第28話
『各員、応戦せよ。応援はすぐ来る。トレスを渡すな!』
「ちっ、簡単に言いやがる!」
勇海は立て続けに撃ち続ける。相手がまだ一人残った状態で弾が切れた。勇海は一度手を車内に引っ込める。
「掴まって!」
必死に撃ち続けていた男が、ターンする車の後部にぶつけられ、トラックの荷台に激突した。
「無茶苦茶するな、おい」
勇海はM66の弾を交換する。そして、ダッシュボードに隠してあった拳銃も取り出した。
S&W社製.357マグナム弾対応回転式拳銃M686。同社の代表作の一つであるコンバットマグナムは、小型で携帯に便利だが、マグナム弾を撃つには強度に難があった。そこで一回り大きく、強度と携帯共に支障がない弾倉を持ったリボルバーが開発された。それがM686ディスティングイッシュト・コンバットマグナムだ。勇海は
「こうなりゃ効率優先だ。敵の頭数を減らさんと援軍まで持たん」
そう言って勇海は車から降りる。
「どうするの?」
「お前トレスのところまで車で突っ込め。」
「……はい?」
「トレスのところまで一直線で向かえ。霧生組の雑魚は俺が片付ける」
「……大丈夫?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ? ヤクザ如きにはやられねぇよ」
「そう言う人から死んでくから」
勇海の軽口をさらっと受け流すルナ。
「……最近俺の扱い酷くないか?」
「気のせいでしょ」
ルナは霧生組構成員から短機関銃を奪い取り、エンジンを噴かせる。
「それじゃ、先に行くわよ」
ルナの運転する車が発進した。トラックを避け、未だ攻撃を受ける護送団に向けて一気に加速していく。
それに気付いた霧生組の男達がルナの車に一斉に撃ち始めた。
勇海はルナが迂回した方向とは逆側からトラックを回る。敵を視認すると、左手のコンバットマグナムを撃ち込んだ。ルナに夢中になっていた男達が次々と、頭を撃ち貫かれていく。
こちらに気付いたヤクザがライフルを乱射してきた。一旦、勇海はトラックの荷台に身を隠す。かなり激しい弾幕で、迂闊に顔を出せない。
「数だけはうじゃうじゃと……そこか」
右手のM686が火を噴く。勇海を狙った男が、見当違いの方向へ弾をばら撒きながら倒れた。弾幕で釘付けにし、別働隊が仕留める算段だったようだ。
ここで、一度弾幕が途切れた。
(……弾込めか? いや、こちらが痺れを切らすのを待っているのか……随分と策を弄してくる……感動的だな)
勇海はM66を一度ホルスターに戻し、撃ち倒した男の死体を引きずってきた。
(だが無意味だ)
死体を放り、射線に晒した。
案の定、その死体が蜂の巣になった。左手に持ち替えたM686を二発撃つ。死体を狙った男が胸に弾丸を受け倒れた。
再び勇海に向け一斉射撃が行われたが、その時には勇海は身を隠している。
(いい加減埒が明かねぇなぁ……)
そう考えた勇海は射撃が収まった瞬間、遮蔽物から飛び出す。突然の行動に、相手は驚き反応が遅れた。
勇海は駆けながら左手のM686の残弾を次々と叩き付ける。M686が弾切れを起こすと、右手でM66を抜き、さらに撃ち続けた。男達は勇海を照準に捉える前にマグナムに貫かれていく。
ついに両手の拳銃の弾が切れた。
敵は残り一人。
勇海は両手の銃を手放し、地面を転がる。前転で最後の構成員に近付いた。なんとか接近前に倒そうと撃たれる銃弾がアスファルトを抉る。
勇海は右手でバックアップ用の五連装リボルバー、M649《ボディガード》を抜いた。最後の男の顎へ突きつけ、引き金を絞る。男は強烈なアッパーカットを食らったかのように仰け反り、鮮血を撒き散らした。
ひとまず、この辺りの敵は片付いた。捨てた拳銃を拾い直し、弾を込め直す。
すでに、予備の.357マグナム弾は全て使い切ってしまった。
勇海はM649用の.38スペシャル弾をM686に込める。口径が同じ.357マグナム弾と.38スペシャル弾には互換性があり、前者を使用できる回転式拳銃で後者を撃つことが可能だ(ただし逆はできない)。
弾を込め終え、勇海は倒したヤクザが持っていた銃を奪うことにした。その中でも、勇海はある銃に目を留める。
アメリカ製サコーM60軽機関銃――ベトナム戦争でも使用された汎用マシンガン。設計が古く、それに起因する様々な欠点があるものの、韓国や台湾では未だ制式採用機関銃として活躍している。このヤクザが使用していたのは、銃身を短くし、フォアグリップを追加された軽量化モデルで、7.62mmNATO弾を繋いだベルトリンクが本体左に取り付けられた箱型弾倉に詰まっている。
勇海はM60を腰だめで構えながら移動した。最後まで生き残っていたSAT隊員が包囲され、撃ち殺される場面に遭遇する。
勇海は相手が気付く前に水平に弾をばら撒いた。
五、六人の敵が身体をライフル弾に貫かれた。銃創から噴出す血が道路に新しく赤い模様を描き加えていく。
振り返りライフルを向けてくるヤクザに、二、三発ずつに区切った短連射を加えた。一人一人的確に急所を抉り、次々と血の海に沈めていく。
そこへ、ヘリが勇海へ接近してきた。
銃手が勇海へ向け、FN MAG軽機関銃を乱射する。
勇海は近くにあったSATの車両へ向け走った。その後ろを7.62mm弾のシャワーが追いかけ、アスファルトに弾痕を刻む。
勇海はボンネットの上を転がって反対側に着地、射線をやり過ごす。腰だめから肩づけの姿勢に切り替え、車のサイドミラーを剥ぎ取り、相手の様子を窺う。
相手はしばらく機関銃による射撃を続けていたが、ついに痺れを切らした。銃撃を止めると、別の武器に切り替えようとする。
その隙を勇海は突いた。勇海は顔を上げ、銃をヘリに向ける。
銃手はマシンガンからRPG-7に持ち替えていた。こちらを車ごと吹き飛ばす算段だったようだ。
相手が引き金を引き切る前に、M60が火を噴いた。勇海の肩に中口径ライフル弾の連射による激しい反動が伝わる。
男の身体に、7.62mmNATO弾が命中した。胸に着弾した際に、相手の身体が仰け反り、弾頭が上を向く。
次の瞬間には保持している腕が貫かれた。腕の神経に電気信号が走り、反射的に引き金を引く指が動く。
暴発したロケット弾はヘリの天井に当たり炸裂、ローターを吹き飛ばす。
炎上するヘリが、川へ墜落した。
勇海はホッと一息吐けようとする。
しかし、そこを狙い銃声が響いた。本来なら反応すら難しいアンブッシュ。
勇海は咄嗟にM60を胸の前に掲げた。
M60の機関部に44マグナム弾が刺さり、その衝撃に吹っ飛びそうになる。辛うじて弾丸はM60の内部で止まる。
踏み止まりながら、弾丸の飛んできた方向に目を留めた。
「
勇海は使い物にならなくなった機関銃を捨て、M686を抜いた。互いに撃ち合う。弾丸が交錯するが、激しく動いているため当たらない。
だが、四発目を撃った際、牛頭のレイジングブルに命中し、手から弾き飛ばした。勇海は「しめた」と思い、牛頭の頭を狙う。
ここで、牛頭が異常に頭を低くし、突進してきた。撃った一弾は相手の頭上を過ぎ、勇海はタックルを食らってしまう。勇海の身体が浮き、その衝撃でM686を落してしまう。
脳が揺さぶられ、意識が朦朧とする……
牛頭が勝ち誇った顔でレイジングブルを拾おうとした。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
その時、雄叫びと共に、
レイモンドがベレッタM92Fを牛頭に向けるが、撃つ前に手刀で払い落とされる。
そこへ牛頭の左足がローキックを繰り出した。それを脛でガードし、互いの身体を掴み合う。そのまま取っ組み合いに発展した。
今度も牛頭が動いた。レイモンドの脚を払い、地面に叩きつける。マウントポジションを取り殴ろうとしてきたが、レイモンドはパンチを放つ右腕を掴み、逆に相手の脇腹に拳を叩き込んだ。横隔膜ごと肝臓を揺さぶると、牛頭の腰が浮かぶ。仰け反った牛頭の背に自由になった脚で蹴りを放つと、牛頭が前転するようにレイモンドの頭上を吹っ飛んだ。ただし、牛頭の右腕は掴んだままだ。
牛頭を払い除けると、右腕をさらに両脚で挟み、関節を極める。十字固めを決め、一気に右腕の関節を破壊しようとする。
しかし、相手は元プロレスラーだけあって、一筋縄ではいかなかった。
残った左手だけで、組み付いた脚を退けた。左手でレイモンドの顔を殴ると、胸元を掴み上げ、振り回すように投げ飛ばす。
牛頭はライフル弾で穴だらけになった車に目を留めると、そのドアに手を掛けた。ドアとボディを繋ぐ金具が軋み、力任せに引き千切られる。ただの金属板と化したドアを、起き上ったレイモンドに叩き付けた。二度、三度と叩き付けるたびに、ガラスが砕け、変形していく。
レイモンドは腕を上げ、ガードしているが、圧倒される一方だ。
ドアがほとんど原型を残さないぐらいにボロボロになると、牛頭は凶器を捨て、よろめくレイモンドを掴んで無理矢理立たせる。背後から首に腕を回し、締め上げた。
そこに一発の銃声が響いた。
後ろから左肩を撃たれ、牛頭の締める力が弱まる。
「俺を忘れてんじゃねぇよ」
牛頭はレイモンドごと振り向き、盾にする。
先程倒れた勇海が、五連装リボルバーS&W M649を構え立ち上がった。
牛頭は内心焦った。辛うじて牛頭の左腕に力は込められるが、それと引き換えに激痛が走る。
そのままジリジリと後退していると、足に触れたものがあった。相手が先程まで使っていたS&W社製の回転式拳銃だ。装弾数は六発。相手は持ち替えてから五発撃ったから、まだ一発残っているはずだ。
牛頭は爪先を銃に引っ掛け、宙に放り上げる。右手でキャッチし、
「終わりだあぁぁぁぁ!」
と、勇海へ銃口を向け、引き金を絞る。
ダブルアクションのリボルバーが、トリガーに連動しシリンダーが回る。
カチン、と金属の悲鳴がした。
「……え?」
牛頭は思わず間抜けな声を出す。
最後の一発は不発だった。いや、そもそも撃鉄が雷管を叩く音すらしなかった。
あまりにも予想外の出来事に、牛頭は呆然としてしまった。
「一体いつまで寝ているつもりだ、レイモンド?」
この一声に、今までぐったりしていたレイモンドが動き出す。
レイモンドは相手の力が緩んだところで、右肘打ちを背後に放った。見事に牛頭の鳩尾にめり込む。
首から牛頭の腕が離れた。
振り向き様に牛頭の顔にフックを一発、再び鳩尾を狙ってボディブローを三発、前屈みになったところにアッパーを決めた。
顎が砕け、数歩後ずさった牛頭は最後の抵抗とばかりに右拳を突き出そうとするが、大振りすぎる。
レイモンドはカウンターのタイミングで左のアームハンマーを牛頭の首に見舞った。牛頭の身体がひっくり返り、思いっきり後頭部を強打する。
意識が朦朧とし始めた牛頭を無理矢理立たせ、レイモンドは大技を仕掛けた。数歩後ろに下がると、助走をつけ跳躍、牛頭の顔面にドロップキックを炸裂させる。
牛頭の巨体が吹っ飛び、放棄された自動車に頭から激突した。頭蓋骨が砕ける音が響く。顔中の穴という穴から血を噴出し、牛頭は息絶えた。
「相手の銃を鹵獲するときは、ちゃんと弾を確認するんだな」
そう言って、勇海はM686をスイングアウトさせ、空薬莢を排出する。
「あれ、最初から五発しか装弾してなかったのか?」
「マグナム弾は使い切った。仕方なくボディガード(M649)用の予備弾を込めていたんだ」
その説明だけでレイモンドは察した。
「あー、こいつ六発フル装弾していると思ったんだな。だからあと一発残ってると勘違いしたのか」
「ボディガードの方は五発装弾だからな。しかもバックアップだから予備は五発しか持ってきてない」
敵から武器を鹵獲する場合、必ずしも自分の望んだ通りの武器が手に入るとは限らない。牛頭は勇海のM686を使うのではなく、レイジングブルを拾うべきだった。最後の最後で判断を間違えた。これが敗因だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます