第89話
明智の短機関銃がヤクザの一人を撃ち抜き、太刀掛の散弾銃がトカレフを構えた敵を穴だらけにする。
そこへ敵の中国軍崩れ達が加わり、一斉にライフルを撃ってきた。5.8mm口径の弾丸を避け、二人は崩れたエスカレータの瓦礫に隠れる。
「一人じゃキツいか」
太刀掛が呟く。
「二人では?」
「
「ご冗談を!」
明智は否定する。
「貴方みたいなのは
「そうか?」
「そうです!」
周りで弾ける銃弾に負けないぐらいの音量で明智が叫ぶ。
「だったら、お前は
「それこそ冗談!」
互いに普段だったら絶対言わないようなジョークを言い合った。緊迫した状況ではあるが、軽口を叩くことで何とか緊張を解そうとする。
明智はMP9短機関銃の弾倉を新しいものに換え、右手でフォアグリップを握り締めた。
太刀掛が新しいショットシェルを挿入し、フォアエンドを引く。装填に伴う、威圧感を持つ金属音が、一度会話を切り上げさせた。
「やれるな?」
「はい!」
確認と応答。
「行くぞ!」
二人は遮蔽物から飛び出した。それぞれの銃器が火を噴き、狙われた敵が討たれる。
明智は、走りながら短機関銃を連射した。UZI《ウージー》持ちのヤクザが倒れ、もう一人のヤクザの手からMP5短機関銃を弾き飛ばす。
男が拳銃を抜いたときには、明智は右手を伸ばして男の腕を掴み、引き寄せながら顔面に頭突きを見舞った。
近くにいた別のヤクザが短機関銃を撃ってきたところに、掴んでいた男を弾除けにしてやり過ごす。
明智は盾にしたヤクザを投げつけた。相手の視界から一時的に明智が消える。
その隙を狙い、明智は右肩からタックルし、死体ごと男を押し倒した。倒れた男の頭に向け、MP9短機関銃を撃ち込む。
その様子に気付いた中国軍崩れ四人が、再度ライフルを撃ち始めた。明智は咄嗟に弾丸をばらまきながら、近くの柱に隠れる。その内の一発が、一人の首を撃ち抜き、血飛沫を上げた。
隠れた柱に次々とライフル弾が着弾し、コンクリートの破片を撒き散らす。段々、弾を撃つまでの間隔が長くなってきた。短連射を繰り返しながら、明智までの距離を詰めているのだろう。
明智は左手で短機関銃を持ちながら、右手を左腰の脇差しの柄に伸ばす。
柱の陰から出ながら、右手で脇差しを抜き放つ。目の前には、不用意に近づいていた中国軍崩れがいる。抜くと同時にそいつの胴を斬った。さらに、返す太刀で二人目の頸動脈を撥ね斬る。
脇差しを逆手に持ち替えると、左脇から背後へ向け突き出した。先程胴を斬られた敵の脇腹を刺す。傷口を抉って十分な手応えを感じ、刃を抜くと、敵は血を噴き出しながら倒れた。
味方を撃てずに今まで傍観していた最後の一人が、95式自動歩槍の引き金を絞ろうとする。
その前に、左手のみで保持したMP9短機関銃をフルオートで発砲した。二秒で六発程の9mmパラベラム弾が吐き出され、男の胸や肩、そして頭に着弾する。
明智は脇差しを振って付着した血糊を軽く落とし、鞘に納めた。左手の短機関銃の残弾を確認しようとする。
その時、新手が現れ、複数の飛来物が明智に迫った。
明智は伏せながら咄嗟にフルオートで弾丸をばらまく。自身に迫っていた飛来物のいくつかを撃ち落とし、残りが明智の近くの柱に突き立つ。
現れた敵は四人。彼らは銃器ではなく、中国武術の暗器を持っていた。おそらく、黄鱗会子飼いの暗殺者達。
内二人は、すでに両手に接近戦用の武器を構えていた。一人は鉤付きの太い針状の鉄棒――筆架叉を、もう一人は護拳付きの短刀――胡蝶刀をそれぞれ二刀流で構えている。
他の二人は、武器を抜いていない。先程刃物を投げてきたのはこいつらだろうと明智は見当を付ける。
そう思っていると、残りの二人も武器を取り出した。一人は、柳葉飛刀、もう一人は縄の先端に錘を取り付けた、流星錘と呼ばれる飛び道具。
ここで、二刀流の二人組が、投擲武器を持った二人の背後に隠れるように移動する。
一人が柳葉飛刀を投げ、もう一人が流星錘を投げた。飛刀は頭を下げて避けたが、流星錘が持っていたMP9短機関銃に巻き付く。
そこを狙い、飛び道具を使った男達の肩を踏み台に、胡蝶刀持ちと筆架叉持ちが明智に跳びかかった。
胡蝶刀の一撃を、銃を手放しながら横に転がって回避。
跳んできた二人目が、そこへ筆架叉を刺そうと両手を突き出す。
明智は、片膝を着きながら、脇差しを鞘走らせた。顔を傾けて相手の突きをかわしながら、カウンターで胴を薙いだ。
明智と男が同時に振り返る。
明智は、脇差しを両手で保持して、相手の左肩から袈裟に斬り裂いた。相手は右手で頭上を守りながら、左手の暗器を再度突き出そうとしており、左肩を無防備にしてしまっていた。
斬られた敵が、倒れる。
背後から、胡蝶刀持ちが斬りかかった。水平に振り、首を斬り飛ばそうとする。
明智は姿勢を低くしながらその斬撃を避けると、左肩越しに脇差しを突き出した。切っ先が、胸を貫く。
抜きながら振り返り、動きの止まった相手の首筋を撥ねた。返り血が、明智の顔に飛んだ。
そこへ、再度飛び道具が襲いかかる。
柳葉飛刀を脇差しで弾き飛ばし、左手で折り畳み式警棒を抜いた。だが、警棒を展開する前に縄が左腕に巻き付く。左手の動きが封じられた。
そこを狙い、今まで飛刀を投げていた男が、匕首を抜いて斬りかかる。
明智は巻き付いている縄を脇差しで切ろうとするが中々切れない。
迫る匕首の切っ先。
明智は縄を切るのを諦め、右手で縄を掴んで力任せに引き寄せると、匕首を持った手を受け止めた。弾力のある縄に、匕首を持った手が弾き返される。
明智は前進しながら、その縄を匕首持ちの男の首に巻き付けた。床に倒れ込むように体重を掛ける。
流星錘を持っていた男が明智の意図に気付いたようだが、遅かった。男が錘を手放す前に、巻き付いた縄が男の首を締め上げた。喉の空気を無理矢理吐き出させ、頸動脈も圧迫する。
流星錘を捨てた男も短刀を抜いたが、その時には明智が床に落ちていた筆架叉を投擲し、男の喉を貫いた。
明智は左腕に絡まった縄を解き、折り畳み警棒を仕舞うと、コルト・ローマンを抜いた。首を押さえて苦しむ男達の頭へそれぞれマグナム弾を撃ち込み、介錯してやる。
明智と別れた太刀掛もまた、敵目掛け駆ける。一人撃ち倒すと、もう一人の距離が近かったため、ポンプアクションの手間を惜しみ、姿勢を低くしながら足を払った。
敵が銃を乱射しながら仰向けに倒れたところに、銃床を叩き込んだ。首の骨が折れる感触を確認してから、フォアエンドを前後させた。ポンプアクションが作動し、空薬莢が排出され、チューブ弾倉内の次弾が薬室内に装填される。
中国軍崩れの一人が、別れた明智と太刀掛のどちらを狙うか一瞬迷った末に、銃口を太刀掛に向けた。
太刀掛は装填を終えたレミントンM870ショットガンを撃った。九発の散弾が、周りの壁を削りながら敵に命中。胸や首に風穴を開けられた中国軍崩れが倒れる。再びポンプアクションし、排夾。
こちらに95式自動歩槍を撃つもう一人に向け、引き金を絞った。ばらまかれた弾が相手の頭と右肩を抉る。
そこへ三人、暗器を手に駆け寄る敵がいた。
太刀掛が銃口を向け、ショットガンを撃つが、相手は穴だらけになりながらも止まらなかった。武器を手放しつつも次弾装填中の太刀掛に激突し、その手からショットガンを弾き飛ばす。
二人目が、胡蝶刀で斬りかかった。
太刀掛は左手の斬撃を、右手で相手の腕を掴んで止める。
続いて、右手の斬撃が迫った。
太刀掛の左手が小太刀に伸び、少しだけ鞘走る。鞘から覗いた白刃が、胡蝶刀を受け止めた。
太刀掛は、掴んでいた右手を一旦離すと、手の甲で胡蝶刀を持つ左手を払う。一見軽く弾いたようだが、相手の想像以上の打撃で左手が離れた。
その隙を突いて、右手の手刀で、相手の右手首を破壊する。相手の手放した胡蝶刀を右手で掴み、首目掛け一閃。
血とともに喉の空気が漏れる。
太刀掛は奪った胡蝶刀を投擲した。柱の陰からライフルと頭だけ出して狙っていた中国軍崩れの顔に突き立つ。
さらに、青竜刀持ちが斬りかかってくるのを左手で小太刀を抜いて受け止める。逆手で握った小太刀と、青竜刀がぶつかり合った。
右手で、貫手を放つ。鍛え抜いた指先を軽く曲げ、相手の鳩尾を突いた。
一瞬呼吸が止まった相手の青竜刀を弾き、右手で小太刀の柄頭を掴む。左手を柄から離し、右手一本で刃を振るい、相手の眉間を両断した。
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