第69話
MDSIのセーフハウスからバイクで出撃した六人は、三手に分かれた。
そして、残る
「クッス! あれ!」
ヘルメット内の通信機越しに、ルナが楠へ警告する。
「見えてる!」
楠は応える。
二人の進行方向には、四人のチンピラがいた。一人が、ホテルの一室を双眼鏡で観察している。
「盗撮かな?」
楠が茶化す。
「敵の見張りでしょ」
ルナは楠の冗談には乗らず、淡々と考えを語る。
「でしょうね」
楠も混ぜっ返す真似はしない。
やがて、周りを窺っていたチンピラが、二人の乗るバイクを指して何事か言った。
「やる?」
「やりましょう」
楠とルナが互いの意思を確認し、
「バイク、減速しちゃうから、止まったときのバランス取り手伝って」
「分かったわ」
楠が、右手をバイクのハンドルから放した。こうすると必然的にアクセルが回せなくなってしまうため、自動的に減速する。
楠とルナが同時に銃を抜いた。
楠は、ベレッタ90ーtwo。ベレッタM92拳銃のマイナーチェンジモデル。ベレッタ特有のざっくりとスライドをカットしたデザインと、布に引っかかりにくい丸っこいデザインが特徴。
ルナは、H&K P2000。同社のUSPコンパクトを基に、女性でもグリップを握りやすく改良された拳銃。
男達が懐からトカレフを抜くが、遅い。
二人はほぼ同時に拳銃を発砲。男達の胸に二発ずつの9mmパラベラム弾が命中する。
バイクが停止したとき、撃たれた男達は地面に倒れ伏していた。
バイクから降りると、仲間から借りたライフルを取り出す。どちらも、オーストリア製、シュタイアーAUG。銃床内に機関部を収めたブルパップ式のライフルで、ボディの大半がポリマーで構成された、近未来的デザインを持つ。
「上るわ。ルナ、お願い」
楠が、ルナにライフルを二丁とも持たせたまま、助走の体勢に入った。
ルナは頷き、バレーボールをトスするように両腕を組んで軽く腰を落とした。
楠が駆け出した。途中で地面を蹴って跳ぶと、ルナのトスでさらに高く跳ぶ。
空中で一回転すると、塀に足が迫る。再度塀を蹴り、三角跳びの要領でホテルの三回まで跳び上がった。
楠はベランダの手すりを掴む。懸垂の要領でベランダまで登り切り、ロープを取り出した。手すりに金具を咬ませ、簡単に外れないことを確認してから、下のルナへ向け、ロープを垂らした。
ルナが上がるまでの間に、楠は再度拳銃を抜き、部屋の様子を確かめる。窓ガラスは割れていたが、カーテンが閉められていたため、中にいた人間からは見えていないはずだ。
「くそ! 初期化されている!」
耳を澄ませた瞬間、罵詈雑言が飛んできた。
カーテンの隙間から覗くと、ノートPCを調べていた男が机を感情任せに叩いていた。
「やはり、あの女に直接聞くしかないか?」
声を発した人間に、見覚えがある。黄鱗会のジー・イーシャンだ。彼も拠点制圧作戦の際のターゲットだったため、作戦参加者は全員、その姿を記憶していた。
部屋の中を観察すると、ジー含め、三人の中国系の男がいた。
――捕まったか?
焦りが生まれるが、まだ幹部がこんなところにいるのだ。ひょっとしたら、まだホテルの中から出ていないかもしれない。入り口は勇海達が抑えるから、まだ間に合う可能性はある。
楠は覚悟を決めると、割れていた窓から部屋へ進入した。
「奴らの増員も来ている。さっさと――」
ここで、ジーが楠に気付き、言葉が途切れる。
突然の闖入者に、三人の男達が驚いた。
楠は手始めにノートPCをいじっていた男の後頭部に一発撃ち込む。男はPCの画面に頭から突っ伏す。
ジーともう一人の男が拳銃を抜いた。
楠は、手下の方の胸にダブルタップを決め、さらに頭も撃ち抜く。照準を替え、ジーの拳銃目掛け撃った。
ジーの拳銃が半壊し、跳ねた銃弾が手の甲に鋭い切り傷を生む。
――こいつは生け捕りかな。
楠がジーに接近し、上段回し蹴りを放つ。手の傷を押さえるジーのこめかみを、楠の足が捉えた。ジーの身体が、錐揉みながらベッドにダイブする。
気絶したジーをワイヤーで拘束しているところに、ようやくルナがベランダに上り、部屋の中に入ってきた。
「お待たせ」
ルナが、グレネードランチャーが付いていない方のAUGを楠に渡した。
「アユさんは捕まった。でも、まだ建物から出てないかも……」
「なら、急ごう」
AUGのコッキングハンドルを引き、薬室に初弾を装填し、グレネードランチャーにも弾を込めた。
カービン銃を構え、二人は部屋のドアから出ようとする。
ここで、まっすぐ扉へ向かおうとした楠の肩をルナが二度叩いた。止まった楠に、さらに唇に人差し指を立て、声を出さないように指示。手招きされ、ルナの背後に楠は回る。
ここで、ルナがAUG銃身下のグレネードを発射した。穴だらけだったドアが、爆破される。扉の向こう側から、何人かの悲鳴。
爆発で生じた煙が晴れ始めたところで、銃を構えた男達が部屋に踏み込んできた。二人は迷わず応戦する。
ホテルを舞台に、銃撃戦が開始された。
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