二人が弾込する時間を稼ぐ。

 英賀は、三人の高い戦闘能力のおかげで、指示に集中することが出来た。必要な時だけ持っているミニミ軽機関銃を撃ち、極力三人が戦いやすいように周囲を把握することに務める。


 三機目のリトルバードからも、外装式ベンチに乗っていた女四人が降りた。

 MGL-140に榴弾を込め直している花和泉は久代と行動し、邑楽と名雪の二人はともにVSS狙撃銃を構えてセーフハウスに窓から侵入したPMCに近付く。

 ヴィントレスから放たれる特殊徹甲弾が、ほとんど音を出さずにセーフハウス周りの敵を撃ち抜いていった。

 弾込を終えた花和泉も行動を再開した。久代がG36Cカービンを撃って敵を牽制し、まとまったところに榴弾を撃ち込む。


 次々と敵を無力化していくMDSIの戦いを見て、銃剣付きのSR-16を構える男は呟く。

「思った以上に早かったな。さすがと言うべきか――」

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