第81話

「おらぁ!」

 登崎とさきが吼えながら両手の短機関銃を撃ちまくった。それぞれの銃に付いたレーザーサイトから伸びた赤い光がともした箇所に、吸い込まれるように4.6mm口径の特殊弾頭が命中する。

 深紅のレーザー光が男の眉間に合った瞬間を右目で捉え、右のMP7A2を連射。男の頭蓋が吹き飛ぶ。

 その間、左目で浅緋うすあけのレーザー光を追う。敵の胸をなぞった瞬間、左指がトリガーを絞った。レーザー光に追従するように、敵の胸に弾痕が走る。

「うおぉぉぉ!」

 背後から、雄叫びとともに、ライフルのハンドガードを握り締めた男が殴りかかってくる。

 登崎はちらりと後ろを確認すると、身を沈めた。真横に振られた銃床が頭上を通過する。

 姿勢を低くしたまま、男の足を払った。男の身体が豪快に登崎を飛び越え、床を転がる。

 その男を撃とうとしたが、別の男がライフルをハンマー代わりに襲ってきた。咄嗟に両手のMP7A2のハンドガードの側面で受け止める。

 そこを狙い、別のテロリストがナイフで斬りかかってきた。

 登崎は足のバネを利用して立ち上がると同時に、曲げていた肘を伸ばす。その反動で力任せに受け止めていたライフルを受け流した。振り向きざまに左足を上げ、ナイフを握る手を蹴り上げる。

 自身に迫るナイフを蹴り飛ばすと、肘が伸びたままの右腕を駆けてくる男の首に打ち込んだ。アームハンマーを食らった男が仰向けにひっくり返る。

 そこへ、先程の打撃を受け流された男が、今度は槍で刺すように登崎へ銃床を突き出してきた。

 登崎は僅かに身をずらして避けると、突き出されたライフルを右脇で抱える。相手が慌てて離れる前に、左手の短機関銃を右肩越しに発砲し、頭を撃ち抜く。

 ナイフを持っていた男も立ち上がろうとしていたが、その時には右手の短機関銃から伸びるレーザー光が男の眉間を捉えていた。迷わず引き金を絞る。

 片付けると、登崎が自ら床を転がった。その上を、弾丸が通過する。

 先程足を払って転がした男が、喚きながらマカロフ拳銃を連射してきた。転がって距離を詰める登崎を追うように、次々と床に弾着する。やがて、マカロフのスライドが後退したまま止まった。

「残念だったな」

 登崎は仰向けの状態で両腕を伸ばし、銃口を突きつける。弾切れのマカロフを握った男の身体が大量の弾丸に貫かれ、その反動で踊った。撃ち終えると、糸の切れたマリオネットのように男の身体が崩れた。



 リオがP90短機関銃を撃ちながら、敵が隠れている車両に向け駆けていく。ボンネットの上で弾丸が跳ね、ガラスに罅が入った。敵は、撃たれることを恐れてロクに顔を出せない。

 リオは一度右の踵を強く床に打ち付けてから、跳躍した。敵の隠れる車のボンネットの上を転がるように移動、敵の眼前に迫る。

 先頭の敵が、銃口を上げる前に、ボンネットの上から右爪先を相手の首へ延ばした。すでに展開していた仕込み刃が、男の首を斬り裂く。

 一人目を仕留め、リオはさらに転がってボンネットから車の天板に移動する。ボンネットに向けて撃たれた敵の弾丸が、アルミのボディに無益な傷を付けた。天板の上から、その敵へ向けて、短機関銃を撃ち込む。

 リオは車から跳び降りながら、右足を一閃。三人目のロシアンマフィアの腕に斬り付け、持っていたライフルを床に叩きつける。

 悲鳴を上げながらも拳銃を抜こうとした男の口に、P90の銃口を捻込んだ。

 これから何が起こるか理解して絶望に染まった男の目を無視し、無慈悲に引き金を絞る。



 英賀あがはC8カービンの短連射を繰り返しつつ、周りの状況を見る。大半の敵の武器はアサルトライフルか短機関銃だが、少し離れた場所まで視線を延ばせば、PK機関銃やドラグノフ狙撃銃を持つ人間がいるのが分かった。

 ――あれに撃たれてはたまらないな。

 幸い、周囲の敵の目は暴れまくっている登崎とリオに釘付けだ。その隙に厄介な敵から片付けさせてもらう。

 英賀は狙えるポジションに移動すると、セレクターをセミオートにセットし、ドラグノフ狙撃銃を持った敵を撃つ。二発撃って、胸に当てることに成功した。条件さえ揃えば、カービン銃でも短距離の狙撃は出来ないこともない。

 PK機関銃を持った男が、英賀に気付いて、腰溜めの姿勢で発砲してきた。英賀は即座に傍にあったトラックの陰に隠れる。頑丈なエンジン部で身体を守り、タイヤで足も隠す。

 ここで、このトラックの荷台と床の隙間から何とか敵を撃つことが出来ないかと考えた。

 身体は決して車の陰から出さず、屈んだ状態で腕を伸ばし、カービンの銃身のみを荷台と床のスペースに突っ込む。顔を迂闊に出せないため、狙いを定めないままフルオートで弾をばらまいた。

 一〇発近く撃ったところで、悲鳴が上がり、機関銃の狙いが上に逸れた。今までトラックを穴だらけにしていた弾丸が、駐車場の天井を削る。

 ここで荷台の下から敵の様子を見ると、足を撃たれた機関銃手が転倒しながら乱射していた。姿勢の都合上、照準器を覗けないため、大体の位置を確認しながら先程と同様の方法でカービン銃を撃つ。転けている敵の身体に二、三発着弾し、敵の射撃が止む。

 しかし、ここでC8カービンの弾が切れた。

 弾倉交換をする間もなく、英賀の存在に気付いた別の敵が、伏せて撃ってきた。狙いは当然、荷台下のスペースから撃っている英賀だ。

 英賀は咄嗟にC8カービンを手放して、トラックの荷台に乗る。危ういところで、先程まで英賀の頭があった空間をライフル弾が通過した。

 伏せていた敵が立ち上がろうとするが、英賀はそれを許さない。初弾装填済みのSIG P226拳銃を抜き、撃鉄を親指で起こす。相手の銃口が上がるよりも早く、英賀の拳銃がその頭を撃ち抜いた。

「おのれぇ!」

 叫びながらビィチャージ短機関銃を撃ってくる者がいた。先程、退却指示を出していたことから、おそらくロシアンマフィアの指揮官と思われた。

 英賀は荷台の上を転がって連射されてきた弾を避けると、P226拳銃を三発程連射する。相手も動いているため、最初の二発は外れたが、三発目が短機関銃に命中した。

 さらに英賀は拳銃を撃ち続ける。相手は予備武器の拳銃を抜くはずだから、撃つまでにタイムラグが生じるはず。そう計算し、冷静に狙って撃てる――はずだった。

 敵の指揮官は銃ではなく、ナイフを抜いた。ただ抜くだけではなく、抜いた動作そのままに投擲してきたのだ。

 あまりにも予期せぬ動作に、英賀の判断が一瞬遅れた。ナイフを避けられず、左肩に突き立つ。

 そこへ、敵が跳躍し、バランスを崩している英賀に跳び膝蹴りを放った。

 英賀は防御すら出来ず、その蹴りをもろに胸へ喰らい、荷台から叩き落とされた。その衝撃で、P226が手から離れる。

 敵が顔に余裕を浮かべ、拳銃を抜いた。

 英賀は起き上がろうとして、右手に触れたものに気付く。

 敵は、拳銃のスライドを引いた。薬室に弾丸が装填される。

 英賀が右手でそれ・・を掴む。

 敵が拳銃の銃口を英賀に向けると同時に、英賀もそれを持ち上げた。

 引き金が、絞られる。

 敵の身体が宙を舞った。

 敵の撃った弾丸は、英賀の頬を掠め、床のコンクリート片を撒き散らす。

 英賀は右腕で保持していた、C8カービンを下ろした。彼の右手が握っていたのは、ハンドガード下に取り付けていた、H&K AG320のグリップだ。発射された四〇mm口径のグレネード弾は、安全装置が解除されず、柔らかい人体にキャッチされたことで炸裂こそしなかったが、「高速で飛ぶ約三〇gの質量体」として敵の身体に命中した。当然、当たったときの衝撃は拳銃弾などと比較にならない。

 英賀は左肩の痛みに苦労しつつ弾倉を換え、吹き飛ばした敵の様子を確認する。

 敵は、口から血を吐きながらも息があった。グレネード弾は腹部に命中したため、内蔵破裂くらい起きていそうなものだが、恐るべきしぶとさだ。もっとも、吹っ飛んだ後、コンクリート床にロクな受け身も取れずに叩きつけられたものだから、すぐには身体が動かないようだ。

 英賀は、その眼前にC8の銃口を突き付ける。

「さっきのは、左肩の分。これは――」

 銃声が鳴る。

「――頬の傷の分です」

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