第62話

 ――話を英賀あがあつし達のチームに戻す。


「リキさん、増援!」

「分かっている」

 力石りきいしみつる通津つづさとしの呼びかけに応えながら、G3SG/1の引き金を絞る。スコープに、PK機関銃を構える男の頭が撃たれる様子が鮮明に映った。素早く照準を切り替えて、二射目を放つ。三人目、四人目ーーと撃ったところで、敵は力石と通津の存在に気付いた。機関銃を積んだ車両が移動し、敵の一部が二人の陣取るビルへ向かってきた。

「あぁ、もう!」

 通津は傍らに用意していたM4カービンのチャージングハンドルを引いて、薬室に初弾を送る。力石も、これ以上の狙撃は不可能と考え、ライフルを持って立ち上がった。

 装備をまとめ、非常階段を降りようとすると、下から階段を駆け上がる足音がした。二人はそれぞれ持っている銃を階下に向ける。銃を構えた男が階段の踊り場に踏み込んだ瞬間、ライフル弾をフルオートで叩き込んだ。身体中穴だらけの男がもんどり打って倒れる。

「こいつら、装備が整っている!」

 通津が叫ぶ。先程トラックから乱射されていた機関銃もそうだが、こちらに上がってきた敵も、アサルトライフルで武装している。

「ホテルの中は囮で、こちらが本命と言うことか」

 撃ちながら、力石が分析する。ホテルの中の敵と、今来た増援の装備を比べれば一目瞭然だ。これは、巧妙に仕組まれた罠だったのだ。

 英賀あが達と合流しようとするが、さらに敵が弾幕を張ってきたため、階段を下りることが出来ない。結果として二人は足止めを食らうことになった。



 ホテル側も敵がなだれ込む。外から機関銃で大量の弾丸が二階、三階へ撃ち込まれている間に、アサルトライフルで武装した敵が侵入を果たした。

 ロビーから通常の階段を上がる部隊と、非常階段を上がる部隊に分かれた。

「さぁ、一番乗りだ!」

 通常階段から、一人目が意気揚々と二階に上がる。

「そいつはご苦労なこった!」

 龍村たつむらレイ=主水もんどがSPAS15ショットガンを撃った。AK101ライフルを持った男が、上がって早々に蜂の巣にされる。レイモンドはセレクターをセミオートの状態にしてさらに引き金を絞った。後続の男達にも、問答無用で散弾の雨を浴びせる。


 一方で、非常階段を上がる部隊も二階に到達する。

 先頭の男が非常扉を蹴り破った。そして、二階に一歩足を踏み入れた瞬間、足を引っかけられ転倒する。

 非常階段入り口の傍に潜んでいた望月もちづきかおりは、入ってきた一人目を転ばすと、続く二人目の顔面に掌底打を放った。一人目が転けて踏鞴たたらを踏んでいた男の鼻が潰れ、後ずさった拍子に階段から落ちていく。

 望月は、立ち上がろうとする一人目の頭を踏みつける。MP5KーPDWを持った左手と左目だけを非常口から出し、階下へ向け発砲した。後続の男達が二、三人撃ち抜かれるが、反撃にAK101ライフルを連射した。

 望月は慌てて頭を引っ込めた。そこへ、立て続けに高速のライフル弾が着弾し、壁を削る。

「こっちからも来たわ! どうするの、チーフ殿?」

 望月が、英賀へ怒鳴った。

 望月と入れ替わりに、姫由ひめよし久代ひさよ杏橋きょうはしくすのが非常口の敵に対し応戦する。だが、敵の数が圧倒的に多く、なかなか戦果が挙がらない。階段がそれほど広くないことが幸いして一気に敵が雪崩込むことはないが、逆にこちらの退路も断たれていることになる。


「とっくに連絡は入れました! 今は耐えてください!」

 英賀は言い返しながら、P90短機関銃を発砲する。

「くそ、リキ達はどうなんだ?」

 レイモンドがベレッタM92拳銃のスライドを引いた。撃ちまくっていた散弾銃の弾が尽きたのだ。

 だが、ここにいる面々の予備弾薬事情は、レイモンドとさほど変わらなかった。ただでさえこのホテル内に潜んでいた敵を殲滅して弾薬を消費した後なのだ。増援を相手に出来るほど、十分な装備がない。

 英賀も、ついにP90の最後の弾倉を空にした。入れ替わった弦間つるまたくみがFNハイパワー拳銃で足止めしている間に、バックアップのSIG P226拳銃を抜く。

「あちらも応戦中です! 狙撃援護は期待しない方がいいでしょう」

 応援も、と言いそうになって、英賀は言葉をつぐむ。

 今回の作戦では、五カ所の拠点への同時攻撃を行っていた。ひょっとしたら、別の拠点を攻撃したチームも罠に掛かってしまった可能性もあるのだ。わざわざ苦戦中の部隊の応援に割ける人員はないと考えた方がいい。

「まずいよ! 弾がもうほとんどない!」

 グロック拳銃の弾倉交換をしていたさつき里緒りおが叫ぶ。

 もはやここまでか、と英賀が思ったときだった。

 爆発が、建物を揺らした。

「何だ?」

「奴ら、ついに痺れ切らしてRPGでも持ってきたのか?」

 匠とレイモンドが言い合う。

「静かに!」

 英賀が制止する。

 いつの間にか、休み無く撃ち込まれていたはずの機関銃による銃撃が止んでいた。

 そして、耳を澄ますと、下層から微かに敵の叫び声が聞こえた。

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