第110話

「榴弾、これでカンバンよ!」

 柚嵜ゆざきはグレネードを撃ち終わったG3ライフルを背中に回し、MP5短機関銃を構える。

「OK! 突っ込む!」

 何がOKなのか分からないが、三十刈みとがりが応える。こちらもFALをスリングで背負い、代わりにSPAS15ショットガンを構える。

 爆発で大穴を開けたシャッターから、二人が突っ込む。

 爆風に煽られて倒れていた敵二人が、ちょうど立ち上がろうとしていた。

 二人はほぼ同時に跳躍し、跳び蹴りを炸裂させる。

 三十刈が、持っていたショットガンをセミオートで連射した。次々とばらまかれる散弾が、猛烈な弾幕を張った。工場の機械に当たり、火花が一瞬弾ける。

 柚嵜もMP5をセミオートで発砲した。火花で一瞬見えた敵に、的確に二発撃ち込む。

 三十刈がショットガンを撃ちながら駆けた。弾切れを起こしても止まらず、再度跳躍。

 敵が遮蔽物にしていたベルトコンベアに降り立つと、慌てて頭を上げた敵の顔面を蹴った。口から、血に混じって折れた歯が飛ぶ。

 ベルトコンベアから飛び降りながら、空中で蹴り足を回した。この回し蹴りで、もう一人の首の骨を折る。

 着地した時には、三十刈の左手にはM12短機関銃が握られ、フルオート射撃が繰り出される。浮き足だった敵が二人、あっさりと蜂の巣にされた。


 三十刈に遅れ、柚嵜もベルトコンベアを飛び越える。三十刈の背後に回ろうとした敵の一人をMP5で撃ち、もう一人に飛びかかった。

 柚嵜に押し倒された男が、左手で短機関銃を押さえながら右手を柚嵜の首に伸ばす。持っていた銃は、ぶつかった拍子に手放していた。

 柚嵜は伸ばされた手を、素早く自身の右脇に挟んで固定してしまう。その体勢で手刀を伸び切った肘に当て、間接を破壊した。

 腕が在らぬ方向に曲がった男が悲鳴を上げる。

 柚嵜は絶叫する男の鳩尾に左拳を打ち付け、さらに股間を殴り付けた。徹底的に弱らせた状態で男の両足を抱える。

 床に引きずるように男の身体をスイングし、頭からベルトコンベアに叩き付けた。頭蓋骨が砕け、男は完全に沈黙する。

 柚嵜はMP5を構え直し、接近する敵に撃った。胸と頭に命中し絶命した――はずの敵が、なおも近付いてくる。

 撃たれた味方を盾にしながら近付く男が、死体を投げた。柚嵜の視界が一時的に塞がれる。

 次の瞬間、短機関銃が蹴られ、手から離れる。

 さらに、男がナイフを持った手を突き出してきたので、顔を振って避けた。横に振られるナイフを、今度は頭を下げて回避。カウンターで股間に前蹴りを食らわせる。

 前屈みになった男の服を掴み、力任せに引っ張り、床へ転がした。

 柚嵜が止めを刺そうとした瞬間、また別の男が、背後から羽交い締めにしてくる。首に腕を回し、絞め落とそうとしてきた。

 もがいている内に、床を転がっていた男がダメージから立ち直る。

 まずいと思った柚嵜は、両足で思いっ切り床を蹴った。立ち上がったばかりの男の胸板を、勢いのままに両足で蹴り飛ばす。

 蹴った勢いを利用し、さらに羽交い締めにしている男の足に踵を落とした。強烈な打撃を食らい、男の体勢が崩れる。

 柚嵜はその隙を狙い、男諸共床に倒れ込んだ。床に打ち付けた衝撃で、絞める力が弱まる。男の腕から逃れながら、その顔面に肘打ちを決めた。鼻骨が折れ、鼻血が噴き出す。

 柚嵜が立ち上がる。

 再度ナイフを手に立ち上がろうとする男の手からナイフを蹴り飛ばし、鼻血まみれの男の顔に追い打ちで踵を叩き付けた。

 ナイフを失い、右拳で殴りかかる男に、今度はカウンターで右上段蹴りを当てる。顔面を蹴られ仰け反る男の右腕に、蹴り抜いた足を引っ掛け、体重を掛けて男を床に押し付けた。自身の足を絡ませた腕を折り、止めに男の首に手を回し、脊椎を折る。

「無事ですか!」

 三十刈が尋ねた。

「なんとか」

 柚嵜は起きあがりながら応える。


 二人から少し離れた位置で、床に伏せつつ機械の陰から拳銃で狙う男がいた。三十刈も柚嵜も、狙われていることに気付かない。

 男が引き金に指を掛けた時だった。

 男の目の前に、ロープが垂れてくる。男が見上げようとした直後――

 ロープを伝って降りてきた人間に、男の頭は押し潰された。


「あら、ごめんなさいね」

 その声に、三十刈と柚嵜が反射的に降りてきた人間に銃口を向けようとした。

「ちょ! 私! 私! クッス!」

 スロープの手摺りに付けたロープから降りてきた人間が、慌てて弁明。

「驚かせないでください!」

「ミトに言われたくない!」

 くすのが言い返し、先程頭を下敷きにした男の手から、拳銃を蹴り飛ばす。

「助けられました。ありがとう」

 柚嵜は銃口を下ろしながら礼を言う。

 楠が「どういたしまして」と返している内に、太刀掛たちかけ達が近くまで移動してきて、ベルトコンベアに身を隠す。

「ルナ、今どこ?」

『ちょうど降りるための梯子に着いたわ。もう上に敵はいない』

 ルナから通信が届く。

「それじゃ、あとはクリアリングだけですか?」

「そうなる」

 太刀掛が応えた。

「三十刈達はガラス張りの操作室の敵を制圧。杏橋きょうはし綾目あやめはその援護をしろ。

 私と明智あけち望月もちづきで、休憩室内をクリアリングする」

 新たな指示に一斉に「了解」と返ってくる。

「よし、行け!」

 隊員達が動く。

 明智がM4カービン下部のショットガンでドアノブを破壊して、個室に突入。

 三十刈が、弾倉を交換したSPAS15を連射した。散弾が次々とガラスに命中し、粉々に砕く。そこから、内部に進入した。

 三十刈が中に入り次第、左手のM12短機関銃を掃射し、三人ばかり討ち取る。さらに右手のショットガンの残弾も撃ち、一人を吹っ飛ばす。

「相変わらず一気呵成に行っちゃいますね」

 楠が呆れつつ、柚嵜とともに内部に入る。その後ろに、梯子を降りたばかりのルナが合流した。

 すでに中は乱戦になっていた。両手の武器を撃ち切った三十刈は銃を捨て、跳び回し蹴りを繰り出している。その一撃で男のこめかみを蹴り飛ばすと、着地とともに軸足と蹴り足を切り替えてその場で回し蹴り。もう一人の首を折る。

 楠は近くにいた敵に跳び膝を当てて床に倒してから、頭にカービン銃を撃った。

 誰を狙うか迷っている男の背後に柚嵜が接近し、股間を蹴り上げてから背中から担ぎ上げて床に叩き付け、止めに頭に銃弾を叩き込む。

 ルナは誤射を避けるため、はなから銃は使わず、トンファーを両手に構えた。回転させながら振るった右のトンファーで男の顎を打ち、入れ替わるように繰り出した左手のトンファーで別の男の鳩尾を突く。前のめりの男にトンファーごと右肘をぶつけた。

 果敢にもナイフで斬り掛かってきた男の攻撃を、左のトンファーで受け止め、右のトンファーで身体を殴打する。左脇腹を打ち、左太股に骨が砕ける威力の打撃を当て、左肩へのフルスイングで、男の身体を壁の機械にぶつけた。衝撃で、機械が潰れる。

「あ、やば」

 思わず呟くが、

「――って、よく考えたら、もうこの工場使ってなかったわね」

 と、自分の行動を正当化してしまう。

 生き残った敵が部屋の中にいないことを確認してから、太刀掛に連絡を入れた。

「クリア」

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