第46話 新幹線

 瑞菜の父親が眠る場所までは新幹線で移動になる。

 約2時間。

 新幹線での移動なんてしたことがなかったけど、今はなんでもパソコンで事前に予約なんかが出来て、スマホ1個で事足りる。

 時代は変わったなぁ……


「琉夜ー。お弁当どれにするー?」


 すでに買い物かごにはビールとチューハイが……

 新幹線の駅には弁当屋さんがあって各地の弁当が並んでいる。

 普段見慣れない弁当が並んでいて少し楽しい。

 

「あ……これ……」


 俺が手に取ったのは釜飯だ。はるか昔、親父が買ってきてくれて凄く美味しかった気がする。


「俺、これにする」


「あ、釜飯だー。美味しいよねー。わたしはー……よし! だるま弁当にします!」


 達磨だ……なかなかインパクトの強いパッケージをしておる。


「なんか、楽しいね。友達とも近場でしか遊ばないし、地元帰るのもいつも一人だから……」


「俺、友達いないからなぁ……」


「これから作ればいいのです。

 可愛い彼女いるんだからいいじゃーん」


 瑞菜は間違いなくはしゃいでる。

 なぜそう思うかというと、チューハイを更に追加しておつまみも買っているからだ。たしかに今日はこのまま宿へ泊まって寝るだけ。明日もお昼過ぎにお墓まりに行くだけだ。はしゃぎたくなるのもわかる。


「ぬるくなっちゃわない?」


「ああ、そっかー。だったら新幹線の中で買おう。そうしよう」


 うんうん言いながらチューハイを戻していく。

 こういうところは素直で可愛い。

 

 弁当を選び終わってホームで列車の到着を待つ。

 なんだかんだ言っても俺も少しワクワクしている。


「瑞菜の故郷ってどんなところなの?」


「故郷って言っても、私がまだ赤ちゃんだった時にこっちに来てるから記憶はないんだけどね。きれいなところだよー。冬は雪しか無いけど、今の時期だと涼しくて気持ちいいし、海も山も近いから食事は文句なし。宿もそれで選んでおります」


「食事は大事だね。うんうん」


 そんな話をしていると新幹線が到着する。実際に目の前で見る新幹線は人をドキドキわくわくさせる不思議な魅力がある。

 これに乗って今からスゲー早さで移動するんだぜー! っていう男の子的なワクワク感は心地良いものだ。


「わぁ……グリーン席って広いんだね……いつも普通席で行くから初めてかも」


「ごめんね、たくさんの知らない人は、まだちょっとだけ怖いから……」


 情けない話だが、まだちょっと人混み的なものは苦手だ。


「謝らないでよ~、むしろ全部出してもらってこんないい席に座れて感謝しかないです」


 芝居がかってお礼を言って茶化してくれる。瑞菜のこういうところには助けれている。

 嫌な話だけど、お互いにお金には困っていないので、お互いが奢るとか奢られるっていうことを気にしないことにしている。もちろん無駄遣いはしない。

 でも、使う時はちゃんと使う。そこらへんはお互いに価値観が近くて助かっている。


「いただきまーす。と、かんぱーい」


 少しぬるくなったビールで喉を潤す。

 新幹線で飲むと、なんだか味が違う気がする。ぬるくても美味しい。

 瑞菜を見るとにっこにこで達磨を解放している。

 俺も釜飯の包装をはがしていく。

 この陶器の器がいい感じ……捨てるのもったいないけど、こんな割れ物持ち歩けないよな……


 鶏肉、うずら、たけのこ、栗にごぼう、と干し柿? かな。

 お弁当のこのこちゃっとした賑わいはいつも心をワクワクさせる。


「優しい味だ。……なんか、懐かしいな……」


「わかる。なんだか懐かしい味」


 達磨弁当は中身もかなりぎっしりと詰まっていてインパクトある。

 煮物を肴に一杯やるとか瑞菜さんやりますねぇ。

 

「やっぱり、旅の時は駅弁よねー」


 お酒じゃないのかな? と思ったけど、ツッコミはしない。

 見える地雷を踏んだりはしない。

 まぁ、たぶん突っ込んでも、それも大事! って答えが返ってくるだろうけどね。


「あ、おねーさんレモンハイとグレープフルーツハイください!」


 気がつくと売り子の人が来て瑞菜さんが注文していた。

 この人、旅を楽しむ達人だ!

 キンキンに冷えたレモンハイは格段に旨い。

 窓の外の景色が中途半端な都市の風景から、のどかな田園風景に移り変わっていた。


「もう少しすると山が多くなってトンネル多くなっちゃうんだよねー」


「窓からの風景を今のうちに楽しんでおかなくちゃね」


 まぁ、気がついたら二人して寝てたんだけどね。


「終点で良かったね……」


「駅員さん、空き缶の量見て何とも言えない顔してたね……」


「ちょっとね、楽しくなっちゃったね」


「反省しようね……」


「ま、まぁ旅館は寝られるから楽しもう!」


「う、うん!」


 こうして、アホの子二人で駅からタクシーで旅館へと向かう。


「温泉、生まれて初めてだ……」


「そーなんだ! それは楽しみだね!」


 一眠りして、元気になった俺達は、だんだんとテンションを取り戻していくのでありました。


 


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